第2話 エピローグ2 閻魔様の前で前世のいじめを思い出しました
私は夢の中で過去の自分を見ていた。
私は30すぎの、本当に目立たない女だった。
朝早くから夜遅くまで働いていたら、気がついたら死んでいた。
仕事しすぎて朝起きてみたら死んでいた、といういわゆる過労死というやつだ。
まあ、会社がご多分に漏れずブラックだったので仕方がなく……は無い!
どういう事?
結局何もせずに死んじゃったじゃない!
まあ、あのまま生き続けたとしても、何か出来たとは到底思えないけれど……
でも、育ててくれた親には悪い事をしたと思う。
そして、今は、閻魔大魔王様の前で、天国に行くか、地獄に行くかの判決の順番を待っている。
遠くから見るに、心なしか閻魔大魔王様はとてもお疲れのようだ。
今も目の前で、子供の頃にいじめで同級生を自殺させた女が、私は何も悪くないと、ゴネている。
死んだのはその子の心が弱かったからだと。
「そうじゃの。そういう風にも言えるの」
閻魔様は疲れているからか、いい加減に答えていた。
「えっ、じゃあ、私は天国に行けるのね!」
その閻魔様の返事に女は喜んだ。
「わしの心情としては行かしてやりたいところだ」
「やったー!」
閻魔様の回答にいけ好かない女は飛び上がって喜んでいた。
私はムッとして閻魔大魔王を睨み付けた。
この女がいじめていたことなんて、この加害者の女からしたら大したことがなかったかも知れない。だが、いじめられた本人に取っては、生き続けられないほどの大問題だったのだ。
私も中学生の頃、いじめられて自殺しようと思ったことがあったのでよく判る。
私が中学二年生の頃だ。
私が虐めに疲れて校舎の屋上でぼうっと下の地面を眺めていた時だ。
いきなり気の強そうな子がつかつか私に向かって歩いてきたのだ。
「ちょっと、そこのあなた? どうしたの? 今にも死にそうな顔しているじゃない!」
私はその勢いに、思わず逃げ出しそうになったが、ここは屋上で、後ろは何もない。
慌てた私は思わずバランスを崩して落ちそうになったのだ。
「危ない!」
その子は私を抱きしめて、落ちるのを防いでくれた。
「何て事をするのよ!」
女の子は私に怒りだしたんだけど、いやいや、今、あなたがいきなり迫ってきたから落ちそうになったんじゃない!
私は心の中で文句を言った。
でも、その後、女の子はにこりと微笑んで、思わずこちらがホロリとしそうな笑顔を浮かべてくれたのだ。
「さあ、何があったのか、このお姉さんに話してごらん!」
この女の子は絶対に天性の人たらしだ。
その落差に思わず私はペラペラといじめの事を話していたのだ。
新学年になってからクラスが同じになった山田さんらから無視されるようになったこと。それがどんどんエスカレートして教科書隠しに始まって、掃除当番を一人でやらされたり、ノートが破られたり、ラインに悪口書かれたりともう散々だった事。担任は忙しいのか、見て見ぬふりをしていることなどを話しだしたら止まらなくなった。
「そう、判ったわ。苦しかったわね!」
その女の子は私の肩を抱いて、慰めてくれたのだ。私は泣きそうになった。そのまま何もなければ、その子の胸の中で泣いていただろう。
でも、その子の次の行動で涙は吹っ飛んでしまった。
「その担任のカバ田、許せないわ」
なんと、その子は私の手を引くなり、そのまま職員室に乗り込んでくれたのだ。
いや、待って、私は大事にしたくない!
私の心の声は当然無視されたが……
「カバ田先生! あなた、この非常事態に何、のほほんとしているんですか?」
その女の子は職員室の扉をがらりと開けると、あくびをしていた私の担任の先生を見つけ出すなり、いきなり食って掛かったのだ。
「誰がカバ田だ! 俺は塚田だ。貴様は隣のクラスの町田だな」
確かに塚田先生はカバに似ているけど、この町田さんはそれを面と向かって本人に言うなんて、なんて子なの!
