第26話 ”アレス”

――外が明るくなり、ハルトはテントを片付けて馬車に乗ろうとしたが、ミーシャに渡すものを思い出して振り返った。

ハルトはアイテムボックスから取り出し、昨晩さくばん製作したスナイパーライフルをミーシャに渡した。


「――!これは…?」


ミーシャは驚きつつも、それがだとすぐに理解した。


「試しに作ってみたんだ、持ってみて」


そのサイズはミーシャの体と並べると、首まであろうかという長さであった。

その反動に華奢きゃしゃ体躯たいくが耐えられるのかという懸念けねんもあるが、「黒妖石こくようせき」の衝撃吸収は目を見張るものがあるので大丈夫だろうきっと。


ハルトはミーシャに構え方、仕様などを説明した。

紅石こうせき」を使った弾道の補正はあくまでも補助的なのだが、なぜ作ったのかというと……単純にカッコよかったからだ。


「そうだな……あそこの岩を撃ってみてくれ」


ミーシャはその武器のプレッシャーに固唾を飲んでうなずいた。

ハルトは「遠見」を使用しないと見えない距離なのだが、ミーシャは目も良いらしい。

その場にせ、片目をつぶってスコープをのぞき込む。

標的は500m以上離れた岩、今までのゴム弾の距離とは違う。

「紅石」に魔力を流し砲身バレルの先端に紅い光が集まる。


「――撃ちますっ」


ミーシャはそう呟き、トリガーを引いた。


「――キュイン…ドッパァァァァン!!!」


その瞬間、赤いレーザーかのような紅い光線が岩を穿うがった。

その紅い光線というのは「紅石」によるものだ。

二秒ほど遅れ、着弾の爆音が鳴り響いた。

その結果を見るためにハルトは「遠見」で確認した。

3mはあった岩は真ん中に大きく穴を穿ち、周りはドロドロに溶けてしまっている。

しっかりと命中しているようだ。


「……当たった」


「――やるではないか、ミーシャ!」


リリはあれを撃たれたらひとたまりも無いなぁ、と冷や汗を流しながらも感嘆かんたんの息をらしミーシャに拍手を送っていた。


元の世界で実弾を撃った経験は無いのでどれだけ難しいかは分からないが、いきなり渡されたスナイパーライフルで命中させるなんてやはりミーシャ狙撃のうまさに目を見張るものがあるな。

ハルトはこのスナイパーライフルに”アレス”と名付けた。ギリシア神話の軍神だ。


そのうち戦闘服とかも作ってミリタリー女子なんてのも…

妄想もうそうが止まらないハルトだった。


――昼頃になり、ようやく目的の鉱山に到着した。

山のふもとに入口であろう大穴が開いていて、その前には開けた空間がある。

遠くから見たところでは”キングキメラ”の存在は確認できないが、あの穴の中に潜んでいるのだろうか。


ハルトは木のかげに馬車を停めて、リリとミーシャに指示を出した。


「俺はあの広場に奴をおびきき出すから、ミーシャはここからアレスで狙撃してくれ」


ハルトはアイテムボックスから”アレス”を取り出し、弾薬と一緒にミーシャに渡した。ミーシャはうなずいて黙々と狙撃の準備を始めた。


「リリは俺と一緒に着いてきてくれ」


リリは回復魔法を持っているので、バックアップ要員として着いてきてもらう。

ハルトは草木をかき分けてリリと大穴を目指した。


「……主様」


二人は大穴の前まで辿り着き、暗闇で見えない中を見据みすえていた。

近づくほどひしひしと感じる存在感にハルト達の間には緊張が走る。

ミーシャはスコープを覗き二人の様子を見ていた。


「――ああ、いるなこの奥に」


ハルトは「炎弾」で闇を照らし、コツコツと足音を鳴らして進んだ。

鉱山であるのでツルハシなどが取り残されていた。


しばらく進んだその時だ。


「――キョエェェェェァ!!!!」


鋭く光る眼光がハルト達を睨みつけ、”キングキメラ”は叫んだ。


***************

ご愛読いただきありがとうございます!


どんどん元の世界の武器が増えていきますね汗



次回、予想外の展開?!


お楽しみに!

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