第10話 第3王子

ミーシャには冒険者のような服を買ってあげたのだが、それに”隠者の羽衣”を合わせると中々それらしかったので、それもあげることにした。

本人もかなりやる気である。

…しかしまだLv8と決して高いとは言えないステータスなので、ハルトが見守ってやらないとだが。


「冒険をするなら馬車が必要だな…寝床にもなるし、何十kmという距離を歩くのは苦痛だ」


――ハルト達は来た道とは違う道で、宿へ歩いているとちょうど馬車を何台か整備している人が居た。

売っている雰囲気は無いのだが、一応聞いてみることにした。


「すいません、この馬車売ってたりしませんか?」


「……売れなくもないのだが…私の商売道具である故、値段は張ってしまうのだがいいのか?」


「ええ、大丈夫です」


「だったら、馬付きで金貨70枚、荷車だけで金貨40枚だ」


確かにかなり割高ではあるが、ここで値切るのも野暮というものだろう。

ハルトは言い値で買うことにした。


「では、馬付きでお願いします」


ハルトは帽子を被った恰幅のいいおじさんに、巾着袋に金貨を70枚入れて渡した。

それを見ていたミーシャは「どんだけお金持ってんの…?」という目線を送ってくる。


「…!まいどあり!あ、そうだ。何かのついででいいから、この手紙をメリアルガ公国のヴァシル商会へと届けてはくれんか?」


メリアルガ公国…恐らくこの近辺の国だろう。

手紙を届けるくらいであればお易い御用だ。


「ええ、わかりました」


ハルトは手渡された手紙をアイテムボックスにしまった。それを見て驚かないのは、大抵の冒険者が”空間ポーチ”を持っているからだろう。街中で冒険者がアイテムを収納しているのを目にする。


「では、明日また取りに来ます」


「ああ、分かった。ありがとうな!」


――宿に戻ったハルト達は、夕飯を食べるために食事の席に着いていた。


「今日もありがとうございます!ご注文はどうされますか〜?」


いつもの犬耳少女だ。家の為に働いて偉いな。

俺が元の世界にいた時は家の手伝いなんてほぼしてなかったぞ。


「…じゃあ、今日はこの”マッシュルームのグラタン”にしようかな。ミーシャは?」


「私は……このハンバーグを…」


ミーシャはおずおずと注文する。


「ほんとに、ご馳走になりっぱなしで申し訳ないです……」


「いいんだ、気にしないで。俺はミーシャの料理を1番楽しみにしてるんだしさ」


「ではしばらくお待ちください〜」


そう言って犬耳少女が厨房に戻った。


――数分待っていると、突然やってきた誰かによって、戸が思い切り開かれた。


「……来やがったか。あんちゃん、その嬢ちゃんの耳、隠した方がいいぜ」


隣の席で呑んでいたモヒカンの冒険者がハルトに耳打ちをする。


「おいお前ら!頭が高いぞ!この俺様を誰だと見受ける?!」


金髪フツメンの男が、傍らに2人の兵士のような男たちを連れて宿に入ってきた。

一体どこのチンピラだ?……護衛がついてるという事は、どっかのお偉いさんだろうか。


「…ミーシャ、フードで耳隠しとけ」


さっとフードで耳を隠すミーシャ。

だがその仕草が奴に見えてしまったらしい。


「…おい。そこの女。今、何を隠した?」


…まさかミーシャが面倒な奴に絡まれてしまった。

手を出されなければ、穏便に済ませよう。


そして歩み寄ってくる金髪。ミーシャの事をじっくりと観察する。恐怖に震えるミーシャ。


「…お前、足元のはしっぽか?しかもよく見れば亜人じゃないか。なぜ汚らわしい亜人がここにいるんだ?w」


――汚らわしいだと…?

ハルトは思わず殺してしまいそうな衝動をワナワナと抑えていた。


モヒカン曰く、この国の第3王子だそうだ。

一体国王はどんな教育をしているんだか。


「ん?それにお前、父上に追い出されたやつじゃないか!亜人にものを食わせるなんて、お前もとんだ物好きだなぁ?w」


…穏便に済ませようと思っていたが、ミーシャをここまでけなされるのは我慢ならない。

殺すまではしなくとも、痛めつけておこう。


「……おい。この子に謝れよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る