さぁ、悪役令嬢のお役目の時間よ。

水鳥楓椛

第1話

「エリザベート!こちらに来なさい!!」


 太陽のように煌めく黄金の髪にダイヤモンドのような輝きを放つジルコンの瞳を持つ王太子レオンハルト・フォン・アイゼンハーツに呼ばれたわたくしエリザベート・ラ・ツェリーナは不機嫌さを隠さない眉間の皺と鮮やかな青で染め上げられた扇子を手に、ダンスホールの中央へと歩みを進める。


 わたくしの容姿は膝あたりまであるストレートの白銀の髪に、桜の花びらを溶かしたみたいに愛らしいクンツァイトの瞳。ここまでを聞いていればとんでもなく可愛らしい容姿のご令嬢が出てきそうだけれど、本当に出てくるのは吊り目かつ隻眼の恐ろしいご令嬢。


 レオンさまの隣では彼の側近たちとうるうると瞳に涙を溜めて立っている100年ぶりに聖なる魔力を持って生まれた平民の少女アイーシャが、わたくしのことを睨んでいる。

 アイーシャは、ミルクティー色のふわふわした肩上の髪とペリドットのクリっとした瞳が愛らしい少女であり、この乙女ゲームの『ヒロイン』。


(あぁ、とうとうこの時が………、)


 わたくしは悲しみを讃えた、………周囲には怒っているようにしか見えない表情で、冷酷な表情をしたレオンさま向き合う。


「わたくしになんのようですの?レオンハルト王太子殿下」


 ぱらりと開いた扇子で口元を隠したわたくしは、冷たい声を彼に向ける。

 今日、わたくしはこの場で婚約破棄される。醜く断罪され、家族には勘当され、修道院に向かう途中にレオンさまの命令によって殺害される。でも、わたくしは逃げるわけにはいかなかった。だからこそ、わたくしは怖くてもこの場に立っている。


(さぁ、悪役令嬢のお役目の時間よ)


 必死になって練習してきた笑みを浮かべたわたくしは、レオンさまたちの前に気だるげに立つ。


 ———それこそが、わたくしのお役目だから………………。

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