第36話 プレゼント


しかしその若い見た目で60年以上前からここにいるとは、実際は何歳なんだろうか?

人間でいうところの25歳くらいに見えるのだが。


「――僕はフィリップ・ヘレン・ロンド。君は?」


“ヘレン”というのはヘレン村のフィリップという意味を持ち、エルフは皆そのような名前を持つのだそうだ。


「タナカ・ハルトです。少し用があって東から」


「ああ、君があのハルトくんか!さっき来たお客さんが話題にしてたよ!」


ハルトの名前を聞いたフィリップはお釣りを計算しているその手を止めた。

光矢のごとく現れあのギルド長を倒した謎の商人として、さっきのAランク試験がちまたで噂になっているらしい。


「しかし商人なのに冒険者もやるなんて、君は器用だね」


フィリップも元々冒険者をやっていたのだが、お金を貯めて店を持つという夢を叶えたのだそうだ。

ハルトはフィリップとの会話を弾ませながら、店内に置いてある商品をいくつか手に取っていた。


「頼もしい仲間たちがいますから」


ハルトは再びそれらを会計してアイテムボックスに仕舞しまった。

その中には魔導の教本、魔力を吸う指輪などが入っている。


「また何かあれば、気軽に頼んでくれて構わないよ」


「その時は是非、お願いします」


ハルトは魔法具店を後にして、宿に戻った。

宿を出てから一時間ほど経っているため二人はもう風呂をあがっている頃だろう。


「――あれ、ミーシャは?」


「ミーシャはまだ風呂に入っているでありんす」


部屋に入ると、髪を乾かし寝巻の浴衣に着替えたリリがベッドに寝っ転がっていた。

酒を飲みすぎたのか顔は赤く、表情は緩んでいる。

灯りとしてこの空間には蝋燭ろうそくしかないため少し薄暗い。


「――おかえりなさい、どこかに行かれていましたか?」


しばらくしてタオルを頭に巻いたミーシャが扉を開け入ってきた。

さっき一緒に買ったシルクの寝巻を着ている。


「これを買いにちょっとね」


そう言ってハルトはアイテムボックスから”空間ポーチ”を取り出して渡した。

ミーシャはそれが自分へのプレゼントだとは気づかず、手渡されてきょとんとする。


「――こ、これ私に…ですか?」


「うん、その中に調理器具とか着替えとか入れて管理してね」


ミーシャも年頃の女の子だ。

着替えを俺から渡されるのも、嫌だし恥ずかしいだろう。


「ありがとうございます!いつも買ってもらってばかりで申し訳ないのでいつかお返ししますね…」


ミーシャは自分のベッドに座り、ルンルンで持っている服をたたんで仕舞っている。

毎回プレゼントをするととても喜んでくれるので、こちらとしても嬉しくなってしまう。


そういえばリリにはあまり何かを買ったり、武器を作ってあげていないな…

魔法を教わったりミーシャの話し相手など世話になっている部分もあるので、今度何か作ってあげようとハルトは考えた。


「――なぁ、リリはなんか欲しい物無いのか?服とか武器とか」


「わっちは酒が好きなだけ呑めれば満足でありんす、その分の金はミーシャに使ってあげておくんなんし」


しかし何もしてあげないというのはあまり納得できないので、ハルトは武器を作ってあげることにした。

まだ構想を練る段階なのですぐ製作に取り掛かることはできない。

リリの服装に似合うと言ったら…刀か?


ハルトもサクッと風呂に入り、寝る準備をして部屋の蝋燭をフッと消した。

夜の見張りも必要ないので、久しぶりにぐっすりと眠ることが出来るだろう。

必須ではないが大事なストレス解消だ。


明日も一日ゆっくりした後、この街を出よう。

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