幕話:No Humanity 文書① 読み飛ばしてもok


:「// 本文は故リーブスの手記より抜粋:対内向けメモとして保管」

:「分類:SECTOR-9O //極秘機密」

:「リーブス氏は襲撃に遭い爆破により死亡」




 リーブス博士の死去に伴い、本報告書は中央情報査察局データ保全課により《永久保存指定文書》として改めて機密指定が見直され、死後情報処理規定第4章b項【理論遺志継承】に基づく後任継承権の凍結が決定された。


 これにより、当該技術に関する理論的発展、または社会応用に関する全プランは後任者再改定がなされるまで一時凍結状態とされている。相次ぐプロジェクト関係者の死亡に伴い、証人者及び研究資料保護の目的によりこれを制定。



 ──なお、これら死亡事例は外部介入による物理的消失を含むものと判明しており、該当事件による資料および証言は回収不能となっている。現場痕跡より、従来の人体破壊手段では説明のつかない位相干渉痕が複数確認された。

 生存者の記憶からも該当時間帯の情報は欠落しており、いかなる尋問・検査をもってしても、事実の再構築は不可能であった。犯人は極めて高度な情報消去能力を有しており、物理的証拠・映像記録・目撃記憶のいずれにも痕跡を残さず、対象者の存在そのものを位相単位で消滅させる手段を用いたと推定される。





 ただし、以下の理由により、本記録文書の物理・デジタル双方における保管処置を実行し、今後の検証と記録保存に資する。


【保存理由】

・本文書は、魂令技術の思想的原点と研究者倫理の輪郭を明示する貴重な初期記録である。


・文中における魂接続に関する倫理的反省および哲学的警鐘は、以後に続く技術論争の基点となりうる。


・リーブス個人の思想的軌跡、および“魂”という領域に対して彼がもたらした知的フレームは、魔術史・精神医療史の両面からも残存価値が高い。




 本ファイルは、今後、学術倫理管理委員会および統合臨床研究機関の審査を経て、アクセス権限を再定義することとする。


 現時点では閲覧者をSECTOR-9O認証保持者に限定し、同認証を持たぬ者による無断接続は直ちに違反行為と見なされる。





【結語】


 リーブス博士の死により、魂令技術は再び「封印されるべき技術」として世界から消えるかもしれない。だが同時に、それが人類の進化を阻むものであったのか、あるいは真に理解するべき未来の礎だったのか──その問いは今後も残り続ける。


 彼の残した思想、そして記録。それは、未来の我々に向けられた質問である。







【謝辞】

 本報告書の作成にあたり、多大なる協力と支援を賜りました関係各機関および研究機関に深く感謝申し上げます。


 とりわけ、ソウルインターフェーストランスエッジ開発初期段階における基礎理論構築および初期臨床支援に尽力されたフェドラ王立臨床記憶研究所、精神外傷再建センター、中央情報査察局の皆様の貢献は、本研究の進展に計り知れない影響を与えました。


 また、魂波形収束実験における多数の被験者とその遺族の方々の理解と勇気に、心より敬意を表します。彼らの協力なしには、我々は魂の接続という未踏の領域に踏み出すことは叶いませんでした。


 そして特筆すべきは、本技術の根幹にある精神構造安定モデルの確立に不可欠であった独立戦術情報統制部隊「群兵」の存在です。彼らが提供した魂の波形および戦闘下精神データは、我々の研究において決定的意義を持ちました。その存在の機密性ゆえ詳細は割愛しますが、彼らの実存と意志は、まさにこの技術の核を成すものです。


 本報告が、人類と心の本質への理解を一歩でも前に進める礎となることを願ってやみません。



【本文】


 人間の心は大きく謎に包まれている。

 新開発されたソウルインターフェーストランスエッジは、我々に謎の解き方を教えてくれる。

 

