第36話 教育って怖い
「貴殿は何を言いたいのだ?」
「いえ別に、素晴らしい愛国心だなと感心しまして」
「そうかな? 当たり前のことかと思うのだが……まさか魔王軍の方々はそこまでの考えがないのか? 魔王軍は強大にして広大、徹底した軍教育がされているものと認識していたが、違うのかな? 休みなどという単語が出てくる辺りでお察しだが、それともそれが強者の余裕というやつなのかな?」
ホルンストが少し嘲るような態度を取った瞬間、それまで黙って聞いていたダレクとサリアとカレンの様子が一変した。
「おい。てめぇどう言う意味だ」
「ちょっとカチンときたなー喧嘩売ってる?」
「一国の将ともあろう者が敵地で発していい言葉ではないと思うね。こちらが下手に出ているからと調子に乗らない方がいいよ」
まるで突風が吹いたかのような殺気が俺の周りで巻き起こった。
それだけで俺の背筋に冷たい汗が流れる。
ホルンストもそれを察したのか、
「ま、待て待て! 違うぞ! そういう意味で言ったのではない、誤解を与えてしまったようですまない、謝罪させて欲しい」
「チッ」
「言い方って大事だよねー」
「気をつけなさい」
わたわたと大きく身振り手振りをして焦るホルンストは少しだけ滑稽に見えた。
もしもホルンストがさらに魔王軍やクレアを貶めるような言葉を発したのなら、ダレクもカレンもサリアも黙ってはいなかっただろう。
もちろん俺もだけど。
ブルーリバー皇国軍五万程度ならダレクやサリアの敵ではないだろう。
それだけ二人にまつわる逸話はもの凄いものだ。
ダレクは一騎当千どころか一騎当万くらいの強さを持っているし、サリアであれば戦術系広域殲滅魔法の一つや二つお手の物だろうから。
人間の境地を超えた人間、それがダレクとサリアなのだ。
カレンについては英雄譚というよりも聖女として人々を救い続けたという逸話が多く、どこそこと戦った、なんていう話は聞いた事がない。
けどさっきの見通す悪意とかいう真眼は初めて聞くし初めてお目にかかったものだ。
「も、申し訳ない……!」
謝ってはいるけど、きっと心の中ではダレク達がなぜ怒っているのか理解出来ていないんだろうな。
でもこれでブルーリバー皇国の闇が見えた。
例え敵地だろうが、自分の意に反する者は無意識に嘲り煽る。
他を認めず、自分が正しいと思う事を周囲に押し付けて強要する。
よく見れば後続の兵士達の目には生気がない。
きっとホルンストの言うような教育がしっかりと根付いているのだろう。
洗脳に近い教育がしっかりと。
一兵卒から将校に至るまでの徹底した軍教育が生み出すのがこれか。
こんなのただの戦闘人形じゃないか。
皇国は魔族とのいざこざが多いのは知っているけど、これがその結果なんだろうか?
いやでも前世の世界での第二次世界大戦中の話だが、東條英機という人物がいた。
大日本帝国の戦争を推し進めた人物の一人だが、彼だって『戦はいよいよ長期化を予想しあるをもって緊張の連続は不可なり。局内課内の年間を通ずる休暇計画をたてよ』と言っていたらしい。
ようは戦いが長引くからみんなしっかり休んで英気を養って頑張ってね、といった所だろう。
皇国とは雲泥の差である。
「そ、それで。どうなのだ? 協力してくれるのだろうか」
額に浮いた汗を拭きながらホルンストが持ちかけるが、俺以外の三人表情は何とも言えないものだった。
「いやー……どうでしょうねぇ……カレンはどうだ?」
「んー私的にはちょっち無理かなー」
ダレクは肩をすくめて溜息を吐き、カレンも同じくはぁ、と嘆息する。
「な、なぜだ!」
自分の言っていた事が、魔王軍でのルールと真逆だった事をしらないホルンストは驚いて目を丸くしている。
「え? だって何するのかも教えてくれないんじゃ力の貸しようがなくない?」
「だからそれは機密事項で……」
こんな感じであれば協力しようがないし、そもそも俺達とホルンストは敵対関係なのだ。
敵側に軍事機密を話せはしないだろうし、こちらとしても敵の行動理由を聞き出せたのだから話は終わり。
サリアが手助け出来るかもしれないと持ちかけたのはブラフであり、ホルンストはまんまとそれに乗ってしまっただけの話。
相手が同じ人間だから油断してしまったのだろうけど、クレアもここまで考えて俺達を派遣したんだろうか?
どちらにしても、俺達がブルーリバー皇国軍を手伝う事はない。
なにしろその探している張本人がここにいるのだから。
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