第16話
ここは悲壮感に暮れてヤンデレに捕まってしまったと涙しなければならない場面。そのはずなのに、わたくしの胸の中を占める気持ちは嬉しいという気持ちだけ。
この魔法宣誓をすれば、わたくしは彼から目を逸らすことなんてできなくなる。彼以外の隣では生きられなくなる。けれど、そんな些事どうでも良い。わたくしが何年もの間彼だけを愛し抜いてきたと思っているの?わたくしはエリザベート・ラ・ツェリーナ伯爵令嬢。誇り高き外交官の娘であり、自他共に認める才姫。
彼の隣に立って良いのは、彼の隣で生きて良いのはわたくしただ1人。
「《わたくし、エリザベート・ラ・ツェリーナは女神アフロディアーネの名において、わたくしの婚約者レオンハルト・フォン・アイゼンハーツを夫とし、病める時も健やかなる時も、たとえ死が2人を別ったとしても、未来永劫この魂尽きるまで彼だけを愛し続けることを誓うわ》」
彼にお姫様抱っこされたままでこんなことをするだなんてかっこも何もつかない。
けれど、この現状こそがわたくしにはお似合いだと思った。
「「《2人の宣誓を以てして、》」」
「《我》」「《わたくし》」
「「《の婚姻を女神アフロディアーネに捧げます》」」
思えば婚約をしてからというもの色々なことに巻き込まれた。痛いことも辛いことも悲しいことも苦しいことも、いっぱいあった。でも、わたくしが全てを乗り越えてここに立っていられるのは全てレオンさまのおかげ。
「………愛しておりますわ、レオンさま」
ぼそっと彼の耳元につぶやいたわたくしは、隠す必要のなくなった左目を晒すため、髪に紛れさせていた眼帯を外す。いつの間にかオパールへと変化していた瞳のおかげで、わたくしは視力を代償に彼を守ることのできる聖なる力を手に入れた。
わたくしは今日全てを失って、身1つで広い世界に投げ出されるはずだった。悪役令嬢のお役目はちゃんと果たせなかった。それなのに、今はこんなに幸せ。
「僕も愛してるよ、エリー」
どちらからともなく近づけたくちびるが重なる。
甘い甘い口付けを交わすわたくしとレオンさまの頭上には、女神アフロディアーネの祝福が降り注いでいたらしい———。
Fin.
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