メリーゴーランドは思っていた以上に楽しかったし、サーカス小屋みたいなレストランでの食事も美味しかった。

 観覧車には乗らなかった。

 お城の中に入ることもしなかった。

 その代わりよく歩いたし、よく話をした。(いばらと何気ない話をしながらこんなにたくさんいばらと話をしたのはどれくらいぶりだろうとすみかは思った)

 いばらはよく空を見ていた。

 青色の空を。

 その青色の中になにかとても大切なものを探すようにして。

 そんないばらの横顔を見て、すみかは僕たちはいつか、大人になるんだと思った。

 すみかはいばらの言っていた隠しアトラクションを探してみた。

 でも全然ひとつも見つけることはできなかった。

 そしてデートの時間は終わって、お別れの時間になった。

「今日はありがとう。すごく楽しかった」

 フラワーパークの白い門の前でいばらは言った。

 いばらはなにかをすみかに伝えようとしていた。

 でもそれがなんなのかすみかにはわからなかった。

「あのさ、すみか。ちょっとだけ時間いい? 少しだけすみかに話したい大切なお話があるの」ととても真剣な顔をしていばらは言った。

「いいよ。もちろん」とすみかは言った。

 入るときにもらった赤い風船はいつのまにか小さく萎んでしまった。(それでもまだ空に浮かんでいたけれど)

 嫌な予感は確かにしていた。

 本当はいばらのお話を聞きたくないとも思った。

 でも僕にはそれを聞かなてはいけないんだと言う気持ちが今にも泣き出しそうないばらの顔を見ていてそう思った。

「私ね、今度また引っ越しをするんだ。今度はずっとずっと今よりも遠いところに引っ越しをするの。だからもうすみかとは会えたくなっちゃうね」

 と無理やり笑った顔をしていばらは言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る