第11話 テイル王国にて

 ――テイル王国軍施設にて。


「緊急事態発生! 緊急事態発生! 各員第一種戦闘配置! これは演習ではない! 繰り返す、 これは演習ではない!」


 軍施設敷地内にウウゥーーという甲高いサイレンの音が鳴り響き、拡声器から兵士の悲痛な声が飛び出す。

 既に各所からは破壊音やモンスターの吠え声が聞こえており、兵士達の怒号も混じって聞こえてくる。

 クロードがテイル王国を離れて三日後、運命の日はやってきた。


「一体全体どういう事だ! なぜモンスター達が反乱している!」


 モンスター部隊統括司令ダラスはブリーフィングルームの机を思い切り叩きつけながら吠えた。

 ダラスの反対側には報告に来た兵士が直立不動の姿勢をしている。


「分かりません! 現在確認出来ているのはグレイトウォーホース三千頭が逃走! サイレントウルフの三分の一が消失、残りが反乱、グリフォンも同様、その他被害多数!」

「召喚士は! クロードは一体何をしている!」

「現在捜索中です! ですが一部からは、その……」

「なんだ!」


 ダラスが一喝すると、兵士の口から信じられない言葉が飛び出した。


「軍を抜け、逃亡した、と」

「な……にぃ……!」


 ダラスの全身から血の気が引いていく。

 もしそれが本当なら大事だ。

 国の根幹を揺るがす大事件だ。

 しかし現在起きているモンスター達の異常行動を鑑みれば兵士の言葉が一番納得出来る答えだ。

 誰か、誰か真実知る者はいないのか。

 

「モンスター部隊に通達、逃亡したグレイトウォーホース達の追撃、及び捕獲。反乱したモンスター達はなるべく生きたまま捕えよ! 数を減らせばそのぶん軍事力の低下に繋がる!」

「は!」

「俺は少し出る! 何かあれば各自連絡!」

「は!」


 ダラスは一息で命令を伝えると、鬼の形相でブリーフィングルームを飛び出した。

 クロードを一番知る人物を探して全力で駆け出した。


「アスター! アスター将軍! どこにいる!」


 軍施設内は混乱の極みにあった。

 赤い警告灯が至るところで発光し、非常事態を告げるサイレンがけたたましく鳴り響く。

 こんな事があってたまるか、とダラスは心の中で毒付く。

 このような事はテイル王国二百年の歴史の中で初めての事であり、あってはならない事だ。

 モンスターと共に生き、モンスターのおかげでテイル王国は大陸随一の軍事力を持つに至ったのだ。

 あの過去に栄光を誇ったロンシャン連邦国にすら引けを取らない強力な国へと育ったのだ。


「クロードオオオォ!」


 ダラスは叫ぶ。

 モンスター達へ一括指令が飛ばせる、どんなモンスターでも召喚し、思うままに操ってしまうテイル王国最強の男の名を。

 もし、もしもだ。

 クロードが軍を抜け逃亡したとなればその力が他国に流れると言う事だ。

 そうすればどうなる。

 明白だ。

 パワーバランスが崩れ、テイル王国の代わりにその国が大陸最強の国家となるだろう。

 当たり前だ。

 クロード一個人が扱える戦力が異常なのだ。

 最弱クラス、ゴブリンやスライムなどのモンスターであれば一万、ドラゴンやベヒーモスなどの最強クラスですら十体、ドラゴンほどではないがそれでもかなりの強さを誇るワイバーンを百体はまとめて召喚出来るような男だ。

 しかも任意の場所にポン、とだ。

 まるでコップをテーブルに置くようにあっさりと苦もなくだ。

 ゴブリン一万匹、一個師団に相当する戦力だぞ?

 いくら最弱といえど一万という数は驚異でしかない。

 数の暴力で轢き殺せる。

 そして一番恐ろしいのは仮に一万のゴブリン軍を殲滅できたとする。

 だがそこで終わりではない。

 また召喚すればいいのだ。

 それこそクロードの魔力が続く限り延々と吐き出される。

 意味がわからない。


「アスタアアア! クロードオオオ!」


 ダラスは頭の中に浮かぶ最悪なシナリオを振り払うが如く大声で叫んだ。

 そして見つけた。

 

「ダラス司令! お呼びですか!」


 廊下の反対側からかけてくるアスターを見つけた。


「アスター将軍! クロードはどこだ!」

「それが……その」


 アスターと合流したダラスが吠える。

 しかしアスターの顔色が驚くほど悪いことに気付き、先ほどの兵士の言葉が浮かぶ。


「まさか……奴が軍を抜けたというのは本当なのか」

「……はい。てっきりご存じかと……」

「俺は郊外任務で今日帰って来た矢先にこれだ!! なぜだ!」

「それが……」


 アスターの口から語られた衝撃的な事実に、ダラスの全身から血の気が引いていく。


「コザアアアア!」


 クロードがブチ切れた経緯を聞いたダラスは怒りを込めて吠え、力一杯壁を殴りつけた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る