竜のおどろきしほど、この天下は滅ぶ なれば竜に与する者とななりそ
神永 遙麦
分かれるにおどろかぬふりせり
なら、神はいない。
先祖からの教えを伝え継ごうとしていた両親が死んだ時、私はそう思った。
本当に、神がいるのなら通り魔から守ってくれたはずだった。仮に本当に神がいるんだとしても、高みの見物じゃ意味なんてない……ないも同然だ。
でも竜は、仕事をする。この世に溢れる悪意が竜の仕業なのだとしたら、神より有能だ。
そう感じた時、私は筆箱からカッターナイフを取り出した。軽く手首を切った。
忍者の記憶方法の1つに「頭に刻む」という方法があるらしい。髪を伸ばして、刻んだ跡を隠すらしい。さすがに頭に刻むのは怖いけど、この痛みで残したかった。今の喪失感も、痛みも、叫びたくても叫ぶことの出来ない苦しさも。全部残したかった、今のこの瞬間を。
混乱しているはずなのに、なぜか頭の中は意外なほど静かだった。
――竜の
私は「教え」を復唱しながら、手首を流れる綺麗な血を舐めた。血を舐めながら、静かに家の中を歩いた。私以外、誰もいない家は静かで、私の靴音が冷たく響いた。そして、誰かの声も絶えず聞こえていた。私は、気付かないふりをした。
私は再びカッターナイフで手首を切った。考えつく限りの呪いの言葉を繋げて吐いた。血を床に垂らした。竜が現れた。私は静かに顔を上げた。
――竜に与する者となる――。
最大の禁じ手を行うことが私からの、両親を助けてくれなかった神への反抗だった。
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