第二十話 覚悟ガンギマリ集団

 超ミニミニスライムを、時間をかけてゆっくりとアジト内に忍び込ませたのだが……


「とんでもない厳戒態勢だな」


 そう言う俺の視線の先には、大勢の”祝福ギフト無き理想郷”の構成員が、ゴキブリみたいにうじゃうじゃ居た。

 全員黒っぽい服で統一されているせいで猶更だ。


「しかも奴ら、なーんか危ないお薬やってそうだなぁ……」


 不自然なまでに盛り上がった筋肉、開いた瞳孔、浮き出た血管。

 普通じゃないのは、一目見て明らかだ。


「完全に、捨て駒にされてるな。まあ、1日持ちこたえれば勝ちだし、これくらいならするか……」


 捨て駒のように人を使う所業には反吐が出るが、奴らならやりかねないと思い直すと、さっさと行動に移る。


「まあ、判断力が普段より低下しているっぽいから、何とかなるな」


 危ないお薬定番の副作用――判断力の低下。

 それを、キルの葉程では無いが受けていると判断した俺は、奴らの視線をよく観察しながら、慎重に、時に大胆に先へと進んでいった。

 そうしていると、やがて見えて来る下へと続く階段……だが。


「わあ、完全に塞がれてる……」


 なんと、そこは石板で完全に塞がれていたのだ。

 厄介だな……奥に居たスライムは皆撤退させてしまっているせいで、”召喚”を駆使して中へ超ミニミニスライムを放り込むことも出来ない。


「……ただ、物理的な結界じゃ無くて、石板だったのは好都合だな」


 これなら、何とかなる。

 そう判断すると、俺は超ミニミニスライムの下へ溶解特化の変異種スライムを”召喚した”そして、石板の隅――ぱっと見では分からなさそうな場所にあるくぼみに入って貰うと、そこから石板を溶かすよう命じた。

 すると、やがてシューっと小さな音を立てながら、少しずつ少しずつ石板が溶けていき、直径5センチ程小さな穴が、下へ下へと伸びて行った。

 そして20分後、下まで貫通したことを変異種スライム経由で確認した俺は、変異主スライムを元居た場所へ戻してから、超ミニミニスライムに視覚を移した。


「さて、多分幹部がいるんじゃないかなぁ……」


 そんな言葉を呟きながら。

 俺は穴の中へと飛び込んだ。


「……まだ、人は居ないか」


 眼前に見えるのは、物理トラップと魔法トラップが混在した広間だった。

 人の気配は無い。まあ、普通に考えたらここには入れないか……


「……で、まあここは普通に超ミニミニスライムで進むか」


 そう言うと、俺は念の為壁伝いに、超ミニミニスライムを先へと進ませる。

 ここの突破に関してだが……普通に考えて、超ミニミニスライムに反応する訳が無い。

 それで反応しようものなら、小さな石の欠片がコロッとしたり、ちょっと大きめの埃が入り込んだだけで発動するんだぜ?

 それだと突入の際、簡単に無効化されてしまうじゃないか。

 それじゃあ罠の意味が無いってもんだ。


「……よし、突破。さて、次には何があるのやら」


 10分程かけて突破した俺は、奥に続く通路へと入り、先へと進む。

 すると、遂に――


「……見つけた」


 俺はボソリと、なるべく視線を向けないように気を付けながら、前方に居る3人を見やる。


「……ザイール。調子はどうだ?」


「ああ。まだ少し本調子じゃ無いが、十分戦える。生き返らせてくれた”主”の為、命を賭してこれから始まるであろう戦いに挑む所存だ」


「おー男前じゃん。ザー君。子供に負けたく・せ・にっ!」


「テメェ……。お前だって、グーラと2人がかりで仕留めそこなったじゃないか」


「ボロ負けしたザー君が言っても、負け犬の遠吠えにしか、聞こえな~い」


「都合のいい頭しやがって……」


 そこにはいがみ合ってる様で、案外仲がよさそうに見える3人の幹部の姿があった。

 いや、幹部が居るのはいい。

 だが、何故ザイールが生きているんだ?

 あの時、確実に殺した筈だぞ……?


「……敵の言葉を鵜呑みにしたくは無いが、まさか本当に生き返ったのか?」


 ありえない。死者蘇生なんて、やれる筈が……


「だが、敵の首魁は漆黒の魔法師ノワール。制限付きとは言え、自らを寿命の楔から解き放った奴なら、やれなくは無さそうだ……」


 そうなると、他に殺した幹部も生きている可能性が出て来るな。

 ……いやでも、動かせるのであれば物資搬入の時にわざわざ動かさない理由なんて無いし、何らかの条件を満たさないと蘇生できないのかもしれない。

 そう思っている間にも、彼らは話を続ける。


「いやー負け犬君の話は置いといて……とうとう、始まったねぇ……」


「……まあ、いい。そうだな。始まったな」


 途端に感傷的になって呟くネイアの言葉に、ザイールは何か言いたげな表情をするも、やがて同じような表情で頷いた。


「ああ、そうだな。ここまで来れば、後は詰めるだけ。”主”を信じ、思いを託すだけ。今日か明日が、命日だと思っていろ」


「命日ねぇ……まあ、私は1人でも多くの糞野郎どもの命をぐちゃぐちゃに出来れば、それでいっかな~」


「俺は、既に死んでいるようなものだからな。もう、惜しくは無い」


 あ、やべぇ。こいつら、なんか覚悟ガンギマリなんだけど。

 Aランク冒険者クラス――そしてSランク冒険者クラスの実力者が、命を捨ててでも戦おうとしている様子を見て、俺は内心「普通にこっちもヤバいだろ……どしよ」と思い、悩むことになるのであった。

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