[8] 疾患

 それら小児期より見られる精神疾患は現在、社会的関心を高めつつある傾向にある。その中でもとりわけ精神医学界隈にて話題とされるものに、有人性障害があげられる。この障害の第一の特徴としてパポラッチョ式自由筆記テストにおけるペインター人格表現陽性がある。昨今欧米で作り上げられつつあるサルカバディアン・システムでは、筆記ペインター陽性を確定診断として用いられることはほとんど確信できる。今後有人性障害診断に際して、筆記テスト判断の重要性が増すであろうことは疑いのない事実である。しかしその一方でペインター人格表現は多岐多彩に渡るため、陽性判断を下すことは非常な困難が伴うであろうとも言われている。今回我々は全国の精神病専門医の協力のもと、できうる限りの有人性障害患者による筆記テスト結果を収集した。有人性障害に関する診断あるいは研究の場面に、この文章集を役立てていただければ幸いである。


 さて収集したテスト結果に基づき、それらの共通点を以下に列挙してみようと思う。陽性判断の第一指標は文中にペインターという言葉が含まれることではあるが、それだけに頼るとどうしても偽陽性が多くなってしまう。論理的根拠はないが障害患者によく見られる傾向として参考にして欲しい。


 まず一つ目の特徴は、こうやって文章集を編んではじめてよく見えてくるものだった。文章同士の相互補完、相互メタ関係の形成である。有人性障害患者の文章は互いに何の打ち合わせもしていないにも関わらず、空白を埋めあったり、互いが互いを内包しているかのような記述を見せたりするのである。たとえば今回の文章集の中では、まるで自分がすべてを小説として書き上げたかのように振舞うものもあれば、文章集全体をノンフィクションととらえて評論を下す記述も見られた。それらは時に読んでもいない他の患者の文章に対し正確な言及を下している。さらには有人性障害そのものについても文中で記述されるものがあった。繰り返すようだが患者たちはそれぞれ個々に隔離され、接触する機会はまったく許されていない。


 二つ目の特徴は先の二つと違いオカルトじみたいものではない。有人性障害患者の文章にはどこか意味の通らないものが含まれている。それは文法的な間違いであったり、単語の意味の捕らえ方が一般とはずれていたりと様々ではあるが、とにかく読んでいてわからない部分というのが含まれている。この共通的特徴から前頭葉ブローカー言語野の器質的病変を指摘する研究者も多いが、その真偽はまだ定かではない。


 有人性障害は先天的後天的両方の側面を持つ精神疾患であり、患者数は現在上昇傾向にあることは否めず、将来重要な疾患の一つとして扱われることは間違いない。同時に研究分野としての成熟はいまだ浅く、今後の大きな発展が見込まれている。今回このような文章集を発行することができたのも、彼ら最先端の研究者の方々による協力があってこそである。皆様方ご協力まことにありがとうございました。なおこの本に掲載された文章については、患者本人はもとより、その担当医師、患者家族の承諾をきちんと得たうえで掲載させていただきました。また著述者の実名については掲載を拒絶する声が多かったため、削除することにいたしました。ご了承ください。有人性障害研究ひいては精神医学界の明るい未来を祈りつつ、これにて筆をおくことにいたします。もう一度協力者の皆様に謝辞を述べることで、結びにかえさせていただきます。ありがとうございました。

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