私は唖然とした。
「何言ってるんですか? 先生がクラスのいじめを放置していたせいで、今、この子が屋上から飛び降りようとしていたんですよ!」
ええええ! 私はまだ自殺しようとはしていない。地面をぼうっと見ていただけなのだ。それに落ちそうになったのはあなたがいきなり迫ってきたからだし……
「な、何だと、藤崎、本当か?」
私の心の言葉は全く聞こえずに、カバ田先生は飛び上がって私を見た。
「いえ、そこまでは……」
そもそも、私はこの子のせいで落ちそうになったのだ。
私が話そうとしたのを強引に町田さんは止めると、
「私が無理やり柵を越えて、止めなかったら、この子が自殺していたんですよ。
いじめを放置していた無能教師というレッテルが貼らされるのを命をかけて阻止してあげたこの私に対して、それが態度ですか?」
「いや、それは……」
カバ田先生はたじろいだ。
いや、私を驚かせて校舎の上から落としそうになったのは町田さんなのに、話しが更に大きくなっている。私は青くなった。
「直ちにいじめをしていた連中をここに呼んで下さい!」
「えっ!」
私は唖然とした。そんな事したら、後で仕返しが怖い。それでなくても私は虐められているのに!
でも、私はこの町田さんにも絶対に逆らえなかった。この怒髪天で怒り狂っている町田さんに逆らえる奴が居たら、お目にかかりたかった。
「いや、まあ、それは双方の言い分を聞いてだな」
町田さんの言葉にカバ田先生は慌て出した。
「はああああ!」
町田さんは思いっきり、カバ田先生を見下していた。
「あなた、今、いじめを抑えられなかった殺人教師としてマスコミにめちゃくちゃ叩かれそうになったのを、私が防いであげたんですよ! その私の言うことが聞けないと言うのですか」
「いや、それは」
「ちょっと落ち着きなさい! 町田さん」
隣の担任の田中先生も出て来て、慌てて町田さんを止めようとした。
しかし、それは却って逆効果だったのだ。
「ああ、もう、良いです! 校長先生!」
「えっ」
「いや、ちょっと」
先生二人が蒼白となるなか、怖いもの知らずの町田さんは遠くでこちらを眺めていた校長先生まで呼びつけて、脅しだしたのだ!
生徒のいじめを放置して自殺させた校長が、どのようにマスコミに追われて散々悪く書き叩かれて、教育委員会からも左遷されて悲惨な人生になるか、もう微に入り細に入り延々と話し出したのだ。
もう校長もたじたじだった。
町田さんの事は後で聞いたのだが、この市の教育委員長の一人娘だったそうで、校長もあまり強く言えなかったそうなのだ。
なんと町田さんは、並みいる先生方の前で、私を苛めていた面々を呼び出させたのだ。そして、私が自殺していたら、マスコミから街中の井戸端会議まで、あること無いこと書かれたり噂されたりして、この市の中にいられなくなるのはもちろん、両親は失職、あんたらのせいで各地を転々として隠れながら生活していかないといかなかったのよ!
とさも見て来たように延々と話して聞かせたのだ。
苛めていた奴らも町田さんの剣幕に蒼白になっていた。
「そんなことも知らずに、あなたたちは藤崎さんを苛めていたの?」
町田さんは苛めていた奴らを見下して言いきったのだ。
「私がその腐った根性を鍛え直してあげるわ!」
その町田さんが決めた罰ゲームが、早朝の公園の掃除だった。
「何で私達がそんなことをしなければいけないのよ」
私を虐めていた中心人物の山田さんは不満そうに反論したのだ。
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さて、町田さんに反論した勇気ある? 無謀な! 山田さんの運命や如何に?
続きはどんどん更新予定です
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