例え化物だとしても
「……俺達は決意した……この世界を……笑顔の絶えない世界にすると……あいつは道楽の道化師として……俺は化物として……それなのに、世界は拒んだ……平和になる事を拒んだ……」
「師匠…………」
「エジタス…………」
ぶつぶつと独り言を発し始めるエジタスに、真緒とサタニアは困惑の色を隠せなかった。
「もう……ワールドクラウンは存在し無い……ババァとの繋がりだった仮面も砕けた……だが、笑顔の絶えない世界は必ず実現させる……その為にもまずは……」
「「!!!」」
独り言を言い終えたエジタスは、真緒とサタニアの二人目掛けて、拳を叩き込んだ。
「「がはぁ!?」」
拳を叩き込まれた真緒とサタニアは、勢い良く吹き飛ばされて、壁に激突した。
「……世界の平和を脅かす害悪を葬り去らないとな……」
「「「マオ!!!」」」
「「「魔王様!!!」」」
「う、嘘でしょ……あ、あり得ない……!!?」
突然、真緒とサタニアが吹き飛ばされた事に六人が心配を寄せる中、アーメイデはエジタスの異様な変化に驚きを隠せなかった。二人に叩き込んだエジタスの拳、腕自体が何十倍にも巨大化していたのだ。
「マオさん!!」
「マオぢゃん!!」
「マオ!!」
「…………っ!!」
「な、何だよあの巨大な腕は!?」
「全てを一からやり直す……」
「ゴルガ!!避けろ!!」
真緒の安否を心配して、吹き飛ばされた二人の元へと駆け寄るハナコ、リーマ、フォルス、そしてアーメイデの四人。そんな中、シーラが注意を呼び掛けると同時に、巨大化したエジタスの拳が、ゴルガへと襲い掛かる。
「モンダイナイ、オレノカタサナラ、ウケトメラ……グッ!?」
「お前達を殺して……全てを無かった事にする……」
受け止められる。しかし、ゴルガの体に襲い掛かったのは拳では無かった。それは槍、先程まで巨大化していたエジタスの腕が鋭い槍に変形しており、そのままゴルガの体を貫いた。
「ゴルガ!!」
「ゴルガちゃん!!ちょっとどう言う事なの!?さっきまで巨大化していた腕が、今度は槍に変形しているわよ!?」
「ぐだぐだ言っても始まらねぇ!!食らえエジタス!!スキル“ヒュドラ”!!」
目まぐるしい状況の変化に、混乱するアルシア。そんなアルシアを尻目にシーラは、ゴルガを突き刺して動けないエジタス目掛けて、猛毒付の九連激を放った。
「お前達は……引き金を引いた……」
すると突如、エジタスの全身に穴が空いた。そしてシーラの九連激のスキルは、空いた穴を通過してしまいエジタスに当たる事無く、過ぎ去ってしまった。
「な、何!?くそっ!!だったら、直接攻撃しに行くまでだ!!」
「待ちなさいシーラちゃん!!闇雲に行くのは危険よ!!」
アルシアの忠告を無視して、シーラはエジタス目掛けて、自身の槍を背中に突き刺した。
「…………」
「よし!!刺さった!!……何!?」
突き刺した槍を引き抜こうとするが、全く引き抜け無かった。慌てて両手で引き抜こうとするが、槍はびくともしなかった。
「くそっ!!どうなってやが……こ、これは!?」
すると、突き刺した槍がどんどん奥深くへと入り込む。勿論、シーラは一切力は加えていない。槍が独りでにエジタスの体の中へと、引きずり込まれたのだ。
「返せ!!返せよ!!この!!」
「望み通り、返してやるよ……」
「!!?」
シーラが引きずり込まれた槍を取り返そうと、エジタスの背中を殴っていると、突然背中からシーラの槍が飛び出して来た。背中から飛び出した槍は、シーラの体に突き刺さった。
「あ……あがぁ……!!」
「シーラちゃん!!…………いい加減にしろよエジタス、そっちがその気なら……こっちも全力で行かせて貰うぞ!!」
サタニア、ゴルガ、シーラまで傷付いてしまった。それにより、アルシアの怒りが頂点に達した。
「他の皆には悪いが……ここで死んで貰うぜ……スキル“大炎熱地獄”!!」
アルシアの両刀からスキルが放たれ、エジタスの全身を炎が包み込む。
「…………」
「対象のMPを媒介として燃える“大炎熱地獄”。卑怯かもしれないが、悪く思うな……よ……!?」
勝利を確信したアルシア。しかしエジタスは、ゴルガを突き刺している腕を元に戻すと、肩の肉を摘まんだ。そして次の瞬間、まるで爬虫類が脱皮をするかの様に炎に包まれている全身を脱ぎ捨てた。脱ぎ捨てた全身から現れたのは、新しいエジタスだった。ほんの少し、一回り大きくなっている様にも見えた。
「に、肉を脱ぎ捨てる……!?そ、そんな生物が本当にいるのか……!?」
「“エジタス”は良く頑張った……」
「!!?」
気が付くと、いつの間にかエジタスの腕が巨大な鎌の様に変形しており、今まさにアルシアの首を狩ろうとしていた。
「…………っ!!」
「二千年間……良く頑張った……」
咄嗟の機転を利かして、アルシアは持っていた両刀を頭まで上げて、狩られそうになる首を守った。
「それなのに……こんな結果になってしまった……」
「!!?」
何とか首を守ったアルシアだったが、続けてエジタスが自身の片足を鞭の様に高く振り上げ、足の先を巨大な斧に変形させた。
「(ま、不味い!!横は、鎌があって避けられない!!)」
「これは……あいつへの贈り物だ……苦労したあいつへの……贈り物だ……」
そう言いながらエジタスは、斧となった片足をアルシア目掛けて振り下ろした。
