第75話 ユメの実力、そして父親の後悔
ユメが俺の婚約者となったことでやらなければならないことがあり、俺はユメの実家へ足を運ぶ。
それは不自由な生活をしているユメを一刻もはやく解放することと、ユメを貰うことへの挨拶だ。
「で、デカいな……」
「はい。これでもユメの家は剣術の名家です。貴族といくわけではありませんが、立派な家を持ってます」
俺の屋敷よりは劣るが、なかなか立派な家を持っている。
「こちらが入り口です、カミト先生……じゃなかった、カミト……さん」
「お、おう。な、なかなか慣れないな、ユメ」
婚約者となったことで俺たちはお互いに呼び方を変えた。
ちなみに、ユメの告白を断った際に泣かせた罰として、呪いを解いた日は夜まで一緒にデートした。
「こほんっ。こ、こちらになります」
咳払いを挟んだユメから案内され、俺はユメの実家の敷地に入る。
そして家の中に入り、異様な光景を目にする。
使用人含め、誰もユメに話しかけないからだ。
「ユメはこの屋敷ではいない者として扱われてます。話しかけてくれるのは数人のメイドだけです」
「そうか…」
ある程度は聞いていたが、ユメはこの家の雇用主の娘だ。
無視するのはおかしいことだが、それが容認されているらしい。
「でも、今日はすれ違う人たちがユメを見てます。カミトさんがユメの隣にいることを不思議に思ってるのでしょう」
だが、S級冒険者で英雄と呼ばれる俺が隣にいることで、すれ違う人全員が見ている。
「こちらです。こちらにお父様がいらっしゃいます」
ユメが「失礼します」と言って戸を開ける。
俺はユメに続き部屋に入ると、剣の手入れをしている男性がいた。
「お前に割く時間などないから簡潔に伝えろ」
剣の手入れをしながらユメを見ることなく告げる。
「っ!」
今のを聞いて殴りそうになったが、俺は踏みとどまる。
ユメが怒ってないのに俺が怒るわけにはいかないからだ。
「はい。では簡潔にお伝えします。ユメはカミトさんと婚約しました。なので家を出て行きます」
「なに?」
そこでようやく俺たちの方に視線を動かす。
「出来損ないのお前が婚約?」
「はい。ユメはカミトさんに嫁ぎます。お世話になりました」
ユメの言葉を聞いた男性が俺を見る。
「本当か?」
「はい。俺はユメと婚約させていただきました。今日はその報告をするために参りました」
俺の言葉を聞いて嘘をついていないと思ったのだろう。
「ははっ!英雄と呼ばれる男も見る目がないな。こんな奴を貰ってくれる変わり者だったとは」
「あ?」
その言葉にカチンとくる。
「こんな奴だと?それはユメのことを言ってるのか?」
「あぁ。コイツは家の中でも邪魔だったからな。婚約したのなら、どこへでも行ってくれ。ただし、2度とこの家には帰ってくるなよ」
ユメの親なのか疑いたくなるくらいの対応をユメにしている。
娘が婚約したにも関わらず、祝福する様子などない。
むしろ居なくなって嬉しいと言っている。
それを聞いて、ユメの親ということで下手に出ていたことが馬鹿馬鹿しくなる。
俺は立ち上がってユメのお父さんに一言言おうとするが、隣にいるユメが俺の服を引っ張る。
そして首を横に振る。
「っ!」
俺はユメが耐えている様子を見て踏みとどまる。
「話はそれだけか?なら急いでこの家から出て行ってくれ。あ、そうだ。一言だけお前に感謝を伝えておこう」
何を思ったのか、突然訳の分からないことを言い出す。
「S級冒険者で英雄と呼ばれる人と婚約してくれたおかげで我がアルジョンテ家は注目を集める。出来損ないの娘だったが、よくやった。今まで追い出さずに育てた甲斐があったよ」
英雄である俺の婚約話は王都中に駆け回る。
そのため必然的に婚約者であるユメの実家は注目を集めることになるだろう。
だが、そうはならない。
「いえ、ユメはアルジョンテの名を捨てますので、アルジョンテ家が注目されることはありません」
「なに?」
先程まで嬉しそうに話していたユメのお父さんの眉間にシワがよる。
「どういうことだ?」
「そのままの意味です。ユメはアルジョンテの名を捨てます。名乗ることは2度とありません」
ユメは俺と婚約した人が『ユメ•アルジョンテ』ではなく、『ユメ』とだけ名乗るとのこと。
ユメがアルジョンテ家出身ということは事実だが、ユメのお父さんの計らいで、今までユメが表に出ることはなかったため、ユメがアルジョンテ家ということを知ってる人はいない。
これは俺とユメで決めていた。
