真の力

 「はぁあああああ!!!スキル“ロストブレイク”!!」



 真緒は勢い良く、エジタスの頭目掛けて渾身のスキルを叩き込んだ。



 「…………ぐっ!!」



 渾身のスキルを叩き込んだが、全身を纏った骨の鎧に少しひびを入れる程度だった。真緒は即座にその場から離れ、ハナコ、リーマ、フォルスの三人がいる場所へと駆け寄った。



 「ふっ……残念だったな。俺の骨肉魔法は無敵……その程度の攻撃など、痛くも痒くも……うっ!?」


 「「「「!!!」」」」



 余裕の表情を見せるエジタス。しかし足を踏み出したその瞬間、ガクリと片膝を付いてしまった。真緒の攻撃は効いていた。痛みこそ無かったが、渾身のスキルを叩き込んだ事で、強い衝撃が骨を通じて脳みそまで届いていたのだ。結果、エジタスは軽い目眩を起こし、片膝を付いてしまった。



 「今だ!!全力を叩き込め!!」


 「「「うぉおおおおお!!!」」」



 一瞬の隙も逃さない。フォルスの掛け声と共に、片膝を付いているエジタス目掛けて一斉に攻撃を仕掛ける。



 「スキル“乱激斬”!!」


 「スキル“インパクト・ベア”!!」


 「“炎の槍”!!」


 「“ブースト”!!」



 各々が誇る最高位の技を放つ。四つの技が、エジタス目掛けて襲い掛かる。



 「ぐっ…………!!」


 「手を休めるな!!このまま押し切るんだ!!」



 この好機を逃す訳には行かない。真緒達は休む事無く、エジタス目掛けて技を叩き込んでいく。真緒達の猛攻に、上手く身動きが取れないエジタス。痛みこそ感じないが、頭の部分だけで無く体の部分の鎧にもひびが入り始める。



 「行ける……行けますよ!!」


 「オラ達の手で、エジタスざんを止めるだぁ!!」


 「エジタスさん、戻って来てくれ!!俺達の所へ!!」


 「師匠!!また皆で一緒に、旅をしましょう!!今度は隠し事無しで!!」


 「…………そうですね……また一緒に旅がしたいですね……」



 骨の鎧に入ったひびは、やがて全体に広がり始める。



 「なので皆さんは、先に旅立って待ってて貰えますか?…………あの世でな!!!」


 「「「「!!!」」」」



 ひびが全体に広がる。そして遂に、エジタスの全身を包んでいた骨の鎧が砕け散った。しかしその瞬間、エジタスの全身から無数の鋭い針が飛び出した。肉体における全ての表面を、針の様に鋭く尖らせて骨の鎧が砕け散ると同時に、真緒達目掛けて伸ばした。その姿は、端から見ればウニその物だった。



 「「「「ぐはぁ!!?」」」」



 伸ばされた無数の針は、真緒達に突き刺さった。しかし、真緒達は何とか一命を取り止めていた。鋭く尖らせる為、細い針になっていた事が命を繋ぎ止めた。



 「はぁ……はぁ………」


 「うぐっ……痛いだぁ……」


 「ま、まさか……こんな事まで出来るだなんて……」


 「くそっ……油断してしまった……」



 一命を取り止めたとは言え、身体中に小さな穴が空いていた。そこから、血が流れ出る。ある者は流れ出る血を抑え、ある者は痛みで横になる。



  「この俺が大人しく、倒されると思っているのか?この鎧が砕かれる事など、想定の範囲内なんだよ!!」


 「「「「!!!」」」」



 すると次の瞬間、それまで鋭く尖っていた針の形状が変形し、全身から無数の大砲が生み出された。



 「これで逃げるのは不可能だ!!確実に息の根を止めるが良い!!」


 「「「「…………」」」」



 逃げられない。その場にいる四人は悟った。これから発射される玉は十中八九、肉と骨が合わさった玉であると、そうなれば止める方法が無い。空中に逃げようとするが、全身を大砲に変形させている為、避ける事は不可能であった。



 「全方位……発射!!!」


 「「「「…………っ!!」」」」



 エジタスの体から、無数の玉が発射された。玉は勿論、肉と骨が合わさった玉である。終わった。何とか踏み留まって来たが、ここまでの様だ。やりきれない想いを抱きながら、迫り来る無数の玉を見つめるのであった。



