3.入学試験
入学試験の日。俺は軽く絶望した感じで壁にもたれかかっていた。
午前の間に筆記試験を終えたのだが、いやまあ解けない。一応試験までの間、国立図書館で勉強はしていたのだが、無理が過ぎる。
なに十大英雄を全員答えろって。知らねえよそんなもん。一人も書けなかったわ。
「かなり一般常識からも問題は出ているのよ。いくら学園に入った後も授業でやるとはいえ、最低限は覚えておきなさい。」
「……というかお嬢様。魔法を学ばせる学園なのに歴史だとかそういうのって必要なんですか?」
「頭が悪いくせに魔法が上手なんて使いにくいわ。一般常識も含めて教養がある人間が結局は世界で活躍するものよ。」
それは一理ある。
決して必須ではないが、なにかと学があって損をする事はない。というかここで習う内容って割と一般常識に近いってのもあるんだろうけど。
それに試験でこういう問題を出せばやる気がないような奴を弾ける。
道理ではあるが、そもそも試験を一月前に知った俺からするとどうしても釈然としない。
「ほら、シャキッとしなさい。これからこの体育館であなたの大好きな魔法の試験よ。こっちで満点を取れれば受かる可能性は高いわ。」
その言葉に俺は自分で自分を奮い立たせ、背筋を正してしっかりと立つ。
そうだ、俺には魔法があるのだ。大丈夫大丈夫、まだやれる。
「そ、そうですよね。魔法と筆記の点数が半々ぐらいですから、まだこっちで満点をとればいけますよね。」
「ええ、だからそう言ってるじゃない。そろそろ始まるわよ。」
ここは体育館だ。しかもかなり広い体育館で二階には観客席がある。そこに俺たちのような受験生が無秩序に集まっていた。
どいつもこいつも十歳にしては妙に落ち着きがあるやつが多い。恐らくは教育を受けた貴族が一定数いるとみていいだろう。
逆に言えば騒がしい奴は平民だろうという想像ができる。
「これから魔法審査を行う! 受験番号に分かれて行うため、校庭に移動して試験官の指示に従うこと!」
その声が聞こえて、体育館にいる人が一斉に動き始める。
「それじゃ、やるわよアルス。」
「分かりましたよ、お嬢様。」
ま、がんばろうか。取り敢えず受からなくちゃ始まらない。
当然だが、俺は本来の出願期間を過ぎてきた。ならば受験番号は最後に決まっている。その証拠に俺以外の人はもう終わったからか、殆どがもういない。
そして最後に俺の番となった。
「最後だ。受験番号と名前を言え。」
「受験番号968番。アルス・ウァクラートです。」
968、つまりはそれは受験した生徒の総数である。その中から確か三百人程度が合格となる。決して誰でも入れるようなところではない。
むしろ今年は例年より少ないとお嬢様も言っていたしな。
「最初に魔力操作だ。あの的に何でもいいから魔法を当てろ。」
「分かりました。」
距離はおよそ10メートルほどか。そこそこの大きさの木の円形の的が簡素に立っている。
これは言外に10メートルにも届かないような魔法しか使えない奴はいらないと言っているのだろう。
俺もこの程度は余裕だ。威力を度外視するなら、200メートルでも届く。加えて言うなら、10メートルを外すような魔法使いは魔物も殺せないだろう。
「『
とどのつまり、外すわけがないというわけだ。
俺の放った銃弾型の魔法は寸分違わず的の真ん中を貫いた。
「ほう……よし。なら次だ。」
そう言うと試験官は指を弾き、木の人形を作り出す。一般的にゴーレムと言われるものであろう。
それはおよそ2メートル程の大きさで、そこらのガキなら泣き出してもおかしくないほど威圧感がある。
「壊してみろ。」
「分かりました。」
悩む事なく返事をする。
わざと脆く作られたゴーレムなんて壊すなど容易い。明らかに魔力が薄い場所がある。普通なら狙わない右腹の部分。そこをつけば終わりだ。
別に高威力の魔法を使うまでもない。
「『
火の光線は真っ直ぐゴーレムの弱点を貫き、体内からゴーレムの体を燃やし尽くす。
「よし、分かった。もういい。帰っていいぞ。」
「え、いや、でも他の人はもっと色々な事してましたよね?」
「第四階位の魔法もどうせ使えるんだろう。文句なしの満点だとも。その年でこれだけの魔法が使えれば十分だ。」
まさか、満点を試験中に言われるとは思わなかったよ。
というか味気ないな。もう誰も受験者いないし、誰も『何だあいつは』みたいな事言ってくれないし。
いや、別に称賛を受けたいわけじゃないけど。それでも誰かに褒められないよりかは褒められた方がいい。
「それじゃあ、ありがとうございました。」
「努力を欠かさぬようにな。次は教師として君に会えるのを楽しみにしておこう。」
俺はそう言ってその場を後にした。今、学生寮に住んでいるので別にこの学園から出たりはしない。
校庭を出て、学生寮への道へと進んでいくと一人の人影が見えた。
最初は輪郭程度しか見えなかったが、次第にその姿はハッキリと見えてくる。
その男は仁王立ちで立っており、ずっと俺を見ている事から俺を待っていたようだ。多分同い年ぐらいだろうなと思えるぐらいの背丈をしている。
「なのれ。」
「いや、それはこっちの台詞なんだけど。」
そっちが待ち伏せしといて言うことじゃないだろ。しかも何でこいつはこんなに偉そうなんだ。というか腰に剣差してるんだけど、不審者に近いのはそっちだろ。
「ぬ、すまん。礼儀が足りていなかった。なのろう。」
俺の想像より遥かに直ぐに了承して、少し驚く。
「俺の名はフラン。フラン・アルクスという。さて、次はそちらの番だ。なのれ。」
色々と疑問に思うことはあるのだが……まあいい。多分これはいいえって言うと永遠に進まないドラクエタイプだ。
「アルスだよ。アルス・ウァクラートだ。」
「よし、感謝する。ではさらばだ。」
「待て待て待て待て待て。」
俺はその場を去ろうとする男、フランの腕を掴んで止める。
直ぐにフランは足を止め、振り返る。そして心底不思議そうに次の言葉を継ぐ。
「なにゆえ?」
「何で名前を聞いた。お前が納得しても俺が納得できてない。」
「そうか。俺はおまえの名前が気になっただけだ。その異常な魔力を見れば嫌でも気になる。」
俺の魔力が?
「さて、もうよいか。」
「いやちょっと待て。まだ一つ聞きたいことがある。お前はこの学園に通っているのか?」
「俺も新入生の一人だ。しかしお前は魔導部門、俺は武術部門だ。」
いや、そうだろうとは思ってたけど。
この学園には魔導部門と武術部門がある。見たままの違いだ。魔導を勉強するか武術を勉強するかどうかの違いでしかない。
「ではさらばだ。また会おう。」
今度ばかりは呼び止める理由もなく、そのままフランはこの場を去って行った。
なんなんだあいつは。
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