第28話公爵視点3


「国王陛下はたった一人の弟が可愛いのでしょう。公爵に現状を理解させることもなく無責任な言葉で思考を停止させてしまった。一国の為政者ではなく兄の立場を取った。知っていますか?公爵。この国はもうずいぶん前から国際的に孤立し始めていた事を」


「え?」


「その様子からして御存知なかったようですね。まぁ、無理もない。公爵は主に内政を取り仕切っていましたし、外交面は王家が主導してましたから。たかだか女一人。この国で頼る身内のいない弱い立場の女性をに仕立て上げて、愛人との暮らしを満喫していらっしゃったのですから」


「殿下、お言葉が過ぎるというもの」


「まぁ、仮面夫婦は多いです。公爵が妻をどういう扱いをしていたとしてもそれは家庭内の問題として誰も気に留めなかったでしょう。神殿に虚偽の報告をあげなければの話ですが」



 そこまで言うと踵を返して去って行く王太子の後ろを黙って見送るしかなかった。


 王太子の言った通り、現在、この国は非常に厳しい立場に置かれている。


 理由は一人の女性が原因だ。

 それが私の亡き妻。

 

 彼女が国際的に知名度がそれなりにある絵師だとは知らなかった。


 結婚してから暫くして知った。

 

 数年前に亡くなった。

 今、世間では彼女は殺されたと噂されている。

 全くの出鱈目だというのに。

 さも、王家に、私に殺されたかのように噂が流れている。

 事実無根だ。


 火葬したのがいけなかったのか?


 血を大量に吐いて亡くなったのだ。

 何かの感染症と疑っても仕方ないだろう。

 遺体をそのままにしておくことはできなかった。


 兄上と相談して「消毒」した。

 彼女が住んでいた離宮も全て焼き払った。


 まさかそれが神殿から隠蔽工作だと疑われるとは。


 それだけではない。

 ミリアリアの実家が横領していた事が発覚した。最悪な時期に最悪な展開だった。横領したのは彼女の弟だというから余計にだ。


 その他には神殿のメスが入り、色々な問題が表面化していった。



 数年後、国として成り立たなくなった我が国は、とある帝国の属国となり生き永らえることになる。




 帝国の要求の一つが私の幽閉だった。


 私一人が犠牲になるのなら喜んで幽閉されよう。

 幽閉先の離宮は何処かで見た覚えがあった。



「すまない」


「兄上、そんなことを仰らないでください」


「良かれと思ってしたことがこうも裏目にでようとは……」


「私は幸せでした。兄上の弟として生まれ、愛する女性と結ばれて息子を授かった。諦めていた全てのものを兄上が取り戻してくださった。感謝しています」


「レミーオは南に向かった。お前の近況を報告しているが、この国に戻る事はできないだろう」


「分かっています。兄上、ミリアリアは?」


「…………彼女なら大丈夫だ。侯爵家が潰れる前に他家に嫁ぐことができた」


「そうですか。よかった」


「本当に良かったのか?正式に結婚して一緒に暮らす事はできたのだぞ?」


「この離宮で生活させるのは酷です。いつ出られるか分からないというのに」


 この森のような場所にポツンと建つ館。

 最低限の使用人たち。

 訪れる者は帝国の許可がいる。


 祖国をスキャンダルに塗れさせ果ては属国に貶めた男には似合いの末路だ。


 それでも、大切な者は守れた。


 最愛の恋人、そして息子を――――


 私は満足だ。



 六年後、死ぬまで閉じ込められたままだと思った幽閉期間が終わった。長いのか短いのか判断がつかない期間だ。ただ、その年数が私と妻との結婚年数であった事に気付いたのは大分後の事だった。



 


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