麻婆豆腐が食べたい!

 .





 麻婆豆腐が食べたい。

 子どもの頃は嫌いだった。


 母が作る麻婆豆腐は豆腐が固くて匂いがきつくて、噛むのも飲み込むのも嫌だった。

 市販で売られている麻婆豆腐の素を使っているのに、美味しくない麻婆豆腐。

 食わず嫌いなのかなと食卓に並ぶ度にチャレンジしたけど、ダメだった。


 母に何か変わった作り方をしてるのかと聞けば、豆腐が型崩れしないように下準備でさいの目に切った豆腐を酢水に浸けているのだという。

 麻婆豆腐には、わたしの嫌いなひき肉も入ってる。

 『それだ!』と母に頼み込んで作り方を変えてくれとお願いした。

 でも、聞き入れてもらえなかった。

 わたしだけに不評で、好評だったから作り方を変えるつもりはないとのことだった。

 わたしは子どもの頃、食卓に並ぶ麻婆豆腐が嫌だった。


 大人になって母の麻婆豆腐の味が変わり、食べられるようになった。

 舌が成長したのかと思ったが、豆腐を酢水につけるのを止めたらしい。

 下準備するのが面倒くさくなったという理由だった。

 酢水につけてなかったら、自分は麻婆豆腐を食べられたことに衝撃だった。

 酢水につけてないから、豆腐が型崩れした麻婆豆腐だったけれど、見た目よりも食べられる味になったことが嬉しかった。

 酢水に浸けたことによってさいの目の形を保った豆腐の麻婆豆腐は見栄えが良かったけど、食べなきゃいけないプレッシャーがわたしには苦痛だった。


 個人的な好き嫌いの話だから、母は悪くない。

 でも、今現在食べている麻婆豆腐を子どもの頃に食べたかったと思ってしまう自分がいるのだった。


.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る