第17話 義妹乙女
フェイスレスが剣を空に向けた。
顔なんてないのに、野太い、響く声のような音がすると、流れ星のような光が空に輝いた。
どんどんと近づいてきて、あり得ない近さになってきて。
「い、いい隕石!?」
混乱するゆいとに隙があったのか、フェイスレスがゆいとに突撃していった。
「ゆいと!」
民家のある方に、ゆいとを連れてフェイスレスが行ってしまった。
急いで助けに行きたい、でも助けに行く事は出来ない。
だって、目の前には居てはならない人がいるから。
「こんな所で何してるんだ、ゆいちゃん」
「何って、お前を殺しに来たんだけど?」
服は巫女服、おそらく美装。
だがどうやって手に入れた?
何でフェイスレスと協力しているようなこのタイミングで?
「人の記憶を消して、私がおにぃの事大好きだと分かっているのに私の前でイチャイチャと……性格悪いよ、アンタ」
「兄妹なんだから、兄の幸せを邪魔するもんじゃないだろ」
ゆいちゃんが手を下にすると、体が急に重くなった。
動けない……訳ではない。
美装の出力を最大にしていれば戦闘は可能だ。
「……これでも動けるって、それ、かなり前のと違うんだね」
武器は持ってない。
この目に見えない力が武器なのだろうか。
それだけなら、まだ……。
「ヴァルガニック・ブーストを発動する。やるよ、ヴァルガニカ」
「はい、ご主人様」
ヴァルガニカ。
今、そう言った。
「じゃ、始めるね」
「早っ!」
目には見えない早さで距離を詰め、一撃貰った。
少女の拳とは思えない程重くて、一瞬呼吸が出来なかった。
「……カハッ!」
「私が受けた苦痛はこんなもんじゃないんだよ!」
殴られた腹部をかばうように体が動く。
だが、それは戦闘中にするべきじゃない。
こんな風に、隙を生んでしまうから。
「さてと……倒れながらでいいから聞いてくれる?」
「このヴァルガニカはね、おにぃのヴァルガニカをベースにバージョンアップさせた物なの。魔法はもう使えないけど、他に凄い事ができるようになったんだ」
まだ手足は動く。
肋骨が折れていているのか、呼吸するだけで胸が痛い。
自己治癒の力もプリンスバトラーにはあるが、この重さに対応する出力を出しながら治癒は出来ない。
「それをどこで手に入れた……いや、今はいい。ゆいとがフェイスレスに攫われたんだ」
今は争うべきじゃない。
ゆいとが攫われたんだ、私とお前の勝負ならいつだって……。
「私の使い魔はよく働くのよね~」
「使い魔だと!?」
「そ、私が地下で捕まえたフェイスレスを使役してるの。このヴァルガニカにはそんな力だってある」
体が重い、でも、それでもゆいとを救わないと。
私の、私の王子様は私が守らないと。
ゆいちゃんが近づいてくる。
引き寄せる力が働き、どんどんと近づいていく。
「何だ、私を引き寄せて昔みたいに遊ぶのか?」
「お前の口からおにぃと別れたいって言わせてやる」
……コイツ。
そんな事しないし、させない!
ゆいちゃんの手に握られたスマホには、ゆいとが映っている。
ヴァルガニカを剥がされ、私服の姿になっていて、チョーカーはどこにも見当たらない。
「私がおにぃのお嫁さんになるの」
「……ゆいとはお前の大切な人でもあるだろ、なんでフェイスレスなんかと!」
「アンタがいけないの。幸せだったのに、頑張ってノルマを達成して結婚目前だったのに、お前らがしっかり守らないから! 本来ならもう結婚してたのに!」
容赦の無い蹴り。
ガードした右腕が痺れるぐらいの勢いで、直撃すれば死にそうな勢いで蹴って来た。
「私の記憶を封印して、私からおにぃを奪ったお前には、奪われる苦しみを味わわせてやる」
ゆいちゃんは本気だ。
自業自得……か?
「ふふっ……そうだよな、自業自得だよな」
それでも、私はアイツを渡さない。
ごめんな、ゆいと。
「ハァ、何言って」
「私の義妹だからって、手加減してもらえると思うなよ」
オーバーヒートの可能性があるし、まだ試作段階。
それに制限時間もあるが、仕方ない。
「コード、"12の針"」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます