第53話 賢者の鍵 No.8

 その後、メルさんが引き剥がすまで俺の腕に抱きついていたリーシャ様とレオノーラ様。


「カミトはデレデレしすぎよ!」


「す、すみません!」


 鬼気迫る迫力でメルさんに言われたので、とりあえず謝る。


「どうだったの?」


 そんな俺たちを他所に女王陛下がリーシャ様たちに問いかける。


「保留という形になりましたわ!」


「あら、保留なんて結婚を約束されたのと同じじゃない。だって女の子を待たせることになるのだから、良い返事が返ってくるに決まってるわよ」


「うっ!」


(俺に向けて言ってるなぁ)


 リーシャ様たちと話しているにも関わらず俺の耳にも入ってくることから、俺に向けて言っていることが伝わってくる。


 そんなことを思っていると、女王陛下が俺のもとへやって来る。


「カミト。2人のこと、真剣に考えてくれると嬉しいわ」


「もちろんです。必ず返事をします」


「それなら安心ね」


 そう言って頬を緩める陛下。


「あ、それと、S級ダンジョンを攻略した報酬としてカミトには家をプレゼントすることになってるわ」


「そういえば、そんな話がありましたね」


 宰相の件ですっかり忘れていたが、俺はS級ダンジョンの攻略でお金と家をもらっていた。


「準備ができ次第プレゼントするから、準備ができたら連絡するわ」


「ありがとうございます」


 そんなやり取りをした後、みんなに挨拶をしてからクレアが待つ宿屋へ帰った。




 数日後。


「リーシャ様たちへの返事、どうすればいいんだろ。それに先延ばしにしていたセリアさんからの告白も返事をしないといけないし……」


 ここ数日、リーシャ様とレオノーラ様への返事と以前セリアさんから告白された時の返事を考えていた。


「まさか女の子3人から告白されるなんて。S級冒険者だからみんな貰うことはできると言ってたけど……俺に3人も養う甲斐性があるのか?」


 リーシャ様たちの返事は保留となり、セリアさんからは「返事はいつでもいい。まずは私のことを知ってもらう必要があるから」と言われており、セリアさんから催促されてはいない。


「お金の面は心配ないだろうが、やっぱり3人は無理だと思うんだよなぁ。でも、3人とも優しくて可愛い。正直断る理由はないし、できることなら俺のことを好きと言ってくれた人たちを幸せにしたい」


 だが、今まで女性と付き合ったことなどない俺に甲斐性などあるはずもなく、ここ最近はずっとこのことで悩まされている。


「うーん」と1人悩んでいると…


「お兄ちゃんっ!いつまで唸ってるの!?」


 クレアから喝を入れられる。


「だって……」


「みんなお嫁さんにすれば万事解決なのに!」


「いやいや!そうは言っても……」


「はぁ」


 俺の悩みなどクレアにとっては小さなことのようで、ため息をつかれる。


「ここで考えても無駄だと思うから、気分転換に外出してきて!」


「………はい」


 抵抗できない雰囲気を感じたので、俺は黙って宿屋を出る。


 多分、宿屋にいても解決しないとクレアは思ったんだろう。


「確かにずっと宿屋で考えてたけど一向に答えが出なかったからなぁ。気分転換に外出するか」


 そう呟いた俺はある事を思い出す。


「そうだ!これを使う場所を探そう!」


 俺は巾着袋から『賢者の鍵 No.8』を取り出す。


 この鍵はS級ダンジョンを攻略した際の報酬部屋で巾着袋と一緒にもらった物。


 メルさんは要らないとのことだったので、俺が貰っている。


「S級ダンジョンの報酬だから高価な物が待ってるだろう!気分転換に行ってみるか!」


 ということで賢者さんを呼び出す。


「賢者さん、この鍵ってどこで使うの?」


『解、ここから北西に3,000メートル進んだ先にある山小屋で使用可能です。三股様』


「………」


(三股様ってなんだよ)


 俺のことを不名誉な呼び名で呼ぶ賢者さん。


「賢者さん?俺、三股してるわけじゃないからね?」


『答えを保留にすることで女をキープするような男は三股と呼んで良いと判断しました』


 なんか知らないが不機嫌な気がする。


(その通りだから言い返すことはできないが)


 そのため「こほんっ!」と咳払いを挟む。


「さ、さて、賢者さん!案内よろしくっ!」


『かしこまりました、三股様』


 俺は賢者さんの発言にツッコミまず、元気に歩き出した。




 しばらく移動すると賢者さんの言った通りの場所に山小屋を発見する。


「これ、賢者さんから言われなかったら絶対に見つけられないぞ」


 山の中腹に山小屋があり、辺りは木々で覆われていることで、知らないと見つけることができない山小屋となっている。


「さて入るか」


 俺はドアノブに手をかける。


 すると家具などが一つもない殺風景な部屋が現れる。


 しかも鍵を使う場所すら見当たらない。


「あれ?ここのはずなんだけど……どこで鍵を使うんだ?」


『解、床に隠し扉があります。そこで使用可能です』


 そう指摘されて床に敷かれている絨毯を剥ぐと、鍵付きの扉が現れる。


「なるほど。隠し扉だったか」


 俺はすぐに鍵を取り出して鍵穴に差し込む。


 そして“ガチャっ”という音を響かせて扉を開く。


 すると、地下へ続く階段が現れる。


「階段を降りた先に何かがあるのか」


 俺はすぐに階段を降りて、一つの部屋に辿り着く。


「さて、何があるかな。レアアイテムだと嬉しいなぁ」


 俺は期待に胸を膨らませながら部屋に入る。


 すると…


「お待ちしておりました。カミト様」


 と言ってお辞儀をするメイドが現れる。


「………へ?」


 予想の遥か上の事態が起こり、固まってしまう。


「私、賢者様にお仕えしております、シェスカと申します。約500年もの間、カミト様が来られるのを待ち続けておりました」


 丁寧なお辞儀をしたメイドが淡々と告げた。

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