第38話 隠しエリア【血濡れの暗界】



 ――【ガレリス中級ダンジョン深層】――



 その後、深層を進むこと1時間。

 60レベル前後のモンスターを何体か倒したことで、俺のレベルは52→54に上がっていた。



――――――――――――――――――――


 神蔵 蓮夜 20歳 レベル:54

 職業:なし

 攻撃力:182

 耐久力:174

 速 度:186

 魔 力:198

 知 力:198

 スキル:上級魔術適性(火)Lv5、魔力凍結Lv3、鑑定


――――――――――――――――――――



「ついたか……」


 ちょうどレベルが上がったタイミングで、俺は目的地にたどり着いた。


 ダンジョンの隅にある、50メートル四方の開かれた広間。

 一見しただけでは何もない空間に見えるが、ここには隠されたギミックが存在し、それをクリアすることで隠し扉が出現する。

 なかなか面倒なギミックでもあるため、まだ攻略はされていないと踏んでいたのだが……


 予想外なことに、広間の奥には既に隠し扉が姿を現わしていた。



「これは驚いたな、既にこのギミックをクリアした奴がいるのか。なかなか面倒な条件だったろうに……」

『どのような条件を設定していたのですか?』

「ああ、それはな――」



 ギミック名【血濡ちぬれのうたげ】。

 その内容は、24時間以内に広間内でモンスターを100体討伐することで隠し扉が出現するというもの。

 ちなみにこの広間内では魔物が湧き出ることはないため、別のところから連れてくる必要があり、結構な手間がかかるのだ。


 事前にネットで調べたところ、既にそのギミックが見つけられたという報告はなかった。

 そのため俺がこれからモンスターを誘き寄せ、100体討伐するまでの耐久戦を行おうと思っていたのだが――


「――既に攻略者がいたというわけだ」


 そこまでの内容を、俺は簡潔にグラムに伝えた。



『なるほど。しかしこちらの世界では情報を共有するのが一般的なのですよね? なぜ報告がなかったのでしょう?』

「さあな。情報を提供して得られる報奨金より、隠しエリアにある報酬を優先したとか、その辺りだろう」



 それ自体は探索者シーカーとして当然の判断なので気にするところではない。

 問題があるとしたら二つ。

 いつこのギミックが解かれたのか、そしてこの奥にいる隠しボスは既に倒された後なのかだ。

 この隠しエリアで得られるスキルは貴重なため、できればまだ倒されていないと助かるんだが……


「いずれにせよ、直接この目で見る他ないか」


 そう結論を出した後、俺は隠しエリア――【血濡れの暗界】に足を踏み入れるのだった。



 ――【ガレリス中級ダンジョン深層 隠しエリア:血濡ちぬれの暗界あんかい】――



 隠しエリアといえば、まず思い出せるのは【氷風ひょうふう雪原せつげん】。

 あそこは一面に真っ白な雪が広がるフィールド型エリアだった。


 しかしここは一般的なダンジョン内と変わらず、入り組んだ洞窟型エリアとなっている。

 ただし魔光量がやや少なく、その影響でどこか暗い雰囲気となっている。


「さて、状況把握もほどほどに、さっそくボスのもとに向かうとするか」


 そう呟いた後、俺はモンスターの襲撃を警戒しながら歩を進めていく。

 しかし、


「おかしいな、あまり襲われないぞ」


 この隠しエリアに出現するモンスターのレベルは今の俺より高いはずだし、普通なら何体も襲ってくるはず。

 だというのにこの状況は、少々違和感がある。


 俺が警戒していると、グラムが突然『主様!』と話しかけてくる。



『その理由は簡単です! 主様からあふれ出す偉大な漆黒のオーラに恐れをなしているからでしょう! その強大さに気が付けば、手を出そうなどとは思いませんよ!』

「……そういうお前は、そのオーラとやらに気付かず全力で敵対してきたよな?」

『えっ!? い、いえ、それはあの、少し行き違いがあったと申しますか……あ、主様! 何やら向こうから音が聞こえませんか!?』



 なんて下手な誤魔化し方なんだと一瞬思ってしまったが、耳をすませば確かに奥からキンキンキンと、戦闘音のようなものが聞こえてくる。

 どうやら先約がいるみたいだ。


「あっちか」


 音の発信源にまで近づいた俺は、壁から顔を覗かせるようにして様子を疑う。

 すると――



「さあ! リスナーのみんな、見てる!? ことみんの必殺技、いっくよ~!」



 ――ぷかぷかと空中に浮かぶ不思議な機器に囲まれながら、華麗に剣を振るい、コウモリ型の魔物と戦う金髪ロングの少女がいたのだった。

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