虹色の夏

玉舞黄色

第一話

「明日から夏休み……」

 さっき終業式が終わり、僕は学校から家までの道を歩いていた。

 明日から夏休み。

 そうつぶやいても、あまりうれしくならない。

 去年までは、友達がいた。でも、今年は違う。

 去年の秋、突然両親から引っ越しすると告げられた。

 だから、引っ越すところに近い高校を受験した。

 でも、僕が地元の人じゃないからか、高校にはあまりなじめていない。

 それに中学のとき、部活に入っていなかったから、高校でも部活に入らなかった。

 それは、僕を孤立させる後押しをした。

 勉強もあんまりできないし、特技もない。運動もできないし、めがねだし。

 仕方ないのかな。

 いつしかそう思うようになった。

 このままじゃ夏休み、楽しめそうにないな。

 まだ始まってすらないのに、ため息が出る。

 そんなときにちょうど、家に着いた。

「ただいまー」

 家の電気は付いていない。が、僕の声に返事があった。

「おかえりーお兄ちゃん」

 僕は電気をつけダイニングに入ると妹の、あかりがソーダ味のアイスを食べていた。

「電気つけずにクーラーだけつけて、何やってんだ。というか、アイス食べすぎだろ!」

 アイスの棒が四本、あかりの前に並んでいる。

「だって、暑いんだもん。しょーがないじゃん」

 あかりは五本目のアイスを食べ終え、頭を抑えている。

「というか、昼ご飯は? あたしおなかすいたー」

「冷蔵庫にコンビニの冷やし中華があるってお母さんが言ってたぞ」

 僕がそう言うと、あかりは冷蔵庫の方へ歩いて行った。

 それを横目で見てから、僕は自分の部屋に荷物を置きにいった。

 二階にある僕の部屋に入ると、冷たい空気が僕を迎えた。

 朝、クーラーをわざと消さなかったのは正解だったな。

 冷気が漏れないように急いでドアを閉める。

 リュックを無造作に床に置いて、僕はベッドに寝っ転がった。

 はー、疲れた。

 今年の夏、暑すぎだろ。

 クーラーの風に直で当たりながら、目を閉じる。

 ……あかりは明るくなったな。

 去年と比べて家でしゃべる時間が多くなった気がする。

 きっと学校、楽しいんだろうな……

 はあ。

 僕は目を開け、今までの考えを忘れるように頭を振る。

 そして、ベッドから起き上がって大きな伸びをした。

 冷やし中華食べるか。

 僕は部屋から出て、ドアを閉めると階段を降りていった。

 下に行くとあかりは居なかった。

「おーい、あかりー、いるかー?」

 名前を呼んでも返事がない。

 まあ、あかりはしっかりしてるし大丈夫だろう。

 そう思って冷やし中華を取りに行くと、冷蔵庫に紙が貼ってあった。

 紙を読んでみると、「ちょっと外に行ってきます。一時間ほどで帰ります」と書いてあった。

 さすが、しっかりしてる。

 僕は安心し、冷蔵庫から冷やし中華を取り出して食べ始めた。

 冷やし中華を食べ終わると時計の針は一時を指していた。

 宿題でもするか。

 僕はコツコツ宿題をやるタイプだ。

 自分の部屋に行き、机に座って宿題をし始めた。

 一時間ほどたって宿題をするやる気がなくなって僕はベッドに横になった。

 そしてめがねを外して枕に顔を埋める。

 ああ、もう動きたくない……

 目をつぶって寝ようとする。

「お兄ちゃん! 入るよー」

 が、残念ながら至福の時間はまだ先らしい。

「……どうした、あかり。なんかあったか? なにもないなら出て行ってくれ。あと、冷気が外に出るからドア閉めて」

 僕は寝転がったまま、あかりを帰らせようとする。

 するとあかりが部屋に入ってドアを閉めた。

「ねえねえ、お兄ちゃん。いっしょに冒険に行こう!」

 ……なんか変なこと言い出したな。

「ねえ、お兄ちゃん! 耳を塞がないで! ねえ、いっしょに外に行こうって言ってるだけなの!」

 あかりが僕の上に乗ってきてベッドを揺らす。

「おい、上に乗るな。ベッド揺らすな。……わかったわかった、明日行く。行くから」

「ほんと? 絶対に? 絶対に行くよね? 約束破ったらお兄ちゃんのアイス全部食べるから!」

 そう言って、あかりは部屋から出て行った。

 というか、僕のアイスはさっき全部食べられてた気がするが。

 まあ、とりあえず寝よう。

 僕は再びまぶたを閉じた。


「お兄ちゃん、晩ご飯だよ。ねえ、お兄ちゃん! 起きて!」

 僕は、あかりの言葉で目を覚ました。

「なんだよ、あかり。というか、今何時?」

 僕はめがねをかけて、あくびをした。

「七時だよ! 七時! あたしもうお風呂も入ったよ! お兄ちゃん、寝過ぎ!」

 あれ? 七時?

 寝始めたのは二時ぐらいだっけ……

「五時間も寝てたのか……」

 道理で口の中がパサパサなわけだ。

 うう、水飲みたい。

 ベッドから降りて下に行こうにとすると、あかりがドアの前で立ち塞がった。

「どうした? 水飲みたいからどいてくれ」

 僕が乾いた声で言うと、あかりは僕の顔を見上げる。

「……じゃあ、今日言った約束は守る?」

 あかりが不安そうに聞いてくる。

「行くって言ってるだろ? というか、何でそんなに行きたがるんだ?」

 あかりは僕の問いには答えずに、先に部屋から出て行った。

 何だったんだ?

 僕は疑問に思いながらも、続いて部屋を出た。

 晩ご飯を食べている間、あかりは何もしゃべらなかった。いつもはよくしゃべるのに。

 お母さんとお父さんもそれに気づいたのか、積極的に話を振っていた。

 晩ご飯を食べた後、あかりはすぐ寝ると言って歯を磨きはじめた。

「おやすみなさい」

 そして、鼻歌を歌いながら階段を上っていった。

 そんなあかりに対して、僕は昼寝をしたせいで全く眠くなかった。

 長風呂を終え、アイスを食べながら僕は時間がたつのをぼーっと待っている。

 お母さんたちも寝室へ行き、一階には僕だけが残された。

 チラチラ時計をみながら、眠くなるのをじっと待つ。

 十二時になってやっと睡魔が襲ってきた。

 よし、寝よう。

 僕は一階の電気を消し、自分の部屋へと向かう。

 スースー。

 あかりの部屋から寝息が漏れていた。

 明日、なにがあるのか。

 僕は自分の部屋の電気を消して、めがねを外す。

 そしてベッドに横になるといつの間にか眠っていた。

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