第55話 アラーム

 鷹見の纏う空気が一変した。

 周囲にバチバチッと激しい音が鳴り響き、奴の髪の毛が逆立つ。


(これは……まさか)


 俺は警戒を強める。

 その瞬間、鷹見の姿が消えた。


 ――いや、違う。


「はあッ!」

「――――!」


 鷹見の雄叫びとともに、俺の目の前に奴の姿が現れた。

 そのまま怒涛の連撃が襲いかかってくる。

 その速度と勢いは、先ほどと比べ物にならない。


 俺は紙一重での回避を続けながら、頭の中で状況を分析し、突然これだけの動きが可能となった理由を見抜いた。

 

「――【迅雷活性じんらいかっせい】か」


 【迅雷活性じんらいかっせい】。

 それは上級魔術適性(雷)を有する者が発動できる身体強化魔術だ。

 電気信号を操り、筋肉に直接作用することで、通常の身体強化とは比べ物にならない程の効果を得る。

 体力と魔力を大幅に消費してしまうが、それだけの恩恵がある力だ。


 俺の言葉に、鷹見の目が驚きに見開かれる。


「よく知っているな。だが、今さら手遅れだ!」


 怒涛の連撃は止まることを知らない。

 俺は全神経を集中させ、僅かな隙間を縫って避け続ける。

 しかし突如として、鷹見の攻撃の軌道が変わった。

 俺自身を狙うのではなく、手に持つグラムに矛先が向けられたのだ。


「む」


 薙ぎ払いによってグラムは弾かれ、鷹見はそのまま槍でグラムを抑え続ける。

 そして、空いた右手を俺に向けた。

 武器がない状態で何をする気か――そんなこと、考えるまでもなかった。


 迅雷活性を使用できる時点で、鷹見が雷属性の使い手であることは間違いない。

 すなわち、これは――


「喰らえ――【地を割るエクスプロード・落雷サンダー】!」


 鷹見の咆哮とともに、巨大な雷が俺めがけて襲いかかる。

 だが、俺も黙ってやられるわけにはいかない。


「【超越せし炎槍アルス・フレイム】」

「――――ッ」


 瞬間構築した【超越せし炎槍アルス・フレイム】で対応。

 俺の手から放たれた炎の槍が、鷹見の雷と激突する。

 耳をつんざくような轟音が響き渡り、ギルド全体が激しく揺れる。

 衝撃波によって、俺も鷹見も後方に吹き飛ばされた。


「うおおおお!?」

「きゃぁあああ!」

「なんって火力だよ!? ギルドが壊れるんじゃねえのか!?」


 ギャラリーの声が響く中、俺は笑みを浮かべ鳴海に視線を向ける。


(今のはなかなかだったな。直撃していたら、この俺でもやられていたかもしれん)


 至近距離での発動だったため、【超越せし炎槍アルス・フレイム】変数を射程距離から火力に移行したのが功を奏した。

 それによってレベル100を超えるという鷹見の上級魔術と相打ちまでもっていけたのだ。


 対して、鷹見は戸惑いの表情を浮かべている。


「まさか、今の一撃すら防がれるとはな……だが、これならどうだ!」


 鷹見の槍の穂先が眩い輝きを放つ。

 槍術スキル発動の前兆だ。

 穂先一点に魔力が込められていくあの現象、間違いない。


(――【天衝牙てんしょうが】か)


 【天衝牙てんしょうが

 それは先ほどの連撃技【連波槍れんはそう】とは真逆の、一点突破型の必殺技。

 ただでさえ厄介な技だが、さらに奴が装備している【穿空せんくう】の貫通効果を加えれば、どんな装甲相手でも貫くほどの火力を生み出すに違いない。

 問題があるとすれば命中率だが……


「神速の一撃を以て、お前を倒す! 降参するなら今のうちだぞ!?」


 鳴海の纏うオーラが一層膨れ上げる。

 【迅雷活性】の出力を最大まで高めることで、神速の突撃を試みようとしているのだろう。


「――面白い」


 俺は思わず笑みを浮かべる。

 回避に徹することもできるが、これだけの攻撃を避けるなんてもったいない。

 俺もまた、自身の持つ最大火力の一撃を以て対応しようと構える。


「…………」

「…………」


 俺と鳴海が間合いを計り、緊張のボルテージが最高潮に達しようとした、次の瞬間だった。



 ピーッ! ピーッ! ピーッ!



 突如として鋭いアラーム音が辺り一帯に鳴り響く。

 俺も鷹見も、そして周囲のギャラリーも一斉にその音源を探した。


「なんだ!?」

「何が起きた!?」


 全員が困惑する中、機械的な音声がギルド内に響き渡る。



『イレギュラーダンジョンが発生しました。Cランク以上の探索者の方は、対処に当たってください。繰り返します、イレギュラーダンジョンが発生しました――――』


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