第3話:会社の無茶苦茶優秀な後輩の場合

//SE パソコンのキーボードを叩く音


「お疲れ様です。先輩に指示いただいた新規プロジェクトの企画資料チェック、完了しました」


「ええっと、先行投資のリターンが得られるタイミングが、あの地域のカントリーリスクや、提携する現地パートナーの技術力からすると、そのまま進めた場合には一年程は確実に遅れますので、そこを修正してあります。さすがに一年遅れると、プロジェクトとして赤字になっちゃいますので、私の方でもう少し技術力の高いパートナー候補を選定しておきました。詳細は先方と詰める必要があると思いますが、これで当面の計画通りに実現できるようなプランになると思います。どうされますか?」


「わかりました。それでは早速、現地のパートナー候補とオンラインでミーティングができないか、連絡してみますね。え? 通訳ですか? 要りません。先輩の予定は適当に入れておきますね。あ、あと、メモ見ておいてください……」


「今日の夜の集合場所です。午後八時で予約しておきました。絶対に遅れないでくださいね」//演技依頼 内緒話なので、耳元で囁くように


 //SE カラオケ店のドアを開く音


「遅い! 遅刻! ここの会計は先輩もちですからね。って、あーもう、敬語が抜けない。何で私がアンタに毎日毎日、敬語使わなきゃいけないのよ」


「大学一年休学して一年遅れで卒業したばっかりに…………。お互い知らなかったとはいえ、よりにもよってアンタと同じ会社に就職して、そして最っっっっ悪なことにやっと営業部に異動できたと思ったら、アンタと同じ部署に配属されて教えを請わなきゃいけなくなるなんて! どんな罰ゲームよ。よっぽど私が前世で罪を犯したか、アンタが今と違って善行を詰んだとしてか考えられないわよ。まったく」


「今日はいっぱい食べて、いっぱい歌うわよ。朝まで帰さないから!」//演技依頼 照れ隠しなどなく、腐れ縁的な気軽さで


「あ、私は生大なまだいね、それに唐揚げと、ポテトフライと、ミックスピザ。注文よろしくぅ。じゃ、私一曲目歌うわね」


//SE ジャ〜ンと曲が終わる音


「ふぅ。…………あのさ、今日のあの資料はなによ! 間違えだらけじゃない。よくあんなの出して恥ずかしくないわね。…………あの資料、メインで作ったのは課長のタヌキでしょ? アンタは別の仕事に忙殺されているから、一次チェックでこっちに回しただけだもんね。わかってるわよ。まったく。本っっっっ当に使えないんだから」


「あのタヌキにできるのは、上へのごまスリとゴルフぐらいでしょ? まぁ、そのゴルフも下手くそって聞いてるけど」//演技依頼 吐き捨てるように


「あーあー、入る会社間違えたなー。つまんない、つまんない、つまんなーい」


「というか、アンタだって、よくこんな会社にいるわね」


「私には遠く及ばないまでも、頭の作りも顔の作りもまぁまぁだし、あんなタヌキやそこら辺の有象無象に比べれば、天と地ほどの差があるじゃない。ウチの部の売上、三割はアンタの顧客でしょ? こんなところにくすぶってないで、さっさと国際部にでも異動願い出すか、転職したほうがいいんじゃないの? 時間と才能の無駄遣いよ!」


「「少し前まではそう思って、異動の根回しと、並行して転職活動してた?」なんで今はやっていないのよ!」//演技依頼 本当に不満そうに


「さっさとアンタがいなくなれば、いよいよウチの部がやばくなるから、そこに颯爽と私がアンタの案件を引き継いで、ついでに新規顧客をバンバン取って、アンタ以上の成果をただき出してやるわよ。そうだ、アンタから後任に私を指名しなさいよ。そうよ、それがいいわ。燃えてきた、燃えてきたぞー!」


「「今はそのつもりはない?」だーかーらー。何でよ! 意味がわからない。え?「私が来たから、一緒にこの部署盛り上げて、一緒に出世して、色々変えていきたい?」」


「くだらない! バッカじゃないの? 仮に二人で部を盛り上げたところで、一緒に出世できるほど世の中甘くないし、いずれにしたって、どっちかが他の部に異動になるじゃない。どんだけ頭の中お花畑なのよ!」


「………………………………」


「………………………………わかってるわよ」//演技依頼 今までのハツラツとした様子とはうってかわり、モジモジした感じで


「アンタ、まだ私のこと好きなんでしょ?」


「………………はぁぁ。本当にバカね。さっさと他の子のこと、好きになりなさいよ!」


「まったく。今まで何回断ったと思ってるのよ。社会人になってから連絡無かったから、とっくに吹っ切れのかと思ったわよ」


「「私にふさわしい男になったら、また告白しようと思ってた」って? 真性のマゾね。…………でもまぁ、アンタはそういうヤツよね」


「答えはもちろん NOよ! さーて、この話はおしまい。ほら、アンタも曲入れなさいよ。はい、カンパーイ」//演技依頼 キッパリと断る //SE グラスを軽くぶつける音


「そうそう、どんどん飲みなさい! 歌いなさい! 夜は長いわよ!」


「………………私がアンタにつり合うようになるまで、絶対に妥協なんかしないんだから! もう少し、もう少しだけ待ってなさい!」//演技依頼 彼に聞こえないように嬉しそうに、囁く感じで


―――――〈演技練習 終了〉―――――――――――――――――


「なんじゃお前さま、歌わんのか? 今度の役のラストの場面がカラオケじゃったので、せっかく久しぶりに来たというのに。もっと楽しそうにせんかい!」


「いやいや、おかげさまで、天狐の役も大成功だったからのぅ。縁起を担いでしばらく役になりきることにしたんじゃ」


「ふふふ、嬉しかろう?」


「それはそうと、お前さまも会社に後輩はいるのか? なんと! 同じような優秀な後輩がいるとな」


「じーーーーーー」//演技依頼 ジトっとした目で見つめる感じ


「お前さま、まさかとは思うが、浮気をしているのではなかろうな?」


「な、何を笑っておる! ワレは真剣な話をしておるのじゃぞ!」


「なに! 後輩は男とな。それを早く言わんかバカモノ。はぁー、焦ったわ」


「ええーい、ワレを焦らせたバツじゃ、近う寄れ、そしてワレを抱きしめろ! ギュッと強くじゃ。お前さまはこの先もずっとワレのものぞ!」


 

「んっ……そのまま……もう少しだけそのまま……」

 

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