第10話
しかし、セラヴィの言葉も虚しく、結界に少しずつヒビが入り始めていた。デルフィノはより一層魔力を強めて抑え込もうとする。
「ぐっ……! 耐えろ……! こんなところで侵入なんてされたら、何をされるか……!」
(すごいな、そこまでの実力も無いのに、ガーデン全体の心配までできるのか)
「……え?」
突然脳裏に聞き慣れない声が聞こえ、デルフィノも思わずその手を緩めてしまった。その一瞬を逃すはずもなく、結界を伴っていた箱は弾け砕けた。その勢いで黒い液体がデルフィノとアマレットに襲い掛かり、二人はその場に倒れてしまう。そして、黒い液体から、一人の男が姿を現した。
「お勤めご苦労様。僕の術にここまで耐えたのも珍しい。もっと訓練すれば、こちらの戦力としても欲しいくらいだ」
「……」
「あ、忘れてた。聞こえてないか。これ、光も音も遮るようにしてるもんね。後は助けに来てくれた人に剥がしてもらってね……間に合えば、だけど」
その場に現れた男──グラッツは、足元に倒れているデルフィノに独り言のように声をかける。その際、床に広がる黒い液体を摘むと、それは最早液体ではなく、粘性の高い膜のような物質となっていた。倒れている二人には、それが貼り付いて圧迫されているような状況だった。
「さて、彼女は……奥か。それにしても、無駄に広いなここは……」
そう言いながら、グラッツは瞬時にその場から姿を消した。彼が消えた直後に、セラヴィと他数名が到着する。倒れている二人を見て、普段冷静なセラヴィでさえ、血の気が引いていく感覚があった。
「あ、あぁっ……! デルフィノ! アマレット!」
「司令官、まだ間に合います。下がってください」
ある女性が前に出ると、自身の武器である三叉槍を倒れている二人に向けて構えた。
「呼応せよ【ヒソップ】。其の花言葉は『浄化』。
彼女が淡々と詠唱を唱えると三叉槍が光を発し、水のヴェールが床に広がる黒い膜を押し流し一掃した。顔を覆っていた膜が取り除かれたことで、倒れていた二人は息を大きく吸い込み咳き込んでいた。二人が無事であることに安堵したセラヴィは、彼らに駆け寄り抱きしめた。
「よかった……! ごめんね、もう少し早く気付いていれば……!」
「ケホッ……すみません、侵入を防ぐことが……できなく、て」
「……彼は空中庭園に向かいましたね。私が追います」
「ありがとう、メリヴァ。……お願いね」
咳き込む兄弟の背をさすりながら、セラヴィは三叉槍を持った女性──メリヴァに礼を言うと、すぐに司令官としての顔に戻った。目配せした後、メリヴァは颯爽と大花盤に乗り込み、空中庭園へと向かっていった。その際、三叉槍を振ると、周囲の水が彼女の元へ集束していき、一つの玉となった瞬間に消えた。黒い膜を洗い流され水浸しになっていた二人も、気付けば事が起きる前の状態に戻っていた。二人のことは共に到着していた救護班に任せ、セラヴィもすぐに動ける人員へ応援要請を言い渡した。
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