「(くっ……一か八か!!)」
振り下ろされた瞬間、アルシアは前のめりに飛び出した。横からは鎌、上からは斧が襲い掛かる。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「…………」
間一髪。何とか命を繋ぎ止める事に成功したアルシア。
「あ、危なかった……何とか生き残れた……けど……片足を失ってしまったか……」
アルシアが目線を下に送ると、足が一本無くなっていた。命は助かったが、その代わりに足を失ってしまった。
「……微妙な贈り物になってしまったな…………」
***
「…………うっ……うぅ……」
「あっ、マオぢゃん!!目が覚めだだがぁ!?」
一方、真緒の安否を心配して吹き飛ばされた二人の元へと駆け寄った四人。真緒が目を覚ますと、ハナコ、リーマ、フォルスの三人が覗き込んでいた。その隣では既にサタニアが目を覚ましており、側ではアーメイデが治療していた。
「MPはもう回復しないから、回復魔法を扱う事は出来ないけど、止血位なら出来るわ」
「ありがとう……あぁ、マオ……目が覚めたんだね……」
「サタニア……私達はいったい……」
「僕達は、巨大化したエジタスの腕に殴られて、ここまで吹き飛ばされてしまったんだよ」
殴られたショックにより、少しばかり記憶が混乱をする真緒。そんな真緒に、サタニアが説明してくれた。
「そうでしたね……突然師匠の腕が巨大化して……」
「あれはいったい何なんだ……アーメイデさん……あんたなら何か知っているんじゃないか?」
「確か……あり得ないって……言っていましたよね?」
「…………」
フォルスとシーラに、問い詰められるアーメイデ。しばらく俯き目を閉じたかと思うと目を開き、ゆっくりと一言発した。
「“骨肉魔法”」
「「「「骨肉魔法……?」」」」
「それはいったい、どんな魔法何ですか!?」
骨肉魔法。聞いた事の無い魔法に、五人は更に問い掛ける。
「禁じられた魔法は知っているね?」
アーメイデの言葉に、その場にいる全員が頷く。
「太古の昔、聡明な魔法使い達が更に強さを欲した事で、禁じられた魔法は生まれた。その中でも、群を抜いて強力な禁じられた魔法が二つ存在していた。その内の一つは……“ティルスレイブ”」
「えっ!?」
アーメイデの口から発せられた“ティルスレイブ”の名前に、サタニアは酷く驚いた。
「それって……サタニアが持っている……」
「そう、あの剣こそが二つの内の一つなのさ……だが、ティルスレイブは大量の死体から生まれた……言わば自然的な存在……逆に、エジタスが扱っている骨肉魔法は、何百人という魔法使いがその命を捧げた事によって生まれた……人為的な存在……自然と人為、強さを求めず生まれた存在と、求めて生まれた存在。その強さは火を見るよりも明らか……」
「そんな…………」
実際に戦った真緒だからこそ分かる。ティルスレイブの恐ろしさ、その強さが。しかしアーメイデの表情を見るに、全て真実であると確信した。
「それで……その骨肉魔法は……どんな能力なんですか?」
「……具体的に説明するのは難しいわ……でも、敢えて言葉にするとすれば……全てを可能とする……かしら……」
「全てを可能とする……」
「ずっと不思議だった……何故私と違って、停止魔法を扱えないエジタスが二千年も生きていられるのか……骨肉魔法によって、機能しなくなりそうな内蔵を取り替えていたのね……」
「と、取り替えるって……まさか脳みそも取り替えるって事か!?」
心臓や肺なら、取り替えられるかもしれないと納得する。しかし、脳みそとなると流石に異議を唱える。
「そうよ……記憶をそのままに、脳みそまでも取り替える事が出来る……私の停止魔法と違って、空気中のMPまで止めてしまって、MPが回復しないというデメリットも存在しない……まさに最強最悪の魔法と言っていいわ……」
「ぞんな……ぞれじゃあ……もうオラ達に勝ぢ目は無いだぁ…………」
「「「…………」」」
「「まだだよ!!」」
「「「「!!!」」」」
諦め掛けていたその時、真緒とサタニアの二人が立ち上がって、声を張り上げる。
「私は……諦めません……だって……まだ返事を貰っていませんから……」
「返事?」
「僕達は……エジタスに告白した……まだその返事を貰っていない……」
「む、無理だ二人供!!そんな体で勝てる訳が無い!!」
傷だらけの体に鞭を打ち、フォルスの心配を無視してエジタスの元へと歩き出す二人。そして、真っ直ぐとエジタスを見つめながら、背中越しに語る。
「私達は……勝ちに行くのではありません……」
「僕達の愛を……もう一度……ぶつけに行くんだ……」
「…………あなた達……相手は化物よ……それでも行くの?」
アーメイデの言葉に、真緒とサタニアは歩みを止めた。そして、こちらに向かって振り向いた。
「「例え化物だとしても」」
「私は師匠を……」
「僕はエジタスを……」
「「愛している!!」」
満面の笑み。恋する二人の笑みは、百点満点以上の笑みであった。その笑みを見た者達は確信した。真緒とサタニアは、エジタスを心から愛しているのだと……。
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