スライム10,000体討伐から始まる逆転劇
昼寝部
1章 リブロ編
第1話 スライムしか倒せない男
この世界に住む人間は12歳の誕生日を迎えると、神からスキルを授かることができる。
そして、そこで得たスキルを活かせる職業に就くのが一般的となっている。
その中で、戦闘系のスキルを得た者はモンスターを討伐して魔石を手に入れることを仕事とする『冒険者』が主な仕事となっていた。
そんな世の中を俺『カミト•ヴィオレ』は生きていた。
「ふぅ、今日はここまでにするか」
先ほど倒したスライムからのドロップアイテムである魔石をバックに入れる。
俺は今、『リブロ』と呼ばれる比較的大きな街に存在するAランクダンジョンに潜っている。
場所は10階層中の1階。
Aランクダンジョンだが、1階層は最弱モンスターに分類されているランクEのスライムしかモンスターが出現しない。
「今日も一日中スライムを討伐して大銅貨3枚程度か。これじゃあ、いつまで経っても妹のクレアに不自由のない生活を与えることができないぞ。俺がもっと頑張らないと」
俺が15歳の頃、ダンジョンからモンスターが溢れ出すダンジョン崩壊によって両親が殺された。
両親が残してくれたお金だけでは生活が難しくなることに加え、妹のクレアを良い学校に通わせるためには収入が必要となり、俺は15歳という若さで冒険者になった。
「それにしても俺のレベルはまだ10か。やっぱりスライムの討伐だけじゃレベルは上がらないかぁ」
冒険者となって3年が経過した俺は、今だにレベル10と初心者の域を抜けることができていない。
理由は俺のスキルが特殊だからだ。
俺は「ステータスオープン」と呟き、目の前に現れた自分のステータスを確認する。
*****
名前:カミト•ヴィオレ
年齢:18
レベル:10
筋力:19
器用:18
耐久:22
俊敏:20
魔力:17
知力:23
スキル:【@&¥#%】
称号:なし
装備:ボロい短剣
ボロい服
ボロい靴
*****
基本的に1つレベルが上がると全ステータスが1〜3ほど上昇する。
レベルアップとともにステータスは順調に上昇しているが、このステータスはレベル10にしては低い方だ。
理由としては【身体強化】等の戦闘系スキルを持っているとステータスに補正がかかるが、俺の場合、スキルが【@&¥#%】と意味不明なスキルでステータスに補正がかかっていないからだ。
戦闘系スキルを所持してない人は冒険者を仕事にしないのが一般的なので、俺も冒険者とならないのが正しい選択だと思う。
だが、農家や商人等の仕事に就いても、専門のスキルがない俺が上手く仕事を行えるわけがないので、他にも理由はあるが一攫千金を狙える冒険者となった。
(せめて1つでもスキルがあれば手に職をつけることができるんだが……って無いものを悔やんでも仕方ない。スキルが無いことに対して神を恨むのはもう辞めるって決めただろ)
俺は12歳の時に【@&¥#%】というスキルを授かった。
最初はレアスキルかと思い喜んだが、そのスキルが将来的に全く役に立たないことを理解し、俺は神を恨んだ。
その時、両親やクレア、それと見知らぬ女性から励ましてもらい、俺は神を恨むことをやめ、前を向いて生きることを決めた。
その時、見知らぬ女性から冒険者を強く勧められたことは今でも覚えている。
(「冒険者となればそのスキルは覚醒する!だから冒険者になってくれ!そして世界を救ってほしい!」とまで言われたな。まぁ、結局、その女性の言葉を信じて冒険者になってるんだけど)
ちなみに俺と同じようにスキルが上手く表示されない人は見たことがない。
「スキルの補正がないからステータスが悪く、3年も冒険者をやってて未だにスライムしか倒せないんだよなぁ。いずれスキルが覚醒すると言われたが………俺はこのまま冒険者を続けても大丈夫なんだろうか?」
そんなことを呟きながら俺はダンジョンを出た。
ダンジョンを出た俺は魔石を換金するため、リブロにあるダンジョン協会へ足を運ぶ。
ダンジョン協会とは、この世界にあるダンジョンと冒険者を管理する組織で、俺はリブロ支部のEランク冒険者として活動している。
「ルーリエさん、魔石の換金をお願いします」
「はーい!今日もお疲れ様です!カミトさん!」
俺はリブロ支部のダンジョン協会で働いている『ルーリエ』さんに話しかける。