 魔術の進歩に伴い、魂位相の解明と、魂本来が持つ記憶保持の性質にメスがいれられた。


 魂とは、感情と記憶の連続体である。人間の「自分らしさ」の正体とも言える。



 往来の研究により、これら魂は固有の波形を持った情報体であり、先行研究では改変によって身体改造が容易となるのは明らかになっている。


 理論上では、位相変調によって他者との接続や転写が可能だとされている。


 我々はこれらの技術に先立ち、魂の移植を行った臨床試験を行った。



 被験者たちは、精神不調を訴えた患者。


 モデルとなる兵士の魂と一般市民の仮設したセーフ記憶領域を移植させた。

 どちらも死亡済みの検体である。



 結果は素晴らしいものだった。移植前と後で、脳活動における被験者の精神が大きく変化していたのだ。

 被験者の脳構造を測定した結果、明らかな改善が見られた。


 成功した生成記憶は、保存が可能であったので、それまでに多くの転用を行うことが出来た。詳細は別紙を参照すべし。



 彼等の精神は、良好の状態を維持している。我々は、これにより効率的な社会インフラを運用できるだろう。回復不能とまで言われた脳の修復も可能になるやもしれない。


 また、被験者たちは、移植によって人格が大きく変化したが、これは被験者たちが元から有していた性質であると結論付けられた。


 つまり、魂は人間の精神に本質的に影響を与えるということだ。この発見は、人間の心とは何かという哲学的な問いに対して重要な示唆を与えるものである。



 心理的トラウマに新たな切り口を作り出せるものだった。


 それは、もはや比喩ではない。魂は波であり、かつコードだ。記憶の粒子が混ざり合い、別の誰かの思い出が、自分の過去として再生される。


 記憶の性質は、捉えどころがなく不均質でありながらも俯瞰的である。


 過去数世紀では、プリースト及びネクロマンサーによる、催眠療法、神経学音楽療法、徒手筋力テスト、薬物治療法が数多く行われ、対象者は幻覚や幻聴などを発揮するように極めて脆いものである。


 魂の移植は、記憶への混入が入り混じり、しばしば副作用の混合記憶を引き起こす。


 この副作用は記憶の区別がつかなくなる状態であり、自己認識の錯乱、感情反応の逆転、果ては他者の感情を自分の体験として再生する現象へと発展する。


 しかしながら、この状態こそが、我々が求めたの証明となる。


 他者記憶を介してのサイコドラマは患者が体験することにより、トラウマ防止や克服を促し、海馬記憶への強化が促進される。

 テスト前の精神強度を測定することでこれらは確認された。


 これは治療薬をセットに投与させると劇的に効果がでる。


 驚くべきは、特定のソウルモデルを用いた接続によって、人格の統合度や情緒の安定度が飛躍的に改善された例だ。


 被験者のひとりは、かつて幼少期の虐待記憶に悩まされ、自己破壊的な行動や自傷を繰り返していたが、特殊部隊である群兵の魂を介した接続後は、明確な使命感と合理的な判断能力を獲得し、最終的には社会復帰を果たした。


 統合失調症や境界性人格障害への治療が可能になるのだと判断付けられた。

 臨床チームはこれを適合的転写と命名している。 




 だが、全てがうまくいったわけではない。

 一部の症例では、魂の波形が激しく拒絶反応を起こし、異常収束状態に陥った。


 患者は数十秒のうちに意識を喪失し、無限ループ型幻覚を起こしながら昏睡状態へと移行した。

 この現象は、魂の固有位相と精神変換との不一致によって発生したものであり、我々は現在これを魂位相崩壊症候群と呼んでいる。


 結論を述べるならば、ソウルインターフェーストランスエッジとは、単なる治療装置ではない。

 他者の魂を接続し、世界を再設計するための技術である。




 なお、接続対象となった独立戦術情報統制部隊「群兵」には、戦闘用に最適化された支援機能が搭載された。


 彼らの精神構造には、戦闘時の生存率を最大化するためのカスタマイズが施されており、魂由来の戦術アルゴリズムと呼ばれる情報群は、リアルタイムでの危険区域判定、反応速度の強化、潜在的脅威の検知を可能とする。


 さらに、魂波形拡張処理を通じて戦闘支援システムを一新させた。

 前頭葉へのインターフェース拡張に伴い、身体改造も併せて行った。


 このシステムは、魂の深層記憶から抽出されたデータを通じ、対象者の視界と直感を拡張し、爆発物の識別、マナ経由による即時ハッキング、壁面への接着行動や空間跳躍の支援など、多岐に渡る戦術的運用を可能とする。


 接続者に一部伝達・転写されたという形が、患者の行動力と精神統合の飛躍的な向上に寄与した事実から分かる通り。


 これは単なる心理的効果ではなく、魂の持つ情報そのものがシステム的作用を持つことの実証であり、ソウルインターフェーストランスエッジの応用範囲が、治療を越えて戦術的強化や拡張にすら至ることを意味している。



 だが、すべての接続が成功するわけではない。


 実戦下において、任務中に四肢の一部または全てを失った兵士に対し、緊急的に本装置を装着させた症例が存在する。彼らは身体的再構築における応用テストとして、魂波形による義肢統合および行動補助機能の適用対象とされた。


 だが、接続後、全身の神経系が異常興奮状態に突入し、数分のうちに心肺停止に陥った。等しく対象者は全て死亡した。

 臨床解剖の結果、魂の波形位相と神経電位の乖離により、全身性ショックと脳幹反射の崩壊が誘発されたことが判明している。


 

 


 これらの課題がクリアされれば、教育コストを大幅に引き下げ、特別な訓練もなしに優れた兵士を作成させるプロトコルとして最適である。


 すなわち本技術は、脳という物理的制限を超え、魂という情報媒体を通じて「ヒト」の限界を再設計する試みである。


 従来の義肢や視覚補助装置といった身体的な補綴を超え、感覚・直感・判断力といった内的な処理系統そのものに手を加えることが可能となった。


 壁を介して視界に重ねて浮かび上がる敵影、脅威と認定された対象の自動マーク、思考を経ずに身体が最適解を実行する即応制御もしてくれる。


 そして特筆すべきは、これらのインターフェースは、決して機械的・人工的な装置ではなく、他者の魂という「人の記憶と経験」から抽出された自然構造によって構成されている点である。


 つまり、これは人工知能による予測ではなく、「経験に基づいた人間たちの知見」そのものであり、決断の速度と確度を兼ね備えた実戦知性である。


 この「ヒューマンインターフェース」は、今後、戦闘のみならず災害救助、対人交渉、医療現場などあらゆる高度判断領域において応用される可能性を秘めている。




報告レポート終了




 追加項目

 ※こちらは後に削除するように!!!!



 中央情報局長 同士カリガラへ


 私、個人からの警鐘を記載する



 人間の心を解明するにあたって、最も障害物となるのは我々自身である。


 我々が行う実験や試験、そして、道徳心への疑いを持ち続けなければこの技術も発展の見込みもない。

 かつての独裁者や手段を問わない者達にゆだねられれば、これを止められる社会は存在しない。


 魂令技術はその良心のない国家、または権力者に三度牛耳られ、その不確かな目的なために利用されるのは間違いである、いづれ悲劇を招くだろう。


 我々の技術は、五十年の年月で過去四世紀以上の技術革命を遂げた。

 個々が抱える心理的トラウマを改善できるのだと立証できたが、実用段階ではない。


 助手達の間では、人類の最も織りなすべき問題である死への超越がなせる。そう考える者も少なくない。

 だが、私は異なる見解を持っている。


 魂の接続とは、あくまで患者個人への社会復帰手法に過ぎない。


 この技術によって、記憶は保存できる。感情は再現できる。意志は模倣できる。だが、それは生の継続ではない。


 死とは情報の終端ではなく、識別子の消滅である。魂がどれほど精緻にトレースされようと、それはオリジナルではない。


 我々が行っているのは再現であり、代替であり、精神治療だ。


 だからこそ、我々は驕ってはならない。

 異世界から渡来した魂令技術は確かに人類に福音をもたらしえる。が、それは同時に、再帰的な破壊の回路でもある。

 この技術を完全に使いこなすには、人類そのものが思想を促進転換すべきものである。


 他者の記憶と痛みを受け入れ、自己を保ち続けられる構造を持った存在。

 我々の研究は、いかにして強度ある精神を定義し得るかを測る試みである。


 この技術はもはや、単なる医療の枠を超えている。

 国家は兵士を生むために使い、企業は従順な労働力を設計するために使うだろう。

 倫理的配慮が存在しない環境では、我々人間はただの資源であり、記憶は商品に過ぎない。

 個々の人生は、その選択と自由もなしに最適化と効率の名の下に再構成される。


 これを進歩と呼ぶのか、退化と呼ぶのか。



 倫理とは、境界線を意味する。

 だが、ソウルインターフェイストランスエッジは、その境界線を破壊する装置だ。


 他者と自我の区別を越え、記憶と意志を混線させるこの技術は、個の終焉を招く。


 それでも、私は言う。

 この研究は続けられるべきだ。


 なぜなら、この技術の向こう側に、私たちがまだ見ぬ人間理解の臨界があると信じているからだ。


 我々の心がどこから来て、どこへ向かうのか。過去幾度も繰り返させる争いに終止符をいかにしてうつべきか。

 それを知ることが、我々の進化であり、責務である。



 私は人類の希望のみを信じている


 よりよい返事を期待している




中央統括魂令臨床計画・主任研究者


 リーブス・フェルスター・アイクマン 

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