9輪目【本当の物語は今此処から始まる】

 あたしの親友ひなは、ちょっとませた小学生だ。


 ひなとはオンラインゲームで知り合い、今ではSNSでも交友を深めている。

 いつものように一緒にオンラインゲームをしていると、今日は突然こんなことを言われた。

「ねぇ、わたしたち、知り合って結構経つじゃん? お互い住んでいるところも近いみたいだし、今度会ってみない?」

 そう言われて、嬉しい反面、正直ギクリとした。

 あたしはひなと会いたい。

 でも、今後も仲良くして行くなら、多分、会うのはやめた方が良い。

 ひなの思い描くあたしのイメージと、実際のあたしは違うから。

 あたしはやんわりとそれを伝えた。

 しかし、ひなは『わたしたち親友でしょ! どんなりんこでも受け入れるよ!』と怒り、結局会うことになってしまった。


          *


 そして、オフ会当日。

 お昼すぎの人通りが多い賑々しい駅前。

 ひなとの待ち合わせ場所は、駅前のダチ公像前になっている。

 あたしは事前に伝えておいたふりふりレースが特徴の、可愛らしいロリータファッションで、ひなの到着を待つ。

 ……しばらくして、目の前に同じロリータファッションの小さな女の子が現れた。

「もしかして、りんこ?」

「うん……。あなたはひな?」

 あたしが聞き返すと、ひなは大きく頷いた。

「一応初めまして、だね」

 そう言って笑うと、ひなは少し身長の高いあたしに、ぴょんと跳ねるように近付き、ハグをする。

 鼻孔をくすぐる甘い香りに当てられ、意識がフワっと浮きそうになるが、あたしも遅れてひなを抱き留めた。

「りんこ、わたしのイメージ通りだよ」

「そういうひなもあたしのイメージ通り」

 ひなの言ったイメージ通りという言葉に少しちくりとしながらも、お人形のような可愛らしいひなにあたしも同じ言葉を返した。

「今日はたくさん楽しもうね!」

 あたしの不安など掻き消すかのように、ひなの甲高い声があたしのハートを直撃する。

(アニメ声って言うのかな、こういうの。可愛い……)

「ん!」

「えっ、何?」

「……手!」

 小さな唇を結びながら、ぷくっと頬を膨らまして、手を差し出すひな。

「あっ、ごめん!」

 差し出された手を、あたしはギュッと握る。

「よし! じゃあ、行こう!」

 上機嫌なひなに先導されて、あたしは、今日を目一杯楽しもうと思うのだった。


          *


 すっかり日も暮れて、時刻は夕方になった頃。

「今日は楽しかった!」

「あたしもだよ」

 お互い満面の笑みで言葉を交わす。

「りんこ、また会おうね!」

 あたしは『もちろん』と言い掛け、口ごもる。

 もちろんあたしもまた会いたい。

 ……けど、

「……りんこ?」

「実はあたし、ひなに一つ嘘をついているの……」

 あたしの言葉に一瞬目を丸くするひなだったが、横に視線を外し、少し考えるような仕草をしたあと、ひなも口を開く。

「……実はわたしも」

 その言葉にあたしも吃驚する。

「じゃあ、いっせーのせで言おう!」

 今しかない。意を決してあたしたちは視線を合わす。

「実はあたしね……」

「実はわたしね……」


「「……アラサー、なの」」


 あたしたちは『えっ!?』となる。

「……ひな、小学生って言ってたのに」

「そういうあなただって、小学生って言ってたじゃない……」

 険悪なムードが流れるかと思いきや、しばらくして、あたしたち二人は、大きく笑い会う。

 そして、無言で頷き合った。

「わたしたち、本当の親友になれそうだね」

 どちらからともなく抱き締め合うと、あたしたちはおでこをコツンと合わせる。

「改めてよろしくね、ひな!」

 あたしは自分の嘘を告白出来たことより、ひなが小学生じゃないことに何故か嬉しさを感じていた。


 あたしたちの本当の物語は、今此処から始まる――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る