その頃の誰か
「シータ、本当に他の奴の場所がわかんねえのか?」
「肯定、何度も同じことを言わせないでください。」
荒れた道の中、二人の男女が歩く。片方は軍服に身を包んだ
両者ともに、長い眠りから目覚めた古代の騎士であり、七大騎士にも数えられる強者である。
「まさか、事前にシータに教えてた場所にいないなんて事があるとは予想できなかったな。せめて大将に会えれば楽だったんだが。」
「否定、シンヤは目立ちます。隠密行動に長けるディーを見つけるのを推奨します。」
「……俺、ディーは苦手なんだよな。」
「警告、任務に私情を持ち込まないでください。」
二人の旅は難航していた。いるはずの場所に行ってもそこには誰もおらず、結局はケラケルウスが探していた状態と変化はなかった。
「補足、そもそもティナラートは今作戦へは参加していませんし、サブナックは所在が判明しておりますが、合流手段は存在しません。」
「そうだな。実質戦力は五人で、残りの三人になるわけだ。大将、ディー、シャウディヴィーアの三人の内、行きそうな場所を探すわけだが……思いつかんな。」
「提案、シャウディヴィーアは後回しにしましょう。予測、発見は困難です。」
シータが付け足すと、余計にケラケルウスは難しい顔をした。
世界中、しかもダンジョンや海底を含む全土から、人を探す。正直に言ってしまえば不可能に近い。しらみつぶしなど論外であり、知恵を絞ることが要求される。
「……立案は任せる。昔から兵学は苦手だし、俺ができるのは現状維持までだ。」
「承諾、元よりそのつもりでした。提案、ディーを探しましょう。一番常識的な場所にいそうなのがディーです。」
「了解だ。確かに大将は天然なところあるし、ディーが一番見つけやすいかもな。」
そうこう歩いていると、ふとシータが足を止める。
「どうした?」
「報告、敵性個体を発見しました。」
「久しぶりだな。結構数は減らしたんだが、まだ残ってるか。」
ケラケルウスも足を止め、手を空へ掲げる。それに呼応するようにして、空を切る音が聞こえた。
既にこの世には数個しか存在しない神の武器、神器の一つ。白き破壊の斧、神斧『ブリオン』。人の大きさほどあろう斧を、ケラケルウスは片手で振り回す。
「一体どこから人員を補充してるんだろうな、名も無き組織はよ。」
「命令、口を動かす暇があるなら早く戦ってください。」
「はいはい。相変わらずの効率重視だ。いつもなら、シャウディヴィーアが言われてたんだけどな。」
二人の旅は続く。別れることになったかつての仲間を探しながら、宿敵をその手で倒し尽くしながら。
「――行くか。」
世界を救う為の旅は、続く。
閉じた世界で、どこまでも閉じた世界で、自分の命を実感した。
初めはよく分からなかった。どうして自分がここにいるのかも、これから何をすれば良いのかも。何もかも、分からなかった。
だけど時間が経つにつれ分かってきた。
自分の使命を、在り方を、自分という存在が一体、どういうものなのかを。
嫌悪した。恐怖した。憎悪した。怒り狂えた。泣き叫んだ。だけど、自分は自分でしかなかった。変われなかった。変えたくても、自分の底の根源は、変わる事ができなかった。
自分はつまるところ、無能であったのだ。正しい道に進むには力が足りず、悪しき道に進むにも力が足りなかった。志だけは高かった、何も変えられないただの無能であった。
狂ってしまえば殺され、正しくあり過ぎても殺される。その中間に位置する事を義務付けられた自分は、次第に自分の命が、虚に見えてきた。
だから、逃げた。
何の目的もなく、何の理由もなく、ただこの窮屈な世界から逃げた。それによって、他ならぬ自分が自分を責めると知っていて、ただ逃げた。
逃げた先は、袋小路だった。当然の話であるが、逃げたものへ与えられる選択肢は、異常に狭かった。その内、どんどん狭まっていて、自分は何もできずに苦しんで死ぬのだろうと、それだけの予想はできた。
――そんな
糞みたいな奴が変わるには、絶対に切欠がいる。いきなり変われるのなら、自分はこうはなっていなかった。
だから切欠だ。切欠が必要だった。自分の体を奥底まで貫いて、それだけじゃなく永遠に抜けない程の大きな、力強い切欠が。
そして幸運にも、自分はそれに出会った。
最初は苦悶した。だけど少しずつ笑えてきて、自分の命が確かに、そこにある事を理解した。そして、地獄へと飛び込んだ。
仏教の地獄とは、言わば新たな自分のスタートである。確かに苦しいが、それで自分の全ての罪から解き放たれ、再び輪廻に加われるのだから、罪人への救済と言っても過言ではないかもしれない。
それは逆の見方をするのならば、罪から逃れる為には地獄を抜けなくてはならないのだ。
ならば嬉々として地獄へ行こう。確かに今は苦しいかもしれない。死にたいかもしれない。だが、罪に囚われ、死にゆくだけの自分より遥かにマシだと。自分はそう思えた。
何年も、辛かった。だけど変化はあった。
仲間ができた。沢山の迷惑をかけるけれど、自分を仲間だと思ってくれる奴に会えた。
強くなった。今まで何もできなかった自分でも、できる事ができた。それだけでも価値があった。
そして今、自分は何より、自分でいられた。
これは、誰かの追憶である。
情報の源流、全てが記憶される所。
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