第14話嵐の兆し、そして進路の先へ
翌朝、「みはま」は東京湾をゆっくりと南へ進んでいた。空は晴れていたが、気象レーダーは伊豆諸島沖に熱帯低気圧の接近を示していた。
艦橋では、学生艦長・尾道瀬戸内が航路の確認をしていた。
「副艦長、予備進路の再確認を。あの低気圧、進路変わったら面倒よ」 「了解。三崎來亜、天候予測再計算お願い」
「任せて」と言いながら、來亜は真剣な顔で予測プログラムを操作していく。
一方、戦術会議室では、瀬戸内檸檬と中津川雛子が、先の演習で得たデータをもとに艦の戦術教本の更新作業をしていた。
「このラインの遮断、阪奈の判断が大きかった。あのカッター隊、予定より2分早く侵入してたから」 「戦術は“情報”で決まる。…でも最後は、“人”ね」
檸檬が微笑み、雛子も小さく頷いた。
その頃、艦内食堂では、梅田阪奈と尾道瀬戸内がホットミルク片手にくつろいでいた。
「私たち、戦ってばっかりだよね」 「でも、嫌いじゃないでしょ? こういう緊張感」
「…まぁ、ね」阪奈は苦笑しながらも、視線は艦内に貼られた航海予定表へ。
「なあ、次の寄港先って——伊豆・新島?」
「うん。現地の防災訓練の支援と、生徒交流会もあるらしいよ」
瀬戸内が言ったその時だった。
——警報音。
「艦橋より全艦通達! 前方海域にて不審な通信を傍受。全乗員、警戒態勢に入れ!」
艦内に緊張が走る。
優子が冷静に指示を出す。
「電子戦班、通信のトレース急いで! 場合によっては哨戒ドローン出すわよ!」
「通信内容、断片的ですが……“コールサイン未登録”“船籍不明”……」
佐渡ヶ島深が艦橋に駆け上がってくる。
「優子、これマズいかも。もしかして、あの黒潮航路の——」
「うん、聞いてる。“海賊訓練区域”に近い」
海上自衛隊が以前設定した模擬敵行動区域、“戦術想定A区域”。ただし、最近民間船の通報で“本物らしい動き”が報告されていた場所でもある。
「演習の余韻に浸ってるヒマはない、か」
そう言った優子の背中に、責任の重さが滲んでいた。
◆ 新たなミッション、伊豆新島の防災連携
翌日、進路変更を最小限に抑えながら、「みはま」は伊豆・新島港へと到着。
迎えたのは、地元の高校生たちと、新島防災本部の職員たちだった。
「すげー……本当に学生の艦なんだ……」と感嘆する地元生徒たち。
「みはま」の生徒たちは、彼らに艦内のシステムを案内し、防災・避難誘導のワークショップを共に行った。
檸檬が地図を使って説明する。
「この島は海底火山の活動圏にも入ってる。津波や噴火、通信遮断のケースもある。そのとき、どう“自分が誰かを守るか”を考えるのが、防災の第一歩」
地元の高校生たちは真剣な表情でメモを取り、質問が絶えなかった。
夜。新島の浜辺で、ささやかな交流会。
焚き火の周りで、カレーと焼き魚を手に談笑する美浜の生徒たちと島の若者たち。
「戦うことも必要だけど、“守る”って、こういうことかもな……」來亜がぼそっと言った。
檸檬がその言葉に頷く。
「ねぇ、次は私たちの“物語”をこの島の子たちに伝えようよ。演習の記録、教材に使えるようにさ」
「それ、いいな。戦うだけじゃない“学園艦”を見せたい」
◆ 嵐、そして決意
翌朝。天候が急変。低気圧は熱帯性暴風雨に変わり、予想進路が新島直撃に。
「撤収するのか?」と來亜。
「いや……この艦は“避難管制支援艦”としての役割もある。新島を捨てられない」と優子。
「全員配置につけ! 今からが“本番”よ!」
——再び、生徒たちは艦に散る。
島民の避難、通信支援、物資補給、海象レーダーと津波監視……。
次第に暴風が吹き荒れる中、「みはま」は“動く避難基地”として、港内で粘り強く支援を続けていた。
——その姿は、まさに“希望の灯”だった。
◆ 嵐のあと
嵐が去った夜、島の空には満天の星。
防災本部からの無線が艦橋に届いた。
「美浜学園艦“みはま”、新島住民を代表して感謝します。あなたたちは、私たちの誇りです」
生徒たちの目に涙が浮かぶ。
艦橋で、優子が静かに言った。
「進路——180。速力12ノット。“みはま”、次の学び舎へ進む!」
そして、また一つの夏の章が幕を閉じた。
——だが、その物語はまだ、続いてゆく。
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