第8話 服の買い出し

――翌朝になり、小窓から差し込む朝日で目が覚めた。


「ミーシャ、起きてるか?」


「…………」


ハルトはミーシャの部屋をノックするが、反応は無い。

気が張り詰めていて、あまり寝ていなかったのだろう。

無理もない、周りが何も見えない檻の中何日も閉じ込められていたのだ。


「さて…風呂でも入るか」


ハルトはミーシャもまだ起きないので、朝風呂にでも入ってゆっくりすることにした。


――今回ハルトが泊まっている”メシガゥマイ宿”の風呂は、外を出て裏庭に行くとある。親切なことにタオルは一枚無料貸し出しである。

その風呂はお世辞にも広いとは言えないような場所なのだが、体を洗うには申し分ない。


ハルトは脱衣所で服を脱ぎ、風呂釜に身を沈める。


「――これからミーシャをどうするかな…。王国に迷子として届けるべきか…」


王国のそれらしい所にミーシャを届ければ、何とかしてくれるだろう。

町を歩いてみた感じ、そこまで治安が悪そうには見えないしな。


――20分ほどで上がり、体を拭いて服を着てから部屋に戻る。


「買い出しの時に俺の服も買わないとな…」


ハルトはベッドに腰を掛けステータス画面を操作する。大量に余ったスキルポイントを割り振ることにした。


「…ハルト様、起きていますか?」


ドアの前で、ミーシャがハルトに声を掛ける。起床したようだ。


「ああ、起きてるよ。入って」


「失礼します」と小声で呟き、ミーシャが部屋に入ってくる。

その頭は寝癖で少しボサボサであったが、昨日助けた時よりは肌ツヤがいい。

風呂に入り、腹一杯に食べたのはもちろんだが、昨日飲ませた”万能回復薬”も効果を発揮したのだろう。

何度見ても可愛いな…昨日は垂れていた猫耳が、今日はピンピンしている。


「ミーシャ、今日は買い物に行こう」


「……買い物ですか?」


頭に「?」を浮かべ、首を傾げるミーシャ。


「ミーシャの服が無いから買いに行こう。俺もこの国の売店とか見てみたいし」


「…!いえ、大丈夫ですよ。ここまで色々して頂いたので…」


申し訳なさそうに猫耳がしゅんとする。感情に連動するあの耳、面白いな。

ハルトは言葉を発しつつ、ミーシャの黒い猫耳をじっと観察していた。


「まあまあ、そんなこと言わずに。お金なら使い切れないくらい余ってるから」


「……。」


僅かに頬を赤らめるミーシャ。ついつい色々買ってあげてしまいそうだ…。

ハルトはさっきアイテムボックスに入っているのを見つけた、”隠者の羽織”をミーシャに渡す。その……下が危ないからだ。


――ハルトとミーシャは宿を後にし、売店が並ぶ通りに向かった。

現在時刻はおよそ正午。お昼時な為か人通りがかなり多い。


「この服とかいいんじゃないか?」


「…い、いえ、私にはちょっと…華やか過ぎます……」


ハルトは冗談交じりにゴスロリ服を見せる。

フリルが沢山ついていて可愛らしいが、装飾が凝っているためか、値段は金貨7枚とかなり張る。


――結局、ミーシャが選んだのは胸元が少しだけ開け、白を基調として青いアクセントが刺繍によって描かれている服であった。

…ついでに俺が勝手に部屋着になりそうなものを買っておいた。


またしばらく街道を練り歩き、肉巻きなどをミーシャと食べ歩いた。

アクセサリー店が目につき近寄ってみる。


「へいらっしゃい、上質な宝石がたんまり入ってるぜ!」


気前のいい兄ちゃんが接客をする。


「なんか欲しいのあるか?」


「……このヘアゴムが欲しいです」


そう言ってミーシャが指を指したのは、 加工されたサファイアが付いた、一対になっているヘアゴムだった。

ハルトは「ステータス鑑定」のレベルを上げたことによってアイテムの鑑定も行えるようになったので、ミーシャの持つヘアゴムを鑑定する。


『一流の職人が手掛けたサファイアの付けられた高級ヘアゴム。売値:グローリア金貨2枚』


会計をする前にミーシャに「外で待ってて」と言う。

ここで気を遣わせてしまうのは良くない。


「じゃあこれ、お願いします」


ハルトはさっきの店員に会計を求める。


「お買い上げありがとうございます!お兄さん、どこからおいでで?」


「…えーっと、遠い東の国から昨日やって来ました」


流石に「王様に召喚されて、異世界からはるばるやって来ました!」とは言えないので、東の国ということにした。


「へぇ…東から…。では、金貨8枚になります!」


――ぼったくられている。先に鑑定で正規価格を調べておいて良かった。

この程度の出費なんともないが、ただこいつの思惑にハマるのもしゃくなので交渉することにした。


「……ちょっと高くないか?」


「いえいえまさか、このサファイアは高名な鉱石職人が加工したものですぜ?それでも、とおっしゃるなら金貨6枚と大銀貨25枚でどうです?」


正規価格と比べればまだ十分に高い。

もうちょっと攻めよう。


「――金貨3枚と大銀貨20枚だ」


ハルトの提案に店員は驚く。

そして思った。「こいつ只者じゃねぇ」と。


「んなっ!お兄さん、それはやりすぎでしょう?分かりました、そこの可愛い嬢ちゃんに免じて金貨4枚でどうです?」


金貨4枚も値切ったのでもう十分だろう。…まだ正規価格よりは割高だが。


「…買った!」


「まいどあり~」


〉「交渉」スキルを得た。

〉称号「店主泣かせ」を得た。


「はいこれ!安かったから気にしないで」


「…ありがとうございます」


値切って買ったヘアゴムをミーシャに手渡す。

そしてミーシャは猫耳の後ろで髪を結んだ。

ハーフツインの髪型だ。顔を動かすたびに揺れる二房の髪がとても愛くるしい。


「……どうですか、?」


モジモジしながら、上目遣いでハルトを見上げる。


「――ああ、とても似合ってるよ」

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