第弐章 イグニス帝国編
第10話 開戦の狼煙
2日後の朝。軍のほとんどが集められた。
みんなこれまでと同じようにそれぞれ馬で戦場に向かった。俺は前回とは違って、もう王国軍の一人だから自分の馬が与えられてそれに乗って向かった。
なんでも、道中で合流できる者は道中で落ち合っていくそうだ。だいぶ効率的でホワイトな組織だ。
「あぁ、そろそろカラオケ行きてえなあ」
「カラオケ?んだそれ。緊張してんのか?渉」
「バカ言うなよカール。実は昨日、イグニス帝国に偵察しに行ったんだよ。」
「は?マジかよww。どうやって?」
「マリア姉さんが霧で自分の姿を変えてるの見て思いついたんだよ。俺の光の能力で同じようなことできないかって。」
「成功したのか?」
「もちろん!酷かったよ…。」
「…。」
「貧困街を覗いたが、どいつも酷く餓えていた。足や手がない子供たち、枯れ枝のように痩せ細った老人。明日も生きるのに必死で一部の富裕層が全てを持っていた。俺はそれを見て救うこともできたが、しなかった。」
「敵国だから…か?」
「いや、俺のすべきことじゃなかったからだよ。平等は本人たちが勝ち取らないと意味が無いんだよ。飢えてるものには魚を与えるのではなく釣りを教えるべきって老子も言ってたようにね。」
俺があの時救ってもその後彼らは同様に奇跡を待つだけだ。
幸いにもイグニス帝国は実力主義でどんなに貧しいもの成り上がるでもなことが出来る。
もしできなかったのなら、きっと俺はあそこできっとそうできるようにしただろう。
「渉くんは随分と現実主義なのね。」
「そういうマリアさんも同じようにするでしょう。天は人の上に人を作らないんです。多少の差異はあれど、人はみんな平等なんですよ。」
「君の言ってることは、きっと正しいよ。」
「…なあ伊藤、マリア姉さんってなんかおかしくないか?」
伊藤の耳元で小声で言った。
「…なんで?」
「だってこの国で1番強いはずなのに、今は俺とほとんど互角なんだぞ?」
「そりゃあ力の半分だからよ。」
「…?」
上手いこと言ってはぐらかされた。おそらく一端の兵士が知っていいような内容ではなかったのたろう。俺は察してそれ以上聞かないことにした。
しばらくすると雨が降った。久しぶりに見る天雨だ。そして戦場に着いたところで敵国軍も着いた。ほぼ同時だった。
両軍全員が揃った景色は、まさに圧巻だった。
「来たな、イグニス帝国。」
「ああ。ちゃんと三門もいるな、」
「ちっ。やっぱり渉もいやがる。」
「そうカッカすなや。いらちなやっちゃで。」
「俺に命令するな。俺を従わせられるのは俺だけなんだよ」
「み、みなさん、落ち着いてください!」
「アリシヤちゃんがいっちゃん落ち着いてへんで!もうちょい肩の力抜きや?」
「て、敵の数はほぼこちらと同人数です。火天様。」
「うむ。こちらも、全力で奴らを叩き潰すぞ」
火天は振り向いて大きく息を吸った。
「みなのもの!!やつら水の連中を!1人残らず駆逐せよッ!!!」
「「「「ウオオオオ!!」」」」
一気に全軍の指揮が上がった。
「あっちも張り切ってるようじゃのう。」
「はっ。そのようですね。」
「あちらの戦力はおおよそ割れています。上から順に一等准尉、二等准尉、三等准尉、軍曹、一般兵がいます。大体はこちらと同程度ですが、その上に 火天の側近という形で9人の精鋭部隊『へリオンズ』が厄介です。」
「なるほど、三門もその中の一人か。」
三門のことだ。きっと誰の指示も受けずあそこに向かうはずだ。
「奴もきっと、あそこにいるよ。マリア。」
「えぇ、そうね。あなたがやりなさい。」
「奴?誰のことだ?」
「俺の兄貴を汚い手で殺めた、ルドラ・クシャトリア」
俺も父親が小さい頃に亡くなった。
あいつの気持ちも少しは分かるつもりだったが、彼は殺されたんだ。全く違う。
俺じゃ計り知れないものがあるんだろう。
「こちらの主力の一等中将と大将、そして渉をそれぞれ9人をぶつけます。」
この国の一等中将は全部で7人。そして大将と俺を入れると11人になる。
7人の一等中将は
水のアークのオリヴィア・マクスウェル、レオ・フィッシャー、
「へリオンズはどんなやつがいるんですか?」
「火のアークが7人で他に
どうしてそこまで割れているんだ。
イグニス帝国の秘密保持が劣っているのか、こちらの情報網が強すぎるのか。
「9人のうち7人が純粋な火ですか。怪しいですね。」
「さすがね。7人の中の3人は単純な火ではないのは確実よ。」
「ルドクとかいうやつの能力というのは、?」
「死体を操るアーク。あの戦争は直前に起きた感染症による貧民街の死体に自分の炎を流して操って、兵数を3倍以上にしたの。」
「ただの貧しい一般人がそんなに強くなれるとは思えませんが、」
「えぇ。やつの力で強制的に強くさせられていたわ。」
「おいおい、お2人さん。始まるぞ?」
「ついに始まるのね、。」
水天、火天が同時に大きく息を吸った。
「「全軍!かかれぃ!!!!」」
全兵士が雄叫びを上げ、開戦の狼煙を上げた。
戦争の始まりだ。
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