 「スキル“黒縄地獄”!!」


 「な、何だと!?」



 その瞬間、発射された無数の玉が一斉に動きを止めた。よく見ると、全ての玉が自分の影に動きを封じられていた。



 「ご、ごの影は……!!」


 「外部から衝撃を受けると、自動的に弾け飛ぶ玉……それなら、“内部”から動きを止めてしまえば、問題無いわよね?」



 声のした方向に顔を向けると、そこには見覚えるのある、オネェ口調のスケルトンが立っていた。



 「影さえあれば、物質であろうとその動きを封じられる……私の“黒縄地獄”ならね」


 「ア、アルシアざん!!」



 そこには、失った片足が元に戻ったアルシアが立っていた。アルシアのスキルによって、発射された玉は動きが止まり、また内部から止めた為、骨が弾け飛ぶ事も無かった。アルシアの登場に、ハナコは歓喜の声を上げる。



 「まだ生きていたのか……この死に損ないがぁあああああ!!!」



 エジタスは、大砲の一部を鋭く尖った細い針に変形させ、勢い良く伸ばした。伸ばした鋭く尖った細い針が、アルシア目掛けて伸びていく。



 「……コノテイドノ、ホソイハリナラ、オレノカラダハツラヌカレナイ」


 「!!?」


 「あ……ああ!!」



 鋭く尖った細い針が、アルシアに刺さろうとしたその時、アルシアを守る様に巨大な掌が細い針を受け止めた。



 「ゴ、ゴルガさん!!」


 「マタセタナ、リーマ」



 そこにはゴルガが立っており、エジタスに空けられた穴は、綺麗に塞がっていた。エジタスが伸ばした細い針は、ゴルガの掌を貫けず先端が折れてしまっていた。ゴルガの登場に、リーマは歓喜の声を上げた。



 「な、何なんだ……この展開は……あり得ない……あり得ない!!」



 するとエジタスは、ゴルガ目掛けて口から沸騰させた血液を噴射した。噴射させた時に滴り落ちた血液が、床を溶かした。



 「貫けないなら、溶かしてやる!!」


 「おいおい、私を忘れるなよなエジタス?」


 「!!?」



 噴射された血液は、ゴルガに当たる直前に一匹の龍人が、持っていた槍を回転させて、噴射された血液を弾いた。



 「全く……来るのが遅いぞ!!」


 「待たせて悪かったなフォルス」



 そこには、エジタスによって槍が突き刺さった筈のシーラが立っていた。槍によって受けた筈の傷は塞がっており、噴射された血液からゴルガを守った。シーラの登場に、フォルスは歓喜の声を上げた。



 「何故だ……何故こんな……」


 「皆、エジタスの事を止めたいんだよ」


 「!!?」



 背後から声が聞こえる。エジタスは慌てて振り返った。するとそこには、肉の塊で吹き飛ばした筈のサタニアが、優しい笑みを浮かべて立っていた。



 「サ、サタニア!!無事だったんだ!!」


 「マオ、心配掛けたね。この通り完全回復したよ」


 「この!!潰れろぉおおおおお!!」



 突然背後に現れたサタニア。咄嗟にエジタスは右腕を巨大化させると、サタニア目掛けて巨大化した拳を叩き込んだ。



 「…………な、何!?」



 しかし、叩き込んだ拳はサタニアの体をすり抜けてしまった。そして拳をすり抜けたサタニアは、まるで幻影の様に消えてしまった。



 「“ダーク・イリュージョン”……駄目だよエジタス……僕の事を見失っちゃ……」


 「!!!」



 エジタスが殴ったのは、サタニアが作り出した分身だった。本物は、既にエジタスの背後を取って剣を構えていた。



 「スキル“ブラックアウト”!!」


 「し、しまっ……!!」



 至近距離からの強烈な一撃、身を守る為の鎧も砕け散ってしまっていた為、サタニアのスキルをまともに食らう事となった。スキルを叩き込まれたエジタスは、勢い良く壁に激突した。壁はひび割れ、割れた瓦礫がエジタスの体に降り掛かる。


 


