第65話 再生:神ノルキー視点
〜神ノルキー視点〜
目の前の男の命は風前の灯。どうして生きているのかわからない程の状態。
余程丈夫な肉体を持っているらしい。本来はこのような事はよくないのだが。
「過干渉じゃない? それに、命が奪われたら困るんじゃなかったの?」
「成長のチャンスまで奪う訳にはいかないからな」
「へー?」
「彼が闘技場とやらに辿り着くより早く終わらせるぞ」
「どうしてそんなにやる気なのよ」
「見届けるためだ。さっさと片付ける」
「見届けるねぇ」
途中、我々が干渉してしまったからこそ、彼の成長の機会を奪ってしまったようにも思う。
だからこそ、今回、彼の父が壁として立ちはだかろうとしている事、それ自体を消す訳にはいかない。
ワタシが今やるべきは、彼が全力で取り組めるようにしてやる事だけ。
「世界を隔絶せよ。理を離れ、人の世に現せ」
「今こそ深淵の見える時、来たれ——」
人の奇跡は神や悪魔にとっては造作もない事だ。
それこそ傷を治すなど、そう時間はかからない。
ただ、むやみやたらに語られては面倒だからと普段は使っていないだけ。
今だって、見えないようにして、力を行使しているのだ。
「まさかアタシの力まで頼るなんて」
「時間が惜しいからな」
だが、ワタシではわからない。悔しいが、ワタシが治せるのは形のみ。
仕方がない。
ワタシは人間に詳しくない。どのような状態が人間にとっての平常なのか、判別できる知識が無い。
「……」
「黙っちゃって。しょうがないわね。色々ゴタゴタしてる原因の剣聖でしょ? キス一回で見てあげる」
「は?」
「ん」
「……。今のにどんな意味が?」
「それは自分で勉強しなさい。さて、不意にやられちゃ困るしね。よーく見るわよ」
案外簡単に観察を始めてくれたようだが、キスとはなんだったのか。
状態異常は特になく、変化は見られない。
ただ唇を合わせただけのようだが、果たして……?
「して、状態としてはどうなのだ」
「大丈夫。むしろ前よりいいんじゃない? さっすがノルキーちゃん」
「それでは、ケアももう必要ないな?」
「ないない。問題ないわよ」
「……! 痛みが引いた……?」
「え、フロニアさん。治ったんですか!?」
「いったい誰が!」
「わからん。どこの誰がやったんだよ!」
さて、そろそろ気づいた頃か。
ワタシ達の事は見えていないとはいえ、あまり長居するのもよくないだろう。
「人に気づかれない力なんて、面白い力だよね」
「行くぞ」
「あなた方が、私を治してくださったのですか?」
な、見えている? そんなはず……。
「おいおい。フロニアさん。そこには誰もいないぜ?」
「そうだそうだ。やっぱり無理しちゃまずいんじゃないか?」
「治ったように見えるだけ、って可能性も……」
「いいや。私には確実に見えている。どうか。連れていってください」
どうやら本当に見えているらしい。
ワタシが手ずから治したからか……?
「本当に、フロニアさんには何が見えているんだ……?」
「どうするの? このままこの子を頭のおかしな子にして行く? まさか連れてく訳……」
「お願いします! 連れていってください!」
「ま、そんな訳ないか。ノルキーちゃんだもんね」
「いいだろう」
「えー! 本当に?」
「人間の一人ぐらい増えたところで問題にはなるまい。それに、リストーマがこの男の事を気にして、力が出せなくては困る」
「それもそっか。じゃ、さっさと行こ」
「お願いします!」
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