6.実戦

 七歳になった。七は縁起がいいらしいし、丁度いいから魔法についての事をまとめよう。


 ①魔力とは万物に宿る力である。魔力は人であれば心臓で生み出され、血管を通って身体中に魔力は行き届く。


 ②魔力とはその生物の思考を読み取り、体のように動いてくれるものである。しかし人の体は想像と同じようには動かないように、魔力も思った通りには動いてくれない。

 使いこなすには練習が必要となるわけだ。


 ③魔力量は生まれながらに決まっているとかそういうわけではなく、魔力を圧縮させたり、魔法を使用して魔力を体に馴染ませるたびに魔力を体に宿す量は増えていく。

 そして基本、全体の魔力量が増えれば心臓の魔力を生み出す能力も上昇していく。


 ④生物の体内にある魔力を体内魔力。生物の体外にある魔力を体外魔力と呼称する。

 体外魔力は思考を読み取る事ができず、体内魔力を使って体外魔力を動かす。これが基本の魔法の使い方である。


 ⑤魔力は外に出ると散っていく。この性質上、魔力は体から離れれば離れるほど操作しづらくなり、魔力が必要となる。


 次に魔法について。


 ①体内魔力で体外魔力を生み出し、それを操作して魔法を使う。これが魔法の基本となる。


 ②魔法には属性が存在し、火、水、木、風、雷、土、光、闇の八つの属性に変化させて使う事ができる。

 また、属性に変化させずに魔法を使うこともできるが、これは無属性と呼ぶ。


 ③基本、魔法とは自分のイメージによって形を成す。そのイメージを成すのに必要な魔力と練度があれば、魔法は使用できる。

 原理はよく分からない。俺は科学者でもなんでもないし。


 ④自分の制御できない魔法などをサポートするために『魔法陣』や『詠唱』を使用する事もある。

 基本的に後衛として戦う魔法使いは連携にも使えるためこれを愛用する。


 これらが俺が学んできた魔法について、である。

 まあもっと詳しく説明もできるが、あまりにも長くなってしまうので割愛させていただこう。 


「『火球ファイアボール』」


 俺の手の上に炎の球が生まれる。大体サッカーボールぐらいの結構大きい炎だ。

 その炎を操り、勢いよく射出させる。狙いはベルセルク。着弾と共に弾けるように調整して。


「ぬるい。」


 しかしその炎は最も容易く叩き落とされ、弾けた炎もベルセルクの体を焦がすことさえ叶わない。

 だからその次だ。俺は走りながら魔力を練り、魔法を発現させる。


「『大穴ホール』」


 その一言と同時にベルセルクの足元の土が大きく凹み、大きな落とし穴となる。

 ベルセルクは何もせずにそのまま落ちていく。


「『土槍アースランス』」


 落ちていくベルセルクを仕留めるために上空から一本の槍が放たれ、ベルセルクの頭にそれが突き刺さる。

 いや、まあ、突き刺さればよかったなあ。


「これで終わりか、アルス。」


 その槍はベルセルクに傷をつけることさえ叶わず、ベルセルクは平然とした様子で穴から出てくる。

 まるで階段を登るような気軽さで穴から出てきたのだ。やはり身体能力がおかしい。物理法則は一体どこに行ったのか。


「……降参するよ、降参。」

「まだ魔力があんのに諦めんのか。」

「いや、まだ練習分の魔力は残しておきたいから。そんなに一気には使えない。」

「そうかよ。」


 ベルセルクは土埃をはたいて落とし、家の中に入っていく。

 さっきまで走り回っていたのはベルセルクの家の庭だ。

 ちょっと魔法を試す意味でも模擬戦をしていたのだが、威力が足りない。それに手数も足りない。


「せめて、多重展開をできるようにしなくちゃなあ。」


 俺の魔力操作の練度では未だに魔法を一つずつしか発動できない。

 達人であれば十近くの魔法を同時展開することもできるらしい。とても今の俺にはできそうにない。


「まだ第二階位の魔法は使えねえのか?」


 ベルセルクが俺にそう聞く。

 階位とは魔法の強さの単位である。階位が高ければ高いほど威力が高くなるが、その分魔力消費も大きい。

 そして階位は一般的に、第零階位から第十階位まで存在する。第零階位魔法はほぼ攻撃力とかはないから、実質魔法というのは第一階位からである。


