第16話 真相
隊長と僕はフィルドイーストの村から帰りハンスとローナと合流する。
隊長はハンスに聞く。
「何か出たか」
「国の政策関連でいくつか」
言いながら資料を渡す。ざっと目を通した隊長は答える。
「ふん…やはりか」
その言葉に僕は聞く。
「何か分かったの?」
「ああ…」
隊長はそう答えるだけだったけどローナが代わりに言う。
「よく分かんないけど、ヴァリーにはもう真相が分かってるのね」
そう言われてすぐに返答する隊長。
「王の所へ行くぞ」
唐突に言われて僕らは謁見の間に向かう事になった。
早い報告に王様は少し驚いたのか、僕らに尋ねる。
「何やら報告か?調査は進んでおるのか」
隊長はいつも通り冷静に報告する。
「犯人が分かった」
「なに!?」
その場にいる全員が驚く。ざわつく中、王様が言う。
「博士はやはり事故ではなく攫われたのか!?どこに居るのだ?」
「博士の居場所はまだ不明だ、だがそいつが知ってる」
そう言ってコルソー大臣を見る。
謁見の間は更にざわつく事になった。
そんな中、隊長は報告する。
「博士は精霊イフリートの力を借りた魔道具を研究していた。その道具は精霊の性質を引き継ぐ。すなわち、イフリートの”煙の出ない火から生まれた種族”という伝承のな。つまりその魔道具は煙を出さず火を操れる。一方で国の議事録から王都の工房の一部移設の決定が出ている。原因は王都の空気の汚れだ」
王様は狼狽する。
「まさか…と言う事は…」
今度はハンスが言う。
「煙の出ない魔道具なんて作られたら困るんだ、大臣は」
大臣は「な、何を!そんな事は!?」と狼狽えるけどハンスが資料を提示しながら続ける。
「アンタのサインだろ、これ。空気の汚れは王都にたくさんある工房が原因だとする調査報告書。それに伴う今後の工房の増築、移築計画についての資料と候補地はフィルドイーストの町にするっていうアンタが主導した決定通知書だ。困るよな?煙の出ない魔道具で空気の汚れが改善されれば計画はパーだ」
みんなが大臣に注目する中、大臣は反論する。
「それがなんだと言うのだ!単なる国の政策決定書だ!」
でもハンスも下がらない。
「言い訳はみっともないぞ。全部調査済みだ。アンタが受け取ってる政治献金の記録とフィルドイーストから出てる寄付金の回数と時期、金額が一致してる」
隊長も続ける。
「町は工房を建てる土地を提供する。その見返りは工房誘致による町の発展、大臣が得る物は感謝と多額の金銭」
大臣は追い詰められながらも言う。
「た、たまたまだ!」
ハンスは最後の一押しをする。
「根回しはもっと入念にしとくんだったな。フィルドイーストでは人や仕事が増えると噂が漏れ出してたしアンタと繋がりのある建築商会が資材を準備してフィルドイーストへの運搬の手配までしてしまった記録がある。議会での決定の少し前でな。闇取引が決まって浮かれて先走ったんだろ」
大臣は汗を掻きながらプルプルと震えた。
でももはや言い逃れは出来ないと悟ったのか反論を始める。
「く…国の発展の為なのだ!」
怒りながら搾り出すように続ける。
「王都の空気は汚れていた!しかし工房は増え続ける。ゆくゆくは大陸全土の町に工房を分散させる筈だった!全ての町や村が発展し大陸はより強固に栄える!この国に必要な事だったのだ!これはその先駆けなだけだ…!」
そんな言葉にハンスが言う。
「ご立派だ。金さえ受けとってなければな」
隊長も続ける。
「博士の研究の事を知り、思い余って誘拐か」
大臣は叫ぶ。
「計画は動き出してたんだ!!」
玉座の間には静寂が訪れる。そんな中、王様が口を開く。
「コルソーよ、もういい。これ以上醜態を晒すな。今まで国に尽くしてくれたせめてもの情けだ。博士の居場所を言え。博士が無事に戻れば、せめて死刑だけは免じてやろう」
大臣は膝から崩れ落ち、観念するように言う。
「…西の森の小屋に、監禁しています」
こうして博士の行方不明事件は意外な理由と犯人が判明し幕は閉じたのだった。
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