第36話 それが今見事に壊れていく


「ソウイチロウ様がそう言うのでしたら、お任せいたしますわ」


 そしてソウイチロウ様曰くわたくしが頼んだ料理は量が多いらしく、半分食べても良いかと確認して来るのでわたくしはそれを了承する。


 ただそれだけの事なのだがわたくしはその料理が来るのが楽しみで、ただでさえワクワクしていたのが更に期待し始める。


 わたくしが食べきれない量のデザート、それは正に子供の頃に思い描いていた『ケーキでお腹いっぱいにしたい』という夢が今まさに叶うという事ではないか。


 そして、そわそわしながら待つ事数分、パイの上に白いクリームが渦巻き状に乗せられた料理と、宝石のように綺麗な緑色をしたドリンクがやって来る。


 まず初めにわたくしはメニューに描かれているリアルなイラストで想像していた大きさの一.五倍から二倍くらいの量のパイを見て私の感情は高ぶってしまう。


 今日はこれを思うがまま食べても良いのだ。


 ソウイチロウ様と半分にして分け合うと言っても、それでも十分すぎる量である。


 そして、あらかじめソウイチロウ様が取り皿も一緒に注文していたようで、既に切り分けられているパイと、その上に乗っている白いクリームを半分に分けていく。


「……一口食べてみるか?」


 その光景を食い入るように眺めていたわたくしを見て、ソウイチロウ様がスプーンで白いクリームを掬い、わたくしの口元へと持って行くではないか。


 こ、これは正に……学園の図書室で読んだ、最近庶民の間で流行っている恋愛小説のワンシーンではないか。


 好きな人が甲斐甲斐しく食べさせてくれるとはいえ、はしたない行為ではある。しかしながら故に背徳感と羞恥心、そして嬉しさで、食べる前にも関わらずどうにかなってしまいそうである。


 今の庶民は恋人とこんな事を毎日やっているのかと思うと、元とはいえ公爵家として育ったわたくしがまるで遅れているようにすら思えてくる。


「で、では……よろしくお願いいたします」

「あーーーーん」

「あ、あーーーーん」


 そしてわたくしはソウイチロウ様の『あーーーーん』という掛け声と共にスプーンの上に乗っている白いクリームを口の中へと入れる。


 ソウイチロウ様曰くこのクリームは氷菓子と説明してくれたのだけれども、その時はいまいちピンと来ていなかった。


 公爵家や貴族のパティーで食べる氷菓子は果実で作ったシロップを雪にかけて食べるような物であり、氷菓子とはそういう物であるという固定概念があったのだが、白いクリームを口に入れた瞬間それが今見事に壊れていくのを感じる。

 

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