 「サタニア、ありがとう助かったよ」


 「礼には及ばないよ」


 「もう駄目がど思っだだぁ」


 「間に合って良かったわ」


 「ゴルガさん、無事で本当に良かったです」


 「シンパイヲカケタナ」


 「だが、もう少し早く助けに入って欲しかったぜ」


 「へへっ、ヒーローは遅れてやって来るのが常識だろう」



 真緒とサタニア、そして他の六人各々は、助けられた事にお礼を述べた。



 「何故だ……何故お前達の傷が癒えているんだ……」



 すると、壁に激突したエジタスがゆっくりと立ち上がり、集まった八人の元へと歩み寄る。



 「それは、私が回復させたからよ」


 「「「「「アーメイデ!!」」」」」



 エジタスと九人の間を歩いて来たのは、アーメイデであった。



 「あ、あり得ない……お前のMPは空になった筈だ……それなのに、回復魔法を唱えられる筈が無い!!」


 「あぁ、確かに魔法は唱えられない……だけど、回復用のポーションなら話は別だ」


 「ポーション……だと?」



 そう言うとアーメイデは、懐から一本のポーションを取り出した。



 「私はこの二千年間、コウスケを蘇らせる為に魔法の研究を続けて来たんだ。魔法に関する物なら、死ぬほど作った。勿論、ポーションもその一つだ……ほらよ」


 「「「「!!!」」」」



 すると、アーメイデは四本のポーションを取り出し、真緒達に目掛けて投げた。真緒達は、投げられたポーションを受け止める。



 「万が一、MPが切れた時に使おうと思っていたんだ。それを飲んで、傷を癒しな」


 「あ、ありがとうございます!!」



 アーメイデから、ポーションを受け取った真緒達は、急いで飲み干した。すると瞬く間に、負った傷が塞がった。



 「……何だそれ……ふざけるな……」



 完全回復した九人を見ながら、エジタスがボソリと呟いた。



 「……何だ……その御都合展開……認めるか……認めるものかぁあああああああああああああああ!!!」



 その瞬間、エジタスは超人的な跳躍を見せた。そして、壊れた玉座へと降り立った。



 「師匠!!」


 「エジタス!!」


 「これだけ骨肉魔法を使っても、私達を倒す事は出来ないんだ!!もう諦めなさい!!」


 「ふっ……これだけ骨肉魔法を使っても……何を言ってる?俺はまだ、骨肉魔法の力を半分も見せていないぞ?」


 「「「「「「「「「!!?」」」」」」」」」



 衝撃の告白。その場にいる全員の背筋が、恐怖で凍り付いた。



 「まさか……“これ”を使う事になるとは思わなかった……」



 そう言うとエジタスは、体の中から二本の骨を取り出した。その二つの骨は今までの骨と違って、何処と無く古くみすぼらしかった。また、その二つの骨はそれぞれ右腕、左腕の形をしていた。



 「い、いったい何を……」


 「見せてやるよ……骨肉魔法の……真の力を!!!」



 するとエジタスは、取り出した右腕、左腕、二つの骨をそれぞれ右肩、左肩に突き刺した。



 「…………“構築”」



 その瞬間、右肩と左肩、それぞれに突き刺さった右腕と左腕に、肉が付き始めた。それに伴い、右肩と左肩の肉が盛り上がり始めた。盛り上がった右肩と左肩のそれぞれは、徐々に形を取り始める。頭、体、それは紛れも無い人の形だった。エジタスの背中から、二種類の人が生えて来たのだ。そして、生えて来た二種類の人の肌、髪の毛が形成、色付き、より明確に人らしくなった。エジタスの左肩からは、左腕と体と黒髪頭の好青年が生えて来た。一方、右肩からは、右腕と体と捻れた角を持つ頭の魔族が生えて来た。



 「そ、そんな……嘘……嘘よ……」



 エジタスの背中から生えて来た一人の人間と一人の魔族に、アーメイデは驚きの表情を浮かべる。



 「あり得ない……こんなの……あり得ない……」


 「アーメイデさん、どうしたんですか!?」


 「あの二人が誰か知っているの!?」



 錯乱した様子を見せるアーメイデに、真緒とサタニアは心配を寄せると同時に、突如生えて来た二人の人物について問い掛ける。



 「……お、落ち着いて聞いて欲しい……以前、話した事があると思うけど……あ、あの二人こそが…………“初代勇者サイトウコウスケ”、“サタニア・クラウン・ヘラトス一世”だよ…………」


 「「「「「「「「!!?」」」」」」」」


 


 アーメイデの言葉に、その場にいる全員が驚きの表情を浮かべる。あまりの驚きに数秒程、思考が停止していた。



 「ふふふ……さぁ、感動の再会と行きましょうか?」

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