第7話 先見の明と世間の目

「三門!ここは一度引くぞ!!」

何者かが爆音でジェット機のような速さで迫ってきた。



「水天様、このアークエナジー反応はおそらくイグニス帝国軍のラージ・パンディットです」

「おそらく未確認のアークエンジェル出現とそれに伴う主戦力の殉職で撤退するつもりじゃ。我々もこれ以上戦うのは良くない。全軍撤退じゃ!!」



「伊藤、聞いただろ!撤退命令だ!」

伊藤は放心状態だ。ここは俺が無理にでも引かせる。


「三門、モーガンを担いで本国に戻るぞ!」

「この野郎!こっちは腹の虫が収まらねえんだよ!!」


「命令には従った方がいいよ〜!さあ帰った帰った!」

「黙りやがれッ!」

三門が攻撃しようと腕を大きく上げたがそれをラージが抑えた。

「やめろ。お前の気持ちも分かるがここは引いてくれ。頼む…。。」

三門がラージも悲しんでいることを察したのか攻撃をやめ、モーガンを抱えて他の兵とともに引いて行った。



俺たちは行き同様馬車に乗り、いち早く退散した。行きと違うところは恐ろしく静かなところだ。水天様ではなく伊藤たちと同じ馬車だったが、みんななにも喋らなかった。


「皆、今回の遠征はご苦労じゃった。途中予想外のことが起きてしまったが、それでも諦めず戦ってくれたことに感謝する。よく休むように。」

水天様が大きな声でそう言うとみんな解散した。


伊藤とは隣の部屋だったが、ここはそっとした方が良いと思いおやすみと声を掛けお互いの寝室に入った。



翌日の朝、マリアに起こされた。彼女いわく、先の遠征での予想外の戦闘はイグニス帝国の急な襲撃として片付けられ、未確認のアークエンジェル2人のことは機密扱いとなった。


「おはよう、渉くん。秘密になってしまったことは許してくれたまえ。ただでさえ4カ国との戦争膠着状態で混乱している国内をさらに悪化させたくないんじゃ。」

「分かっています。それより伊藤は大丈夫なんですか?」

「あぁ。彼女は自分が追い込んだ人間が目の前で死んだのを見て自分を責めているようじゃ。無理もない。彼女にとって初めて目にする死なのじゃからのう。」


「それと、おぬしには伝えなければならないことがある」

「なんですか??」

「今日をもって毘奈川渉、君を我がサファイアシュラン王国軍に任命する。」

「…え?」

「仕方ないでしょ?これ以上表立って戦闘に加わるのは軍の指揮にも関わるのよ。知らないやつが味方するより新米アークエンジェルってことにした方が都合がいいの。」

「そういうことじゃから、1時間後に任命式を兼ねた戦功叙勲式がある。すぐに戦闘服に着替えて城の前に集合じゃ。」


いきなりすぎるだろう。まあ、ある程度想定はしていたが。


馬車ですぐ近くの街に行き、大きなステージのある広場に着いた。ここはかなり賑わっていて、普段はここで演奏をしたり祭りをしたりして使っているようだ。戦功叙勲式は珍しいようで老若男女かなりの人が集まっていた。


「これより!先の遠征とイグニス帝国襲撃の戦闘で武功を上げたものに戦功を叙勲する!!」


「水天様だ!!」「水天様ぁ!!」


さすがに今は頭は下げないようだがかなりの声援だ。


「まず戦闘において小隊を率いて前線で戦ったレオナルド・ヴォン・ヴァルドベルク、カタリーナ・ローゼンベルク、エドガー・フォンテイン、各三等中将を一階級繰り上げ二等中将とするッ!!」

「そして!オリヴィア・マクスウェル、フリードリヒ・シュミット、各二等中将を一階級繰り上げし、一等中将とするッ!」


「どいつもこいつも強者ばかりだぞ、。」

「こいつら歴戦の猛者たちだぜ?」

「そりゃ面構えが違うわけだ。。。」

ガヤもその分うるさい様だ。


「続いて戦闘にてイグニス帝国のアークエンジェルを倒したアークエンジェルの一等中将、伊藤響を大将とするッ!」


「よそ者のアークエンジェルが…大将?」

「でも実力は本物らしいぞ、」

「それでもアークライト使えないんだろ?」

「変な機会くれるんなら俺でも出来そう」

やっぱり民衆は中々認めないようだ。それにしてもまだ放心状態のようだ。。


「そして、本日の最大発表!3日前このアークワールドに来て敵国のアークエンジェルと互角の戦闘を繰り広げたアークエンジェル、毘奈川渉を一等中将に任命するっ!」


「お、おいおい!いきなり余所者連れてきて一等中将?!」

「水天様はなにをお考えなのだ…」

「殉職した総大将の穴を埋めるために必死なのだろう。。」


さすがにいきなりすきるだろ。でもこのくらいないと張合いが無い。


「上等だよ…。」

小声で呟いた。誰も聞いていないようだ。


数時間あった叙勲式はお祭り騒ぎで幕を閉じた。戦功叙勲式の後は城内にある大きな宴会ホールでパーティーをした。パーティーとは言ってもクラブのようなものではなく食事やお酒とお喋りを楽しむようなものだった。


「よう!伊藤!もう30分も宴会してんのにまだそんな顔してるのか笑」

「渉、お酒入ってる?みんなと楽しそうなのにどうしたの?」

「まあまあ!知ってるやつ伊藤しかいないんだよ笑」

「よく平気ね。目の前で人が…死んだのよ?」


「まあ、そうだな。俺、目の前ではないけど小さい頃親父が他界したんだよね笑」

「…。」

「さすがに俺もその時は病んだよね笑。でもさ、一週間病んで出た結論は『人は死ぬ』ってこと!」

「そりゃそうじゃないの。。」

「人はいつか死ぬ。天国も地獄も、来世も前世も、冷静に考えればある訳ない。どんなおもちゃも電池がなくなったりパーツが壊れれば動かなくなるし、それ以上でもそれ以下でもない。死んだらどこか行くわけじゃないし、言うなれば『無』だね!」

「…、?」

「つまり!死んだらどこにも行けないんだから今を楽しむしかないッ!!その分後悔しないような後味のいい人生送るって決めたんだ!だから俺は大切な人には伝えたいことあれば伝える。」

「なるほどね、。なんか気が楽になったわ!」

「だろ?!笑笑」


「おい!渉!!こっち来てこれ飲めよ!」

「カール分かったって!待ってろよ!笑」

カールが遠くで意味分からない形の瓶酒を持っている。


「ちょっと言ってくるわ!」

そういって渉はカールの方に向かう。


「あの2人…いつの間にあんなに仲良くなったのかしら。さすがだわ。」

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