 俺が使える階位は第一階位まで。第二階位以降は操作がし切れず暴発してしまうのだ。

 別に高い階位の魔法を使えれば強いってわけじゃないけど、せめて第五階位ぐらいまでは使えないと魔法使いとしてはまずいんだよな。


「まだまだ、だな。もうちょっとかかりそう。」

「せめて第三階位までは使えなきゃ、冒険者にもなれねえぜ。」

「分かってる。」


 第一階位の魔法はたかが知れているのだ。この程度の魔法じゃできる事が少な過ぎる。有用性が出てくるのは第五階位から。そこから一気に魔法の便利さは増す。

 まだ遠いところだけど。


「……ん?」

「どうしたの、おっさん。」

「いや、足音がな。」


 その少し後に足音が聞こえてくる。そしてこの庭に一人の黒い体毛をした人狼がやって来る。

 全速力でやって来たのか少し疲れているようだ。軽く汗は流れ、肩で息をしている。


「頭ァ!報告がありますッ!」

「どうした?」

「北方から魔物の軍勢が来ています!その数はおよそ二千!」

「北か……戦況は?」

「既に対応はしていますが、いくつかの家はぶっ壊れました!死者はまだいやせん!」

「よし分かった。直ぐ行こう。」


 ベルセルクは直ぐに立ち上がり行こうとするが、その前に思いついたように俺の腰を持ってそのまま右肩に担ぐ。


「へ?」

「折角だ、実戦も経験しとけ。魔物との戦いは心得といて損はねえ。」


 そのままベルセルクは走り始める。ちょ、おま、持ち方雑! いったあ!


「いきなりなんなんだよ!」

「魔物って知ってるだろ?」

「……知ってるけど。」

「お前が攻撃魔法を使う相手は基本それだ。幼い頃から実戦をこなした戦士は優秀になる。」

「俺は戦士じゃねえよ!」


 魔物、そう魔物である。魔法もあれば魔物もいる。本当にファンタジーだな。

 魔物は一括りにされてはいるが、多数の種族を混ぜ込んで魔物と総称する。その共通した特性は体内に魔石という、人であれば心臓に当たるものが存在するかだ。

 魔物は普通知能が低く、本能的に行動をする。

 種を増やして数が増えたら、縄張りを増やすために侵略活動を始める。今回もその一つであろう。


「ほら、着いたぞ。」


 そう言って俺を地面に下ろす。ベルセルクがいるのは集落の中央。そしてさっきの人狼が言ってた事が本当とするならここは集落の北側なのだろう。

 そこら辺に何体もの魔物がおり、それを人狼達がどんどん倒していく。

 魔物は一メートルほどの背丈と緑色の体をしていた。それぞれが様々な武器を持っている。恐らくはゴブリン。

 少なくとも俺が見渡す限りにはゴブリンしかいない。


「ゥェッ!」


 俺は口を抑える。そして戦うということは死体ができるということだ。これだけのゴブリンの死体があれば思わず目に入る。現代日本で生きた感覚が、どうしてもそれを拒絶する。


「気持ち悪いなら先に吐いとけ。それで楽になることもあるからな。気持ち悪さを感じながら戦う方が致命的になる。」


 そう言ってベルセルクは俺を置いて魔物を倒しに行った。

 ゴブリンとはいえ内臓が剥き出しになったりだとか、血が吹き出てるのを見て平静でいるってのが無理な話だろ、マジで。あ、無理。吐く。


「うげぇ。」


 なんでいきなりこんなところに連れられて、こんなグロい光景を見なきゃなんねえんだよ。口の中の気分が最悪だわ。


「『火球ファイアボール』」


 俺は火の球を生み出し、即座に放つ。それはこっちに近付いてくる一匹のゴブリンに当たり、吹き飛ばす。

 一撃では死なない。俺の魔法は未だにその程度でしかないのだ。


「……嫌な感覚だぜ。」


 これほどの大型の生物を殺す。

 だが、一度吐いてしまったせいかどこかやけくそになって来た。ああ、もうやってやろうじゃねえか。

 魔力はまだ十分ある。


「絶対に許さねえからなあ、おっさん!」


 俺は魔力を練り始めた。

 その後、何体か魔物を倒した辺りで魔物は全部いなくなったが、途中から殆ど記憶は残っていなかった。

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