第2話 夏休み
それからほどなく、夏休みになった。
榊君や坂口君とは、たまに図書館で勉強する。
加奈ちゃんも含めての四人で、ファミレスでご飯を食べたり、ショッピングモールに行ったりもした。
榊君と坂口君はなにやら企んでいるようで、私たちの顔を見たらニヤニヤしていることもあった。
イヤな感じではなくて、友達の誕生日に内緒でサプライズ・パーティを用意している人たちみたいに、今は言えない楽しみでソワソワしている感じだ。
なんとなく、私までソワソワしていたけれど、疑問はほどなく解消した。
トイレに行ってちょっとだけ離れたときに、坂口君の小指に加奈ちゃんが自分の人差し指を絡めてるのを見てしまって、ふぁっ?! って驚いたのだ。
もう一回トイレに逃げ込んで、心を落ち着けてから戻ろうとすると、途中で榊君に捕獲された。
通信アプリで「帰って来いって連絡あったみたいだから、春野を家まで送ってくる」と打ち込んで、加奈ちゃんたちにふたりきりの時間をプレゼントしていた。
さすが、榊君。もしかしなくても、坂口君の恋のために声をかけてくれたんだと、今更のように気が付いた。
「春野の家ってどっち?」
「一人で帰れるから大丈夫だよ」
「いや、あいつらに春野を送るって宣言しといて、ここでサヨナラしたら、俺が非常に困る」
榊君、良い人だな。
私に負担がかからないような言い方してくれるし、本当に友達思いだ。
ジーンとして、家まで送ってもらった。
たまたまお父さんとお母さんもお休みで家にいて、私が男子と一緒に帰ってきたのでものすごく驚いていた。
榊君は両親につかまって、ちょっとだけリビングで根掘り葉掘り質問攻めにあっていたけれど、私が妹の入院している病院へ行かないの? って聞くと、ふたりともしぶしぶ立ち上がった。
そして、家まで送ってあげるよと言いながらお父さんが、榊君を拉致する勢いで車に押し込んで走り去った。
その様子はなんとなく、拉致監禁、という言葉がしっくりくる気がした。
ごめんね、榊君。
何を頑張ればいいか、私も良くわからないけれど、とりあえず頑張って。
その日、榊君と私の両親が、なにを話したのかはわからない。
だけど、お母さんは機嫌がよくなって、なんだかウキウキしている。
お父さんはボーッと考え込んだり、なにやら忙しそうに連絡をとったり、カレンダーを気にしたり、仕事以外にも何かあるらしく、ソワソワし始めた。
なんだか夏休みに入ってからの、榊君と坂口君の様子に似ている。
「なぁ、あの榊君ってのはバカなのか?」
「ちゃんと仕事してる大人で、眼科のお医者様なお父さんよりはバカだと思うけど、失礼だよ」
「ちょっと……あなたたち。二人とも、普通の高校生に対して、辛辣でしょ」
ある日、お父さんが変なことを言い出すから、私までお母さんに怒られてしまった。
ごめんね、榊君。と心の中で謝る。
お父さんは「アレが普通か?」と言いながらも、なんとなく納得したようだった。
「とにかく、節度を持ってお付き合いしなさい」
「うん。ただの友達なのに家まで送ってくれたり、親切だもんね。慣れてあたりまえだと思わないように気をつける」
私の言葉に、お母さんは動きを止めて、お父さんは絶望的な顔をした。
そうか、それならいいか。と小さくつぶやいていたけれど、なんだかおかしい。
どうしたの? って聞いたら、気にするなって言われたけど、気になるよね。
でも、ふたりとも何も言わずに黙々とご飯を食べて、無の表情になったまま、何も教えてくれなかった。
ほんと、どうしたんだろう? 変な二人。
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