桃色の髪を腰まで伸ばした綺麗な女性で、リブロ支部内では1番可愛いと誰もが認めるほどの美女だ。
年齢は聞く勇気がないため分からないが、デカすぎる胸を見ると俺より年上だと思う。
俺がテキパキと手を動かすルーリエさんを見ていると…
「邪魔だ!」
「ぐっ!」
後ろから背中を押され、ルーリエさんが作業している机に勢いよくぶつかる。
“ドンっ!”という衝撃音で、この場にいた全員が俺たちの方を向く。
「ルーリエちゃん、スライムしか倒せないゴミよりも俺の持ってる魔石を先に換金してくれよ」
俺を押したのは『ラジハル•ノワール』といい、俺と同い年で、この支部の長である支部長の息子だ。
実力のある冒険者だが性格に問題があり、ことあるごとに文句や攻撃をしてくる。
「ちょっ!ラジハルさん!私は今、カミトさんの……」
「だから、3年も冒険者をやっててスライムしか倒せない男に構うくらいなら、俺とお話ししようぜ。今日の俺は8階層でランクBに分類されているオーガを倒してきたんだ」
そう言ってラジハルは俺が持ってきた魔石の何倍も大きな魔石をルーリエさんに見せる。
「ははっ!アイツ、またラジハルに虐められてるぞ!」
「俺、スライムしか倒せない奴がルーリエちゃんと仲良く話してるのは気に食わなかったんだよ。だからラジハルがイジメてるのを見るの好きなんだよな」
「一昨日、ちょっとイライラしたことがあってアイツに足を引っ掛けて転ばせたんだよ。そしたら何も言わずにスタスタ歩き始めてさ。あれは傑作だったぜ!」
「なにそれ!俺もあとでやろ!」
そして俺とラジハルを見て、みんなが笑い始める。
「ラジハルさん!私は今、カミトさんの対応をしてるんです!だから……」
「おいおい、ランクBのモンスターを倒せる冒険者は全冒険者の中でも15%しかいないんだぞ?しかも俺はこの支部に所属している冒険者の中で2番目に強いんだ。エリートな俺よりもコイツを優先するってことか?」
「そんなの当たり前……」
「ルーリエさん。俺は後でいいので先にラジハルさんの換金をお願いします」
俺はルーリエさんの言葉を遮って、先にラジハルの魔石を換金するよう促す。
「お、今日も物分かりがいいな。コイツが譲ってくれたんだ。先に俺の換金を頼むぜ」
「……わかりました」
納得のいってない顔でルーリエさんはラジハルの魔石を換金する。
「今日も5時間潜って大銀貨6枚か。お前は……あぁ、1日潜って大銅貨3枚程度か。弱いってのは可哀想だな」
そして毎回恒例の自慢とともに、可哀想とか微塵も思ってないような顔で同情の言葉を言う。
「あ、そうだ。ルーリエちゃん、今日もたくさん稼げたから仕事終わりに食事でもどうだ?俺が奢ってやるよ。まぁ、朝帰りになると思うがな」
「いえ、遠慮させていただきます。今日も先約がありますので」
ルーリエさんはラジハルなど眼中にないかのように冷たい声で断る。
「チッ!どけっ!」
「グハッ!」
ルーリエちゃんに断られたラジハルは俺を勢いで蹴り飛ばし、壁まで吹き飛ばされる。
「ちょっ!ラジハルさん!支部長に報告しますよ!?」
「あ?俺は通り道にいたゴミを退けただけだ。暴力を振るったわけじゃねぇ」
「なっ!今のは確実に暴力を……」
「ルーリエちゃん、今のは暴力じゃないよ。ただ通り道にいたゴミを排除しただけだ」
「支部長っ!」
ルーリエさんの発言を遮りラジハルを擁護したのは、この支部の長を務めている『クラウス•ノワール』
ラジハルのお父さんになる。
「だから騒ぎにすることはない。さぁ、早く仕事に戻れ」
「………はい」
支部長に逆らうわけにはいかないルーリエさんが、渋々仕事に戻る。
俺は立ち上がり、すぐにルーリエさんの元へ移動する。
「大丈夫です。これくらい痛くないですよ」
「ごめんね、カミトくん。私たちに力がなくて……」
この支部に所属している冒険者のほとんどが俺に何らかのイジメをしてくる。
そして、それを支部長が揉み消しており、大ごとになっていない。
そんな環境だが、ルーリエさん含め、ここで働いている受付の女の子たちは俺に優しくしてくれるため、なんとか冒険者を続けることができている。
「俺は気にしてません。さぁ、俺の分の魔石も換金してください」
俺はルーリエさんに改めて換金をお願いし、ダンジョン協会を後にした。
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