第48話 作戦決行 5

 ここから派手に脱出することを決めた俺たち。


「というわけだから、私かカミトのどっちかが外で暴れて、もう1人がみんなを連れて脱出する形にするわ」


「なら俺が外で暴れてきます。外にいる冒険者、14人を相手にすればいいんですよね?」


「えぇ。お願いしてもいい?」


「任せてください!」


 俺はメルさんに応えて窓を開ける。


「皆さん、俺が囮になって外にいる冒険者たちの注意を引きます。その間にメルさんと脱出してください。また後で会いましょう」


 俺は捕まっていた女性たちに一言かけて窓から飛び降りる。


 降りる場所は冒険者たちが最もいる場所。


 “ドスンっ!”という音が響き渡り、その音に反応した冒険者たちが集まってくる。


「な、なんだ!?」


「どこから入ってきた!?」


 俺の存在を認知した冒険者たちが一斉に武器を構える。


「さて、要望通り暴れるか。かかってこいよ」


「っ!いいだろう。捕らえて聞き出すだけだ!」


 どこかの誰かがそう言った瞬間、囲んでいた俺に攻撃を仕掛ける冒険者たち。


 しかし、一斉に攻撃してこようが、S級冒険者である俺に敵うわけもなく…


「はい、1人ー!」


「グハッ!」


「2人ー!」


「うっ!」


「3人ー!」


「かはっ!」


 そんな感じで、飛び交かってきた冒険者達を殴る蹴るで気絶させていく。


 10人ほど気絶させたところで…


「つ、強いっ!」


「誰だ、コイツ!」


 冒険者たちが俺を見て怯む。


「そういえば、王宮で挨拶をする時に俺の顔出しをすることになってたから、知らない人が多いのか」


 街やダンジョン協会ではメルさんと一緒にいたことで、俺が新しいS級冒険者と認知されていたが、今はメルさんがいないため、俺のことを知らないようだ。


 だからと言って、ご丁寧に自己紹介はしない。


「俺のことをみんな知らないってことは、名前も知らないような人にコテンパンにやられてることになるが……それでいいのか?」


 俺は敢えて挑発してみる。


「っ!死ねっ!」


「屋敷に侵入させるわけにはいかん!なんとしてでも捕えろ!」


 俺が屋敷内に入って秘密を掴まれると厄介になると思った冒険者たちが一斉に攻撃してくる。


 その刹那…


「アイスソードっ!」


 どこかから氷の剣が無数に飛んでくる。


 その剣たちは正確無比に残りの冒険者たちへヒットする。


「「「「グァァァァァっ!」」」」


「メルさん!」


 俺は攻撃してきた人に心当たりがあり、攻撃したであろう人物の名前を呼ぶ。


「ごめん、カミト。遅くなったわ」


「いえ!囚われていた人たちは!?」


「無事に脱出させたわ。シャーリーのおかげで野次馬がたくさん屋敷の外にいて、消息不明と言われてた人たちが屋敷から出てきたことに困惑してたわ」


「狙い通りですね!」


「えぇ。あとは冒険者たちを無力化するだけよ。といっても、全員倒し終えたみたいだけどね」


 メルさんの発言通り、俺たちの足元には冒険者たちが転がっている。


「シャーリー、コイツらを縛ってて」


「了解致しました」


 “バッ!”とどこかから現れたシャーリーに後始末をお願いする。


「馬車の手配も完了しております。いつでも出発可能です」


「ありがとう、シャーリー」


 シャーリーに後のことをお願いして、俺たちは囚われてていた女性たちのもとへ向かう。


「結局、コソコソと移動なんてできませんでしたね」


「そうね。救出まではできたけど、脱出ってなると無理だったわね。これなら最初から強行突破でも良かったわ」


「あはは。そうですね。結局、屋敷を守っていた冒険者、全員気絶させましたから」


 そんな話をしながら俺たちは歩き出した。




 その後、女性たちの元へ辿り着くと、宰相の息子の悪事を囚われていた女性たちから聞いた領民が、宰相や息子へ怒りをあらわにしていた。


 中には消息不明と思っていた妻や子供が屋敷から現れ、感情のコントロールができていない人までいる。


 メルさんはその場の収集を図るため、声を上げる。


「よく聞いて!私たちは宰相の息子が行った悪事と、宰相が悪事を揉み消した証拠、それと王女様暗殺計画を企てている証拠を掴んでるわ!」


 メルさんの口から発せられた『王女様暗殺計画』という言葉を聞いて、場がシーンとなる。


「私たちが必ず女王陛下に伝えるわ!その時、宰相親子は必ず罰せられる!女王陛下からの罰だけじゃ不満という人は出てきて!」


 メルさんの発した言葉を聞いた後に不満を言う人など現れるわけもなく、場が落ち着く。


「ありがとう。そこでお願いなのだけど……」


 そして話題を王宮へ向かうことにシフトさせる。


「どなたか私たちと王宮まで来てほしいの。女王陛下へ伝えるのは私たちではなく、今まで宰相親子に苦しめられた人たちが言うべきなの。急だけど、今から来れる方はいる?」


 メルさんの呼びかけに……


「俺が行く!俺は妻と娘がワルムスに捕えられてたんだ!被害者である俺が伝える!」


「私も行くわ!私はワルムスから酷い目に遭わされた!ワルムスとワルダック宰相には相応しい罰を受けてもらうために私も同行します!」


 等々、たくさんの人が手を上げる。


「え、えーっと……」


「あはは……多いですね……」


 当初の予定では数人程度の予定だったが、50人程度の人が手を挙げている。


 それだけ、宰相親子が行った悪事に怒りを隠しきれないんだろう。


「時間がないから早く選んで王宮へ帰りましょう」


「そうですね」


 たくさん手を上げる人たちの中から、数人だけ選び、俺たちは王宮へと向かうことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る