新しいオープニング 隠しエンディングはわたしがつくる
宮古遙香は死んだ。
挿入したまま死んだ。
そして、目が覚めると。
「おおお!」
変な夢を見ていたのか、わたしは跳ねるように起きた。
大きな窓からは朝日が差し込み、部屋を明るく温かくしている。
六畳前後の広さの部屋だ。
シンプルな木製の机に、木製の本棚。なんというかアンティークっぽい感じのやつ。
「しっかし、まさかセックス中に死ぬとは不覚オブ不覚」
まあ、夢なんですけどね。
いやそれでもパパ活中に死ぬ夢とか現実だといやなんだけど。
もし死んだらどうするのよ? パパもだし、家族も。
無理でしょ? 『おたくの娘さんは知らないおじさんと性交中に亡くなりました』なんて聞いた日にゃお母さん泣きたくても泣けないでしょうに。
おじさんもきっついだろうなあ。色々と面倒くさいことになるだろうし。
悪い夢ってことでさっさと学校に行くか。
しかし、見たことのない部屋だ。少なくとも自分の家のそれじゃない。
どういうことだ?
スタスタと歩き、近くにあった大きな姿見に目が入った。
そして、言葉を失った。
「誰だよ?」
鏡に映った自分(のはず)は、見知った自分ではなかった。
長い黒髪にぱっちりお目々、ローブ姿からも分かるぐらいの豊満なおっぱいにきゅっとしまったウエスト。すらりと細く長い手足に、陶器のような透き通った肌。
顔はどちらかというと日本人っぽくはあるけど、薄いわけじゃない。
高い鼻と主張が激しくない慎ましい口。
どっからどう見ても美少女だ。ん? 美少女?
「なんだ。わたしか」
びっくりした。元々美少女のわたしが見知らぬ美少女になっていても何ら不思議なことでもない。
脅かすなよ全く……。
……。
「いやいやいやいや違うでしょ!!」
鏡をつかみ顔を近づける。
確かに美少女ではあるけど、見知った美少女じゃない! 誰だこいつ!
ちょっと待て、この感じ見たことがある。
改めて周囲を見渡すとクローゼットがあった。
勢いよく開けると、案の定、一着の制服があった。
少し長めのスカートが煩わしかったが、今はそれでいいや。
えんじ色が基調色の服を着た自分自身をもう一度鏡に映す。
「嘘でしょ……」
わたしはわたしに見覚えがある。
こいつは大人気乙女ゲーム「春からまた想いが始まる(通称ハルモイ)」の主人公ミリカ・エルミーユ 17歳だ。
オタクであるわたしは当然ハルモイはプレイした。
全ルートクリアしたし、追加版のファンディスクもやった。なんなら、開発チームが勝手に作ってコミックマーケットで販売した「公式が作った非公式18禁版(ボイス無し)」も遊んだ。
もちろん、コミカライズ版も買ったし、アニメ化されたときはBD全巻買って、パシフィコ横浜国立大ホールで行われた作品イベントにも行った。
そんなハルモイの主人公がミリカ・エルミーユだ。
舞台であるポートライン王国に住む普通の女の子なんだけど、この手のゲームあるあるの「実は先天的な才能に恵まれて、本来なら王族や貴族などの上流階級しか通うことのできない魔法的な学校に通うことになった」系女子だ。
そこで出会う4人のイケメンと恋に落ちてという王道ファンタジー恋愛シミュレーションゲーム。
もう一度言うけど、その主人公が今目の前にいる。
コスプレ……じゃないよね? 割と女性レイヤーも多いハルモイだけど、彼女たちよりも圧倒的に完成度が高いし、というか無加工でこの美少女とか本物より本物じゃん。
「するってぇとよ」
わたし――宮古遙香がセックス中に死んだというのは事実で、目が覚めたらミリカになっていて、意識はちゃんと遙香の自分があって、ご都合主義的に用意されているカレンダーは4月の5日だからゲームのオープニングの日で……。
なるほどな。
わたしは全てに合点がいった。
セックス中に
まさか今流行の「異世界転生」とやらを自ら経験することになるとは……。
机の上にある時計を見ると朝の7時前後だ。ここら辺の時間のそれが現代チックなのがいかにもゲーム的なご都合主義な世界観だ。
それでいいのだ。乙女ゲームなんざ、女がイケメンに恋をするのが目的なんだからなんかしっちゃかめっちゃかな設定なんてストーリーの根幹以外は適当でいいのだ。
日付けと時間的にこれがゲームのプロローグ的なアレだとすれば、もう直ぐ……。
