第七話 迷宮紅水晶
オークの群れを掃討した後も、次々とダンジョンが生み出した魔物が襲ってくるが――俺たちによって特に苦戦する事なく撃破されていく。
そうして進んで行き、事前知識的からして第二階層もそろそろ終わりかな〜と思い始めていた頃のことだった。
「……お、あれは――」
辺りを見回しながら進んでいたゲイリックさんが突然立ち止まったかと思えば、小走りで壁際へと向かって行った。
どうしたんだ……と不思議に思いつつも、他の”炎狼の牙”の面々と共にゲイリックさんの後について行ってみる。
「見ろ!
ゲイリックさんは駆け寄ってきた俺たちの方に向き直ると、自分の足元を指差す。
言われた通り、指が指し示す先を見てみると――そこには窪みに隠れるようにして、血のように赤い水晶が3つ、
「へぇ……これが
俺は3つの
第十階層まで潜って、1つも見つけられないことの方が多いと小耳に挟んだことがある。
それで、肝心の売れるかどうかだが……まあ、大きさにもよるが、ここにある長さ20センチ程のやつなら、1つあたり銀貨4枚と言ったところだ。
つまり、3つなら銀貨12枚。セルで答えれば12万。中々の収入になる。
すると、ゲイリックさんが俺に視線を向け、口を開いた。
「よし。シン。ツルハシは持ってるか?」
「いや、持ってない」
ゲイリックさんの問いに、俺は目尻を下げて答える。
そう。元々は――と言うか今もそうだが、今回はダンジョンに慣れることを目的に来たのだ。故に、そういった物は持って来ていない。事前情報からも、まさか1回目の探索で
リュックサックの中は一杯だし、
……ん? そういや何でゲイリックさんは俺にツルハシを持っているのか聞いたんだ?
この状況で俺に聞く意味なんて無い筈だが……と疑問に思っていると、その疑問に答えるようにゲイリックさんが口を開いた。
「なら、これを持て。試しに1つ採掘してみろ」
そう言って、ゲイリックさんは背中のリュックサックからツルハシを取り出して、俺の前に差し出した。
なるほど。どうやらゲイリックさんは、俺に
「いいのか? これ、失敗したらマズいって聞くんだけど……」
ツルハシを受け取った俺は、不安げに
あれ?違ったっけ?……と思わず首を傾げるが、どうやらそれは間違いでは無かったようで、ゲイリックさんは「その通りだ」と頷いた。
「じゃあ、何で初心者の俺にやらせるんだ? 結構な金がパーになる可能性だってあるのに……」
「ん? まあ、そりゃそうだが、今回の探索。お前のお陰で結構順調なんだ。その見返りとでも思ってくれ。それに、流石に3つ全部俺らが取るのは、なーんか良心に刺さるんだよなぁ……」
そう言って、おどけて見せるゲイリックさんを、他の”炎狼の牙”の面々は、「やっぱりお人よしだなぁ。この人」と、暖かい目で見ていた。
「分かった。やってみるか……」
幸いなことに、
「確か、この辺だったかな……」
俺は本で得た知識を参考に、ツルハシを振り下ろすべき場所を正確に確認していく。
……よし。この大きさなら、根元の……大体この位置だったな。
後はいい感じに振り下ろせば、綺麗に採掘出来る。
そう思い、ツルハシを振り上げた――直後、ゲイリックさんから待ったがかかった。
「やろうとしているとこ止めて悪いな。だが、このままだと失敗すると分かってて、やらせるのはあれだからな」
「失敗する……? 割と教本通りの動きだと思うんだけど……」
どこか記憶違いがあったのか?と思い、記憶を再び呼び起こそうとしていると、ゲイリックさんが首を横に振った。
「いや、ちゃんと学んでいる奴の動きだった。だが――それだと駄目だ。ちょっと教本通り過ぎたな。冒険は臨機応変に、だ。ほれ、ちょっと教えてやる」
そう言って、ゲイリックさんは膝をつくと、ツルハシを持つ俺の手を、背後から優しく握りしめた。突然のことに目を見開くが――直ぐに冷静になると、次の言葉を待つ。
「まず、今回の
ゲイリックさんはツルハシを掴む俺の手を動かして、小さくコンコンと
「あと、シン君の場合はちと力が強すぎるな。もうちょっと弱くていい」
そう言いながら、ツルハシを振り上げ――そして振り下ろした。
パキッ――
直後、
「ほら、こんな感じだ。つーわけで、残りもやってみるがいい。あ、流石にシン君が持ってっていいのは1つだけだからな」
そう言って、大仰に笑うゲイリックさんを背に、俺は久々に心から、子供らしい笑みを浮かべるのであった。
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