第6話 ロンドンその2
日本とロンドンが地殻変動で近くにあるという、都合の良い並行世界に入った。
時代としては日本で言う明治時代か江戸時代の末期あたりだろうか。
流石に現代ではパスポートでの入国審査が厳しかったようで、時代的に少し前の世界を見つけてくれたそうだ。
そして、木造のオンボロな
もう歩いて数ヶ月という単位でもあまり気にならなくなった。
それでも、今回は歩きだと速度が遅いということで、今は馬車に乗って移動をしている。
そこで目にした光景は確かに私の知っているロンドンとは全く違っていた。
「建物がみんな木造だらけだ……」
ロンドンに近づいて来る段階から違和感はあった。
レンガ造りの家が殆どないのだ。
「た、確かに見たことない景色だけど……。これって単に
「ううん、これは先に入った世界と殆ど同じ光景なんだ。地殻変動が原因じゃないよ」
「じゃあ、なんで木造建築ばかりなの……?」
「
「っていうことは、もしかして……?」
「そう、先に入った世界もこの世界も、その大火事が起こらなかった世界っていうわけ」
「……火の元一つで世界がこんなに変わっちゃうんだ」
「そういうこと。面白いよね、並行世界ってさ」
正確には、この光景を私に見せることができて満足しているって感じかな。
それにしても、これがいわゆるバタフライエフェクトなのだろう。
蝶の羽のはばたきが最終的に竜巻を起こすというやつ。
創作物なんかだと、大きい出来事のキッカケとなった小さな出来事のことを言ったりするけど、これがまさにそれなんだろうな。
どこかの誰かの火の元一つで街一つの景色が全て変わってしまう。
それくらい人の行動は世界に影響を与えているんだ。
私も大した人間だと思っていなかったけど、私の行動一つで人に何か大きな影響を与えていたのかもしれない。
――いや、もう既にそれはあるじゃないか。
「どうかしたの? 僕の顔なんかじっと見て」
そうだ、私が道端で疲れて倒れていた昴くんを助けて、彼に大きな影響を与えたんだ。
私みたいな小さい人間ですら人一人の人生を変えるくらいのことをしていた。
人間ですらこれだけたくさんいるんだ、他の動物たちも入れたら数えきれないくらいの並行世界が生まれていても何もおかしくない。
私だってそうだ、昴くん一人でこれだけ人生が変わって――変わったというか死んでしまうくらい影響を受けている。
別にそれが嫌というわけじゃない。ただただ凄いと感じることしか出来なかった。
「この世界ではどこで絵を描くの?」
その言葉に昴くんが優しく微笑む。
「そうだね、この世界にはもうクロックタワーとビッグベンがあるんだ。木造建築に囲まれたビッグベンを描いてみようかな」
「あ、でも、先に入った世界でも木造建築のロンドンを見ているなら、そこでも同じ絵を描いていたりしないの?」
「うーん、確かに似たような絵は描いているけど。それでも、それは
照れることをサラッと言うなぁ。
確かに、もし海の絵を描いたらどこでも似たような絵になるかもしれない。
でも、同じ景色は二つとないし、そこに思い出が加わればなおさらだ。
ようやく、少しずつだけど自分の気持ちに気が付き始めた気がしてきた。
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