しばらくすると、タタタと足早に歩く音が扉の向こうから聞こえてきた。
「姉さん、起きたかい?」
ノックの後、柔和そうな声が聞こえてきた。
まじか、原作通りの声じゃん。原作と同じ声じゃん。
「? 姉さん? 開けるよ」
そう言うと部屋の扉が開かれ、声の主が登場する。
ミリカに負けず劣らずの色白でいかにも優男な感じ。ただし、体格は年頃の男の子らしくしっかりとしている。深い茶髪は少しくせ毛でもじゃっとしている。
顔? 言わせんなイケメンだよ。
「ラインツ、おはよう」
にこりと笑って返事をする。
そう、彼がハルモイの攻略対象の4人のイケメンの1人。ラインツ・エルミーユ君16歳(童貞)だ。
設定としてはミリカの義理の弟で、ゲームの始まるちょっと前のエピソードとして、入学するということで今の庶民だとアレなので、両親が(都合良く)馴染みのあるエルミーユ家に養子としてミリカが迎え入れられた時に、最初からいたエルミーユ家の長男坊が彼だ。
要するに血の繋がっていない弟ってこと。女性声優がラジオとかで言ってる「この間弟と遊びに行ったんだけど」エピソードに出てくる弟と同じぐらい血が繋がっていない。
「もう、起きていたなら返事をしてよ」
困った顔もまたチャーミングで可愛い。実際、彼のファン層は横浜が本当の聖地だ! と言っているお姉様方が中心だ。
「ふふっ、ごめんなさい」
特段意識したわけじゃないのだが、ここでいつもの遙香でやっちゃうとミリカのキャラとかけ離れているのでそれは解釈違いだ。
「今日から新学期でしょ? 僕は中等部からそのまま高等部になって、姉さんは一応先輩になるんだからしっかりしてくれないと」
「わかっているわ。相変わらず心配性なんだから」
ミリカは基本的には他のキャラは同級生であっても敬語で話すのだが、弟であるラインツとだけくだけた物言いになっているのがまた萌えポイントだ。
いや、それよりも……。
「な、何? 姉さんじろじろみて……」
イケメンだなあ。中世ヨーロッパ風だから西洋系のイケメンだ。身長も高いし、まつげなっが! 可愛い系だけど綺麗な顔ってのはこれのこというんだろうな。
「今日も我が弟は元気かな~? と」
「なんだか、今日の姉さんちょっと変?」
おっと、いけないいけない。
「そんなことないわよ。失礼ね!」
ぷんすこぷん、と怒る。
ラインツは慌てて「ご、ごめんよ」なんて謝ってくれる。いやあいいねえ。なんにも悪くないのにね。すぐに謝れる男はモテるぞ~。
「それにまだ時間はあるでしょ? もう少し朝の爽やかな空気を味わうことも大切よ」
「そういうものなのかなあ?」
実際学校へ向かうにはまだ2時間ほど余裕がある。
ゲームだとここで簡単な世界観の説明とか学校の説明がモノローグ的に入って、教室のシーンへと飛ぶのだが……。
わたしは入り口で未だに立っているラインツの手を取り、部屋の中へと連れて行く。
突然のことに途惑いながらもラインツは付いてくる。素直な奴め。
「どうしたのさ? 姉さん?」
「う~ん、そうねえ。強いて言うなら夢見が悪かったからその精算?」
「夢見? 精算?」
わたしの言葉が分からなかったのかきょとんとしているラインツをそのままベッドに押し倒す。
わたしはふと思ったのだ。
ハルモイは確かに大人気乙女ゲームだった。各キャラのルートも良かったし、追加版のファンディスクの話もよかった。公式が作った非公式の18禁版もしっかりとエッチが描かれていたし、各キャラ趣向を凝らした内容だった。
ただ、ただ1つ不満点があるとすれば……。
仰向けに寝っ転がる彼の太ももの辺りに跨がる。
さすがのラインツも顔を赤らめる。そうそう、彼って原作でもシャイだった。すーぐ赤くなる。ここがまた母性をくすぐる。
「ねねねねね、姉さん!?」
狼狽する彼を無視して、シャツのボタンを外し始める。
端から見たら義理とはいえ姉が突然服を脱がせ始めているのだ異常だろう。
全てのボタンを外し、彼の上半身が露わになる。
意外にも鍛えているのか? がっちりとしている。筋肉のそれがしっかりと見える。腹筋も軽く割れていて見てくれがよい。
「わたしね、思ったの」
「え、え?」
ハルモイに足りないもの。
それは――
ハーレムエンドだ。
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