第3話 お楽しみの昼食

 外は予報通りお昼前から雨が降りだした。教室では昼食を済ませた男子達が後ろの方で何やら騒がしい。


「ほんとにバカ男子達は迷惑」


 目の前に座っている亜里沙は、可愛らしいお弁当箱からウインナーを箸で摘み上げる。


「本当に元気だよね」


 私はそう言うと亜里沙ちゃんのより一回り大きく安定感のあるお弁当箱に、バランスよく配置されているおかずの中からアルパラのベーコン巻きに狙いを定める。


「こっちは優雅に昼食を戴いてるっていうのに埃っぽくて嫌になる」


 亜里沙ちゃんは鼻先を手で払う仕草をする。


「そうだね」


 私はベーコンとアスパラの相性って最高。ただでさえ美味しいアスパラにベーコンの美味しさが合わさって…もう、最高。なんて考えながらそう答える。


「まあ、でも…、元気があって良いんじゃない?」


 チラリと男子の方を見る。

 箒をバットに、消しゴムをボールがわりに野球をしている。小さい的に対して当てた、当たらないと楽しそうに遊んでいる。野球というよりは的当てゲームといった感じだろうか。


「この状況に元気っていう言葉が合うのは小学生まででしょ」

「うん。確かに」


 一球毎にどこどこに飛んだだとか、空振りした姿を囃し立てたりとか、そんな事に大声を出して笑っている姿は小学校の頃に見た風景と変わりがない。


「遥乃ちゃんは衝撃的だったし、子供達はうるさいし、今日はイベント目白押しだわ」


 お昼を一緒に食べようとハルちゃんを誘ったけれど、前のクラスのお友達と約束があるらしく、今日は二人でお昼を食べている。


「ハルちゃんて面白いでしょ?」

「面白いというより見た目とのギャップに圧倒されちゃった。今の私なら上手い返しが出来るのに、朝だったから全然頭が働かなかったわ。それが悔やむところね」


 亜里沙はおどけた仕草で肩をすくめる。


 パパについては然る事ながら、奥手な私は新しもの好きのハルちゃんから色々な事を教えてもらった。人気のアイドルや流行りの動画。小さい時から今に至るまで、ハルちゃんに手を引かれながら遊んだ思い出が多くある。

 せっかく同じクラスになったんだから、二人には仲良くなって欲しいな。


「でも、なんでパパなんだろうね」

「言ってたけど大人の魅力ってやつじゃない?あれだけ自由奔放だと同年代の男子だと手に余るんじゃない?」

「少し歳の離れたお兄ちゃんもいるしその影響もあるのかな?」

「お兄ちゃんがいるんだ。それだったら尚更かもね」


 ハルちゃんの人懐っこい笑顔と、天真爛漫さは男子から人気も高い。デートのお誘いなどのアプローチがある事は聞いている。結果を聞くと中には良い人もいるみたい。だけれど、これといった決定打に欠けるらしい。

 確かに大人の男性に目が向いていると、後で遊んでいる男子達は幼く思えてしまうのかもしれない。


「大人びてるっていったら、仲田先輩とかいるのにね」

「遥乃ちゃんにとってはそれもちょっと違うんじゃない」


 私の通っている高校にもイケメンといわれる人はいる。


 揺るぎない人気は、バスケ部の仲田玲男先輩と生徒会長の竹内優斗先輩。

 仲田先輩はお父さんがイギリス人で、背がすごく高いのに顔がすごーく小さい。試合では色々な制服の女子が先輩の名前を呼んで応援をしているみたい。彼女の静華先輩と仲良く歩いている姿は、ドラマのワンシーンみたいでため息しか出ない。

 竹内先輩は成績上位の秀才。常にトップ争いをしている。顔もさることながら熱狂的な支持を得ているのが声。行事や集会などで声が聞きたいから、と邪な考えの女子生徒に推薦されて生徒会長になる。という逸話を持った人。


 普段からいい声なのに改まった席でだす声は、思わず目を瞑りたくなる。もったいないから目は瞑らないけど。※友人談


「人気の先輩二人は私からみても大人びてるなと思うけれど…」


 先輩達には興味は示すけれども、恋愛の対象とは見ていない感じ。

 ハルちゃんにとっては何かが違うみたい。

 そうなると同級生から名前を出しても同じ反応かな。


 野球部の大杉君は二年生ながらエースで四番。大杉君も仲田先輩と同じタイプ。練習している姿を一目見ようと、フェンスに張り付いている他校の生徒をよく見かける。

 サッカー部だと、北村君、吉澤君、都丸君。

 北村君は次期キャプテンといわれている人。面倒見が良くてリーダーシップもある。爽やかな笑顔に胸がキュンキュンする、と人気がある。

 吉澤君は文武両道で次期生徒会長といわれている人。二年生の中では一番人気があると思う。優しくてかっこいい。運動もできて頭もいい。その上、声も素敵となったら人気がでない訳が無い。竹内先輩の影響か生徒会長には声も重要という流れができてきているのかもしれない。

 都丸君は気分屋のお調子者。


 あと、部活はやっていないけれど渋谷君。真面目な生徒とは対を成す存在。儚げというかミステリアスというか、周りの人が持っていない雰囲気が人気の秘密。

 他にも素敵な人がいるけれど二年生は大体この五人に人気が集まっている。


 今年の二年生は粒揃い。眼福、眼福。※テニス部の先輩談


 あと、一年生の平野君も弟キャラで赤マル急上昇中。


「そういうおスズは誰か意中の人はいるの?」

「うーん。この学校の男子はそれぞれ良いところがあって素敵なんだけれど、私の周りの女の子は可愛い子ばっかりだしそっちに目がいっちゃうんじゃないかな」

「またそんなこと言って。待ってるだけじゃ何も始まらないよ。あんたももそろそろ恋愛の一つや二つすればいいのに」

「そうだよね。私にも素敵な恋が芽生えたらいいなー」


 そんな事を話していると私の背中にコツンと何かが当たる。


「わりー、わりー。変なとこ当たって飛んでっちまった」


 聞こえてきた声に、私のお腹の虫が『危機的状況』を知らせてくる。

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