第五十七話 始まりの魔女
「それが……〈始まりの魔女〉と呼ばれる方々の中にいたのですか?」
「ええ、桜色の髪に赤い瞳。歌で人を魅了する魔女———名をセイレーン・アリエル。
「歌唱の魔女……」
それを聞いて、嫌な予感がした。
もしかして美羽があれだけ人気のアイドルになったのは魔術の影響なのだろうかと不安を抱くが、それを察したリヴァは「大丈夫ですよ」と語りかける。
「失礼ながら、ノエルさんが魔女の存在を知らなかったことから察するにアリエル様の血は廃れてしまっているのでしょう。そして、アリエル様の血が目覚めたあのアイドルさんは確かに無意識に魅了の魔術を使っていると思われますが、それはあくまでもほんの少しだけ人の目を向けるだけのもの。物語でよくある完全魅了とは天と地ほどの差があります」
「そ、そうなのですね」
美羽のアイドルとしての人気が魔術によって作られた偽物の人気ではなく、彼女の実力で紡ぎ得た本当の人気であると知れてノエルはホッと安堵する。
「それにしても、まさかノエルさんがアリエル様の子孫だったとは……これからはもっと敬った方がいいですかね?」
「いえ、私はあくまでも夜桜ノエルなのでいつも通りで大丈夫ですよ」
リヴァの表情から、本気ではなくお茶目な冗談というのはすぐに分かったが、それでもあくまでも自分は夜桜ノエルだと伝える。
そのように言われ、リヴァも嬉しかったのだろう。明るい表情で「では、これまで通りノエルさんで」と気さくに話す。
「そういえば〈始まりの魔女〉って他にはどんな方がいるのですか?」
先の話に登場してきた〈始まりの魔女〉。
歌唱の魔女と呼ばれている、セイレーン・アリエル以外にはどのような魔女がいるのかとノエルは少し気になっていた。
「そうですね。私が口で説明するよりはこの写真を……ってノエルさんは読めませんでしたね」
リヴァのスマホには確かに〈始まりの魔女〉についての鮮明な記録が綴られているのだが、その文字は太古の時代に失われたルーン語であるため、ノエルには読むことができなかった。
「では、紙とペンを貸していただけますか? ノエルさんにも読めるように私が翻訳します」
「ありがとうございます!!」
そうしてノエルはすぐに紙とペンを用意し、リヴァに渡すとすぐにリヴァはスラスラと翻訳していき、僅か数分で翻訳を終える。
「こんな感じですかね。ノエルさん、どうぞ」
翻訳が書かれた紙を渡し、ノエルはその紙に書かれた〈始まりの魔女〉の仔細な情報に目を通す。
そこにはノエルと同じように水属性の魔術を得意とする
「まさか、魔女の方に戦闘マニアがおられるとは……」
「ああ、戦鬼の魔女と呼ばれていたカルシャ・ルキ様ですね。確かにあの方はどの文献でも『魔女にしては珍しく、強化の魔術を何重も使用して敵地に特攻し、愛刀である村雨で殺した敵の血を浴びることに悦を感じている異端中の異端な魔女』と書かれてありますからね」
(本当にその方は魔女だったのでしょうか……)
あまりにも魔女らしからぬ性格と行動にノエルは呟くようにそう思ってしまうが、カルシャの文献を見て、ノエルのように思ってしまう者は実は多い。
「とはいえ、本当にいろんな魔女がいるのですね」
「そうですね。それと〈始まりの魔女〉様たちの実力は当時から他者とは一線を画していたらしく、あの中華帝国の侵攻作戦を食い止め、退けたという戦果があるほどです」
「中華帝国のですか!?」
中華帝国といえば、七大国一の武力を持っていると称されている誰もが恐れ慄く戦闘国家だ。
その国の侵攻作戦を食い止めたというのは確かに〈始まりの魔女〉たちの力は強大であると言える。
「ノエル~おゆはんまだ~」
ガチャリと扉を開けて、リビングにやって来たのはこの館の主であるベルであった。
「ベル様」
主のベルの要請を聞いて、時計に目をやると時刻はおゆはんに最適な時間を刺そうとしていた。
「あっ、すみません!! 急いで支度しますね!!」
〈始まりの魔女〉についてリヴァと話を咲かせていたノエルは時間とおゆはんのことを忘れていたらしく、急いで取り掛かろうとしていた。
そんなノエルを見たベルは「あんまり急がなくていいわよー」と一応伝えながら、椅子に座りお気に入りのニュース番組を見始める。
「それにしても……あんたも物好きよね。フウアの従者をやるなんて」
ただニュースを見るだけではつまらないと感じたベルはその場にいたリヴァに話しかける。
「どういうことですか?」
ギロリと陰鬱な瞳を向けられ、ほんの少しだけ後退りしそうになったベルではあるが、彼女もアステルの名を継ぐ第一王族の吸血鬼。後ずさりしそうな足をグッと堪え。反撃をするかのように会話を続ける。
「いえ、別に。ただ……フウアって自由奔放を絵に描いたような吸血鬼でしょ? そんな吸血鬼の従者をするなんて大変かなって」
「確かにフウア様の自由奔放さはすごいです。カリュスに行きたいと言うので、手続きをした数分後にはキャンセルをして、やっぱり雪を見たいからノックスに行きたいというようなお方です」
「奔放さがすごすぎるわよ。なんで、西の国から北の国に行こうとしてるのよ……」
親友の行動を聞いて、相変わらずだなと思っていたベル。しかし、リヴァの言葉はまだ続いていた。
「ですが……そんなお方でも私を救ってくれた方です。あまり侮蔑すような言葉は言わないで欲しいです」
それを聞いて納得したようにベルはフッと笑う。彼女の自由奔放さは厄介なモノではあるが、彼女の本質は優しさに溢れていると。
「分かったわよ。でも……あいつの従者になら、これからも覚悟しておきなさいよ」
忠告のようなベルの言葉に何を今さらと心の中で呟きながら、リヴァはニコリと笑顔を浮かべる。
「はい、私は常にフウア様と共にあります」
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