第68話 終の技

「さあ、ここからが本当の戦いだ!」


「コイツ! この場の支配者はオレだぁあああ!」


 僕を絶望させるという話はすっかり忘れたように、剣聖は雨霰の如く聖剣を降り注いできた。


「まるで、剣の嵐だな……」


 いや、嵐の方が恐ろしい。


 ボロボロの小屋の中、寒さと死の恐怖に怯え、動けなくなったあの日と比べたら、こんな単調にしか飛んでこない聖剣など、どれだけあろうと恐ろしさの欠片もない。


 自動で動いているだけなら、簡単に弾いて聖剣同士を衝突させられる。


「いかに剣聖と言われている男でも、激情に流されればこんなものよな」


「うるさい! 調子に乗るなと言っている! 残弾無限! 死にさらせ!」


 確かに、いつまでも飛ばされるとなると厄介だ。


「ふんっ!」


 弾いた拍子に剣聖へ飛ばす。


 これなら……。


「へっ」


 響くのは耳障りな金属音。


 撃ち落とすように新しい聖剣が剣聖を守った。


「……そうか。ちょっとばかしヒントをもらった」


「なにっ」


 突然、攻撃が止んだ。


 半球場に浮かんでいた聖剣は空いた部分が補充され、初めと同じ状態に戻っている。攻撃が終わったというわけでは無さそうだが……。


「なんのつもりだ? まさかここにきて諦めたとか言うんじゃないだろうな?」


「言うわけないだろ? 相変わらず理解力が足りてないよな! オマエは魔王の娘すら守るようなやさしー奴だろ? なら、ここの全員ぶっ潰せば、オレの目的は果たされるって訳だ」


「なっ。『ブラック・アウト』!」


「無駄なんだよ! いくら真っ暗にしてももう遅い! 視界が見えなくなろうが、入れ替わろうが、操作されようがどんな状況でも扱えるようにしてきたんだからな。準備完了。手遅れだ」


 グルンと剣は僕から向きを変え、外向きになった。


 つまり、闘技場の観客達の方へと向きを変えた。


「やめろ!」


「へっ! 泣きながら謝ったってもう遅いぜ!」


「うわあああ!」


 剣が放たれた。


 僕が動いても僕を狙う事はなく、ただ、真っ直ぐ観客達を狙って進み出した、はずだった。


「えっ……」


 剣は少し前進したかと思うと、まるで頑丈な壁にぶつかったかのように動きを止め、そして、一斉に粉々になって消えてしまった。


「何が、起きている……?」


「流石に今の攻撃は看過できないのでな」


 光。後光が差してて姿が見えない。


 ただ、空に浮かぶ人達が対処してくれたに違いない。


「なんだてめえ! 誰だてめえ!」


「あとは存分にやるといいリストーマ」


「がんばってねー」


「どうして、僕の名前を……?」


「おい! オレの質問に答えやがれ!」


 しかし、剣聖の質問に答える事なく、二人の影は消えてしまった。


 どことなく聞き覚えのある声だった気がするけど、今は忘れよう。


 僕は再び剣聖の方を向いた。


「正々堂々やれって事じゃないか?」


「そんな挑発に乗るか。うまくいかなかったんなら、もう一度やるだけだ」


「そんな事はさせない。もう終わりにしよう」


「終わりだ? ここまで何もできてないオマエがどうやって?」


 僕の視界には情報が重なる。


 皆んなから届く言葉に関しては僕以外にも見えていたはず。


 なら、リアルタイムの僕の視界だけでなく、これまでの記憶も含めて届けたならどうなるだろう。


「『マルチプル・マイ・ヴィジョン』!」


「はっ! ただ暗いままじゃ、うぐっ。なんだ、これえ! 痛い! うるさい! 頭が熱い。息が。やめっ! やめろって言って……」


 どうやらうまくいったらしい。


 剣聖が、何もないところでその場を転げ回り回っている。まるで、僕がやられていた時のように、誰かに痛ぶられている様子だ。


「かはっ! おい、待て。リストーマ。話をしよう」


「いやです。って、もう僕の声は聞こえてませんか」


「これは、うっ、があっ! ああああああああああ」

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