第23話 女嫌乙女


 

 

 目が覚めた時、俺は病院にいた。

外の景色は一切見えず窮屈に感じていたが、退屈はしていない。

 

「ゆいと君、魚か肉かどっちがいい?」

 

オキナワが話し相手になってくれていたからだ。


肉と答えると生姜焼き弁当が出てきた。コンビニ弁当だが十分嬉しい。

 

「女装してないオキナワって初めて見る気がするな」

 

「そうだっけ?」

 

確か大学生って言ってたっけ。

……ムカつくけど中性的な顔は男女関係なく人気がありそうで、めちゃくちゃモテそう。

 

「しないのか、女装」

 

「今は気分じゃないんだよ、ほら、冷める前に食べちゃおうよ」

 

「ありがと、オキナワ」

 

「君らしくないな、でもどういたしまして」

 

 

 次の日、血相を変えてオキナワが飛び込んできた。

肩で息をして、手にはチョーカーを握っている。

あれ……ヴァルガニカだ。血がついてる……俺のじゃないぞ。

 

そもそもヴァルガニカって……。

 

『ほらおにぃ気持ちいいでしょ?』

 

『嫌だッ! やめろゆい!』

 

『嫌なら抵抗してみてよ』

 

『……ッ!』

 

『それで抵抗してるの? おにぃ、可愛いね』

 

吐き気がする。

気持ち悪い、怖い。

妹に犯されて何も出来なかった、ヴァルガニカを剥がされて抵抗できなかった。

しずくねぇを、裏切ってしまった。

 

……でもあの時。

 

『しずくねぇ! 助けてよ!』

 

魔法か何かで映された映像には、こっちを見ながら知らない男と話しているしずくねぇがいて……見捨てられたんだ。

 

「ゆいと君……落ち着いて聞いて欲しい。スターが、行方不明なんだ」

 

「しずくねぇが……?」

 

「レン達を助けに行ったんだ。二人は無事だったんだけど……スターは帰ってこなくて……レンとトウがヴァルガニカを持ってて……ああ、落ち着け俺!」

 

「待て、どういう事?」

 

しずくねぇがレンを助けた?

俺を見捨てて、レンを?


「レンとトウが巣に取り残されて、それを助ける為にスターが単独で救出に向かったんだ。ボロボロの二人は回収できたけど……スターは……」

 

そうだ、俺を捨ててレンに変えたんだ。

捨てられても仕方ない。

……いや、かなり前から見限られてたのかも。

 

だから、助けに来てくれなかったんだ。

 

「もう……どうでもいい」

 

「……ゆいと君」

 

「しずくねぇは俺じゃなくてレンを取ったんだ! それで自分が危険になって……しったこっちゃない!」

 


 頬に痛み。

さっきまで目の前にオキナワがいたのに、今は視界の端にいる。

 

「ふざけんなよ、お前」

 

初めて見るオキナワの顔だ。

あんなに可愛い顔なのに、動けない程怖い。


 

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