第73話 ダンジョンでの訓練 4

 飛びついてきたリーシャとレオノーラを抱きしめる。


「さすがカミト様ですわ!」


「カッコ良かったです!カミト様っ!」


 リーシャとレオノーラが俺に抱きついた状態で言う。


「ごめんな、不安にさせて。もう大丈夫だから」


 ドラゴンがいたことで抱きしめることができなかった2人を、俺は力強く抱きしめる。


「いいなぁ……」


「むぅ……」


 そんな俺たちを羨ましいそうに見るユメさんと睨むメルさん。


 メルさんの睨みにビビりつつも、俺はユメさんを手招きする。


「……?」


 首を傾げながら俺に近づくユメさんの頭に手を置き、優しく撫でる。


「ふぁ……」


「ユメさんも怖い思いをしたからな。よく頑張ったよ」


「あ、ありがとうございます……」


 ユメさんの顔が真っ赤になる。


 すると今度はサヤが俺に近づく。


「カミトさん。私も怖かったです」


 そして頭を差し出してくる。


 そのため、サヤの綺麗な髪に手を置き、優しく撫でる。


「あ、あぁ。サヤもよく頑張ったよ」


「ありがとうございます。カミトさんからのナデナデは気持ちいいですね」


「ほんと!?ウチもー!」


 それを聞いたシャルちゃんまで俺のもとに来る。


「シャルちゃんもよく頑張ったね」


「ふわぁ……とても気持ち良いです……」


「ははっ、クレアの頭を良く撫でてたからかな」


 そう言って俺はシャルちゃんを撫でる。


 そんな俺たちの側で、サヤがメルさんに話しかける。


「カミトさんからのナデナデは最高だったよ、お姉ちゃん」


「な、なんで私に言うのよ」


「だって羨ましそうに見てたから」


「そ、そんなことないわよ!」


 サヤに指摘され、顔を赤くして否定するメルさん。


「カミトさん、お姉ちゃんも頑張ったのでご褒美が必要だと思いませんか?」


「え?」


 そして突然俺に振られる。


「お姉ちゃんも頑張ったので、カミトさんからの頭ナデナデが必要だと思います」


「それ、俺への死刑宣告だと思うんだが」


 男嫌いのメルさんの頭を撫でるとか、自殺志願者しかいないと思う。


「そんなことありませんよ。ねー、お姉ちゃん!?」


「えっ!え、えーっと……そ、そうね。カミトからのナデナデがどれほどのものか気になるから……と、特別に撫でさせてあげるわ!」


「あ、ありがとうございます」


 よく分からないが特別らしいので、俺はメルさんの頭を撫でることにする。


「はぁ……なんで上から目線なの……」


 その様子を見てサヤがため息をつく。


 俺はそっぽを向いてるメルさんの赤い髪を触る。


 そして優しく撫でる。


「メルさんのおかげでリーシャたちを気にすることなくドラゴンと戦えました。ありがとうございます」


「こ、これくらい大したことないわよ。カミトの方が頑張ったのだから」


 だんだんと顔を赤くするメルさんが早口で言う。


「ナイスアイストですわ、サヤ様」


「前途多難だからね。私がアシストしないと」


「………わたくし、サヤ様の方がメル様のお姉様と思ってしまいそうですわ」


 その様子を見て、リーシャとサヤがコソコソと話していた。




 無事、エンシェントドラゴンを倒した俺たちはメルさんと冒険者協会へ足を運ぶ。


「なるほど、10階層のフロアボスでエンシェントドラゴンが現れたのか」


「えぇ。カミトが倒したから怪我人とかはいないわ」


 そう言ってメルさんがエンシェントドラゴンの魔石をソフィアさんに渡す。


「それで、特殊条件とはなんだ?これが分からなければ繰り返すことになるぞ」


「はい。それに関しては分かりました」


 俺は賢者さんから聞いた特殊条件をソフィアさんに伝える。


「パーティーを組んでた者のレベル差か」


「はい。あの時パーティーを組んでた中で最もレベルが高かった俺と最も低かったユメさん。このレベル差がどうやら特殊条件を満たしたらしいです」


 賢者さんの話によれば、高レベルの人に低レベルの人がくっつき虫の如くいることを防ぐための特殊条件とのこと。


「俺とユメさんのレベル差は4,000を超えてました。そのため、エンシェントドラゴンという強力なモンスターが出現したと思います」


「なるほど。そのことは全冒険者に伝えるようにしよう」


「お願いします」


 俺たちは簡潔にソフィアさんへ伝え、冒険者学校へ戻る。


「ふぅ、まさかドラゴンが出てくるとは……」


 そんなことを呟きつつ、誰もいない屋上でひと休みしていると…


「カ、カミト先生。お、お話があります」


 真剣な表情でユメさんが話しかけてくる。


「何かな?」


「え、えーっと……こ、今回、エンシェントドラゴンが現れた原因はユメにあると聞きました」


 誰も「ユメさんのせいで」とは言っていないが、責任を感じやすいユメさんの性格上、そう捉えてしまってもおかしくない。


「そんなことないよ。俺のせいでもあるんだから」


「いいえ!ユメのせいです!」


 俺の言葉を大きな声で否定する。


「ユメは弱い。どれだけ努力してもスキルがないからモンスターを倒せない。だから今回もユメは皆さんに助けてもらいました。後ろで守られてばかりでした」


 ゴブリンやボブゴブリンをユメさん1人で倒すことはできるが、ダンジョン内の移動中に現れたモンスターはリーシャたちがほとんど倒していた。


 理由としては1対1の状況なら負けることはないが、ユメさんが複数のモンスターを相手にするとなれば身の危険があるからだ。


「ユメは強くなりたい。カミト先生のように強くなりたいです」


「うん。その気持ちがあるならユメさんは強くなれるよ」


 本心で思っている言葉をユメさんに告げる。


 すると突然、先ほどまでの勢いがなくなり、急にモジモジし始める。


「そ、その……なので……ユ、ユメのファーストキスをもらってくださいっ!」


「………え?」


 突然の告白に固まる俺だった。

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