第15話 明星乙女


 

 

 

 上空に移動し、すぐにゆいとを探す。

以前のブラックバトラーには出来なかった事でも今のプリンスバトラーなら問題なくこなせる。

 

「いた!」

 

フェイスレスに囲まれそうな親子の為に石を投げて注意を引いてる。

自分も美装を持ってないのに、人の為にあそこまでするなんて。

 

「やっぱり、私の彼氏は違うな」

 

ゆいとの前に着地し、剣を抜く。

 

「美装も持たずにフェイスレスと戦おうとするなこのバカ」

 

「し、しずくねぇ!?」

 

これまでとは違う、格段にパワーアップしたこの美装の力を見せる時が来た。


「ほら、捕まって」

 

「う……うん」

 

剣の扱いには慣れてない、振り回してゆいとに当たったら大変だからどうするか、悩んだ結果。


「しっかり捕まってろ!」

 

「こ、この格好は……恥ずかしい……」

 

ゆいとを抱いたまま、戦う事にした。

片手で剣を振るうのは強敵相手なら厳しいだろうけど、この程度ならッ!

 

「早い……ヴァルガニカと同じぐらい、いやもっと早い?」

 

「喋ってると舌噛むぞ」

 

五体のフェイスレスが皆こっちを向いた。

動きも遅く、攻撃も単調で目を瞑っていてもかわせそうだ。

 

「ヴァルガニカより速度とパワーはある。ま、ゆいとのはパシフィカとヴァルガニカの複合美装だからどっちが上とかわかんないけどなッ!」

 

殴ろうとした腕を切り落として、その勢いのまま首を刎ねる。

その次も、その次も首を落としていくのが呆れるぐらい簡単だった。

 

だが、一つ気になる点がある。

私の知っているフェイスレスは、戦う順番はまず決めない。

襲ってきた個体、邪魔な個体を排除しようと攻撃するはず、なのに。

 

正確に私じゃなく、ゆいとを狙ってきている。

知能が比較的高い個体なのか?

五体もいれば一体そんな個体が混ざっていてもおかしくは無いんだが。

 

「邪魔!」

 

これで四体目、こいつもだ、こいつもゆいとを狙ってきてた。


「やらせるか!」

 

そして五体目、こいつに至っては倒れたフェイスレスの腕を使い、剣のように扱いゆいとを狙ってきやがった。

 

「片付いたな……無事か?」

 

「あ……う、うん」

 

ここのフェイスレスは何かがおかしい。

これも巣が原因か?

それとも……。

 

「あ、あの、そろそろ下ろしてほしいな……あはは」

 

「あ、ごめんごめん」

 

ゆいとを下ろし、ヴァルガニカとスマホを渡した。

それにしても……何だあの顔、ニヤニヤと……緊張が入り混じったような顔。

それにやたらもじもじしてるし、女みたいな行動をするな。


あ。

あー、成程成程。

 

「大丈夫でしたか、お姫様」

 

「ッッッ!!」

 

ゆいとの顔が真っ赤になった。

あー、これは確定だわ。

自分で言うのもあれだけど、王子様に助けて貰った乙女の顔してるわ。

いやそんなのマンガでしか見た事ないけど!

 

「おや、お怪我がありましたか? 見せて下さい」

 

「さ、触らないで! 今はダメだから、ダメ!」

 

前のめりになるゆいとを弄り倒そうかなと、笑いながら考えている時に、さっきあった喧嘩の事を思い出した。


「……私って、めんどくさい女だよな」

 

「……しずくねぇ?」

 

「お前の考えも聞かず、勝手に暴走して……嫌な事たくさん言っちゃった」

 

おかしいな、泣くつもりなんて無かったのに。

涙が、勝手に。

 

「ごめんなさい」

 

謝る私は、ゆいとを見れなかった。

謝っているのに、どうしたら、どういう態度をとったらいいのか分からなくて、不意に出てきた涙を見せたくなくて。

私はうつむくのと同時に、頭を下げた。

 

「……し、しずくねぇ!」

 

そんな私を、ゆいとは抱きしめてくれた。

さっきまで私が抱いていたのに、その時には感じなかった男らしさ、安心感が伝わってくる。

 

「俺は……えっと、し、しずくねぇが彼女でよかったと思ってる! か、カッコいいし、可愛い所もあるし、さっきなんて、美人だしイケメンだし……」

 

ギュッと、抱きしめる力が強くなった。

 

「見た目だけじゃない! 俺みたいな変態を受け入れてくれて、日常から支えてくれて……感謝してる」

 

私も、ゆいとを抱きしめる腕に力を入れた。

 

「俺はずっと、しずくねぇの彼氏でいたい、このポジションは誰にも譲らないし、俺は……オキナワやレンの彼女、いや彼氏か……とにかくあの二人とは絶対に変な関係に、しずくねぇを裏切るような事はしない! だから」

 

「……ま、まだ、俺がしずくねぇの彼氏だって事で……その、いいですか?」

 

「うん、大好きだよ、ゆいと」

 


 落ち着いてから遺体の処理を後から来た乙女の人間に任せてる手続きを終え、私達は宿に戻った。

 

「……手、繋ご」

 

今日のゆいとはちょっぴり積極的で。

 

「ん。あ、後さ、彼女からお姫様扱いされて興奮するのは止めときなよ? 私じゃなきよドン引きだから」

 

「う、うるさい! いいんだよ! 彼女はしずくねぇだけなんだから!」

 

「そりゃそうだ。……それと、一生彼氏ってのはおかしいから言い直して」

 

「それって……はぅ」

 

そんな彼にご褒美をあげる事にした。


「ん……何だ、嫁にはしてくれないっての?」

 

「……い、いまのって……き、キキキ……」

 

「おいゆいと……気絶してる? 嘘だろ? キスで気絶って、マンガみたいな事すんなって!」

 

「はぅぅ……」

 

ゆいとの唇は、優しい味がした。

 

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