俺がユメにひどい対応をしてきたアルジョンテの名前が嫌いだったから。
「ははっ、面白いことを言うな」
そう言うと、ユメのお父さんから覇気のようなものを感じる。
「スキルが使えないお前が俺に太刀打ちできるわけないだろ。意地でも名乗らせてやる」
手入れしていた剣を握り、ユメに向ける。
「この家は代々、意見が食い違った時は何でもありの決闘で決めてきた。さぁ、剣を取れ」
ユメがスキルを使えないことは理解しているはずだ。
つまり負ける要素などない勝負だと思っているだろう。
だが…
「分かりました。ユメが勝てばアルジョンテの名を捨てますので」
そう言ってユメも剣を取る。
「婚約者にカッコいいところを見せようとしてるのか。だが、スキルを使えない出来損ないのお前に勝ち目などない」
「それはやってみないと分かりませんよ」
「ふんっ、舐めた口を。ついて来い」
俺たちはユメのお父さんの後に続き、部屋を出る。
そして、広い敷地に案内される。
「ここならスキルを使っても問題はない。さぁ、剣を構えろ」
それを聞いて、ユメも剣を構える。
「カミトさん、見ててください。ユメの実力を」
「あぁ。楽しみにしてるよ。まだユメの本当の実力を見てないからな」
キスをして呪いが解けた後、ユメは1人でダンジョンに潜っているため、未だに俺はユメの本来の実力を知らない。
「では行くぞ!」
ユメのお父さんがスキルを使って、突き攻撃を繰り出す。
急所は外しているが、避けることができなければ間違いなく大怪我を負うだろう。
そんな攻撃を前にしてユメは動かない。
勝ったと思ったのだろう。
ユメのお父さんの口角が上がる。
しかし、ユメが攻撃を喰らうことはなかった。
「閃光」
ユメがボソっと呟くと、視界からユメが消える。
「なにっ!どこだ!?」
「ここです」
「っ!」
ユメの声が背後から聞こえる。
消えたかのように見えたユメは、視認が難しいほどのスピードでユメのお父さんの背後に回っていた。
「そこかっ!」
その声を聞いて背後に剣を振るが空を斬る。
「ここですよ」
すると、今度はユメが目の前に現れる。
「くっ!」
そんなユメへ攻撃を何度も行うが、全て躱されて空を斬る。
「はぁはぁ……」
「お父様、そろそろ終わりにしますよ」
肩で息をするユメのお父さんに接近したユメが剣を弾き、首元へ剣を突きつける。
「お父様はユメに何度やっても勝てません。なので今日からユメはアルジョンテの名を捨てます。2度と関わらないでください」
そう言い放ってユメは俺のもとに来る。
「カミトさん!ユメの実力はどうでしたか!?」
「あぁ。とても強くなったね」
「えへへ……」
ユメが嬉しそうに照れる。
そんなユメを俺は鑑定する。
*****
名前:ユメ•アルジョンテ
年齢:16
レベル:150
筋力:10404
器用:10414
耐久:10400
俊敏:10429
魔力:10438
知力:10431
※上記のステータスは称号の効果を含む。
スキル:【身体強化 Lv.MAX】
【剣術 Lv.MAX】
【閃光】
称号:〈呪いを解呪した者 Lv.MAX〉(New!)
装備:訓練用の長剣
訓練用の服
訓練用の靴
*****
ーーーーー
〈呪いを解呪した者 Lv.MAX〉
〈呪いを所持する者 Lv.MAX〉を所持していた者が呪いを解呪した時に獲得できる称号。
全ステータスが10,000上昇する。
ーーーーー
ユメのステータスはこの称号によって化け物となっている。
(これでレベル150だからな。俺みたいにレベル4,000とかになったらどうなるんだろ?)
そんなことを思っていると…
「お、おいっ!お前、何をした!」
ユメの実力に驚いたユメのお父さんが声を上げる。
「それはですね……」
そう言ったユメが俺に近づき、俺の頬に“ちゅっ”とキスをする。
「愛の力ですよ!」
満面の笑みでユメは言うが、その返答にユメのお父さんは困惑する。
「今まで育ててくださり、ありがとうございました」
そんなユメのお父さんに感謝を告げて歩き出す。
「いいか。俺はお前がユメにしてきたことに怒りを覚えてる。だから今さら帰って来いとか言ってもユメは渡さないからな。1人で後悔してろ」
そして俺もユメのお父さんに一言告げてユメの後を追った。
その後ろでは…
「クソがぁぁぁーっ!」
と、大声で叫んでいるユメのお父さんがいた。
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