第66話 ココカナの町にて

「うおっ」


 ドッカ―の町から南にニ十キロの地点にあるココカナの町。

 その一画に展開された革命軍の簡易基地内にてダラスが突如声を上げた。


「何か?」

「い、いや何でもない。すまん、続けてくれ」


 ダラスは現在基地内のブリーフィングルームにて、今回の作戦概要を話し合っていた所だった。

 傍らにはアスターの姿もあり、怪訝な顔をして自分のこめかみを押さえていた。

 そしてきょろきょろと周囲を見回しているのだが、ブリーフィングルーム内には見知った兵士の顔しかいない。


 少し首を傾げたアスターは、手元の作戦資料へと視線を落とした。


「今回の作戦は諸君らも知っての通り、革命軍の後方支援をしている領主の確保にある」


 その後、司令官は部隊の展開、陣形、敵の予想勢力などの話を続け、長い作戦会議は幕を閉じた。

 

「先ほどはどうされたのですか?」


「うん?」


「先ほど突然声をあげられたではありませんか」


「あー、あれな」


 作戦会議を終えたダラスとアスターは簡易基地内の給湯所へと赴いてインスタントのコーヒーを入れていた。


「何か分からんが、急に誰かに見られたような気がしてな……ただの気のせいだとは思うんだが妙に背筋が寒くなってな」


 ダラスは入れたコーヒーを啜り眉をしかめる。

 配給されているコーヒーの質はあまりよくなく、ひどく薄いぺらぺらな味だった。


 コクや酸味なども無く、ただただコーヒーのような味がする温かいお湯に近い。

 それでも飲めないよりかはマシだ、と彼らは思っていた。


「ダラス司令もですか? 実は俺も同じような感覚に襲われまして」


「何?」


「気の所為だとは思いますが、ちょっと気になりまして」


「そうだなぁ、悪い事の前触れじゃなきゃいいんだが」


「ですね……」


「しかし俺達が革命軍に入るとは」


「言い出したのは総司令じゃないですか」


「はは……まぁな」


 ダラスは再びコーヒーを啜り、まずいな、と言って苦笑いを浮かべた。

 あの後、街のゲートまで辿り着けたものの、ダラスが急遽革命軍に力を貸すと言い出した。


 アスターとしてはやはりな、という程度のものだった。

 革命軍に身を預けてから分かった事だが、正規軍にいた者らも数多く在籍していた。


 実権を握ったコザの方針や軍の在り方に異を唱える者、気にくわない者など、理由は様々であった。

 革命が起きてしばらく経つが、革命軍の規模は日に日に大きくなっている。

 各地の地方領主達が相次いで離反を始め、どこかの国が革命派を援助しているという情報も流れてきている。


 テイル王国は大陸最大の軍事国家だけあってその領土はかなりのものだ。

 そして辺境の小さな領主から広い地域を治める領主など、その数も比例して多い。

 革命派を支持している民衆の勢いに負けて反旗を翻したのか、それとも領主自身の思惑によって国に背いたのかは定かではない。


 今では国の半分の領主達が離反し、革命派の勢いを押し上げているような状況だった。

 ただそれを指を咥えて見ているようなわけではなく、軍部は各地に兵を派遣して鎮圧に努め領主達を捕縛していた。


 領主を捕縛すれば革命派が領主を取り戻そうと襲い掛かってくるが、そこはプロの軍人と一般市民、どちらが勝つかなどは分かり切っていることだった。

 だが革命派も馬鹿ではないらしく、軍の補給経路を断ったり奇襲をしかけたりと様々な戦法を手に正規軍を翻弄しているのも事実だった。


 そして内戦の影響で物資もまともなものがなく、革命軍の者達は缶詰や乾燥食料などで食いつないでいるのが現状だった。

 町を制圧すれば、その街から物資を吸い上げる事は出来るがそれも一時しのぎにしかなっていないのが現状だ。


 総統となったコザは革命派との徹底抗戦を掲げており、近隣より新たに雇い入れたテイマー達の働きぶりもあって軍の力は回復し始めていた。

 しかしテイマー達も纏まった頭数を確保出来ているわけではなく、色々な種類のモンスターが所属する混成部隊のようなあり様になっていた。


 それでもやはり一般市民からすれば、モンスターが統率されて襲ってくるというのは脅威以外の何物でもない。

 新たに設立されたモンスター部隊は主に首都防衛戦でのみ使用されている。


 所属するモンスターの数的にそうせざるを得ないのだ。

 首都上空は数少ないグリフォン部隊が定期的にパトロールを行なっている。

 クロードが放ったTホークも、実はグリフォン部隊に捕捉されていた。


 しかしたった一体であったのと、共にいたのがネズミ型モンスターを捕まえた鳥のモンスター二体のみであったために、ただ珍しいモンスターが迷い込んだだけであろうと、見逃されていたのだった。


 報告もされてはいたが、そんな珍しいモンスター一体の事を気にするほどの余裕は軍に残っていなかった。

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