第三十三話 救出戦の始まり


 舞踏会の乱入。王族吸血鬼の略奪。


 そして、夜桜ノエルが三級魔女であるリヴァに魔女としての教授してもらい、水属性の魔術書の熟読を始めてから二日が経過した。


「というわけで我々の準備は完了したので、これからフウア様たちの奪還へと赴こうと思います」


「あれからまだ二日しか経過していないが、大丈夫なのかね?」


「ええ、問題ありません」


 やれるだけのことはした。準備は万端。と言いたいのだろう。


 リヴァの顔からは後悔も不安もまるで感じない気丈さがあった。


「なるほど、ならば了解したのだが、大丈夫なのか? リヴァ殿」


「なにがですか? もしかして、私たちでは吸血鬼に敵わないから承諾を撤回するとか言うつもりですか?」


「そうではない」


 リヴァたちが吸血鬼と戦うことはティスカが既に承諾した事であり、そこに関してはティスカは口出しをするつもりはなかったが、一つだけ心配なことがあった。


「そこにいるノエル殿は大丈夫なのか……頭から煙が出ているぞ……」


 死にかけているような目で「あう……あうあう……あう……」と口から発し続けるノエル。その姿はまるで壊れたレコードを連想してしまう。


「本当に大丈夫なのか?」


「大丈夫です。六百ページ程ある水属性の魔術書を読ませただけですので」


 毅然とした態度でリヴァにそのように返され、これ以上は踏み込めないと判断したのかティスカは「そ、そうか……」と返すことしか出来なかった。


「それで、私たちはこれから敵の本拠地へと乗り込もうと思っております」


「敵の所在地についてはルナが既に発見している。故に問題はない」


「分かりました。ありがとうございます」


 敵の所在地が書かれているメモをティスカから受け取り、リヴァは懐に納める。


「キミ達の戦いが外部に気づかれないよう細工はコチラがしておくので任せて欲しい」


「分かりました。それでは」


 お礼の意味を込めて、ティスカに一礼をした後にリヴァは未だに壊れたレコードのように「あう……あうあう……」と声を洩らし続けるノエルを引っ張るようにその場から連れて行く。


 そんな彼女たちを見ながらティスカはどうか無事に帰って来てくれと祈るように願う。


「頼んだぞ。二人の魔女よ……」


 ---


「それにしても……少しずつとはいえ二日通して血を抜き続けているというのに、まだ生きているとはね」


 視界を閉ざされ、思考の自由も封じられた目の前のふたりの王族吸血鬼を馬鹿にするようにサルファーは言う。


 しかし、そこには生物として超越し、常識の外側にいる彼女たちに対しての敬意も込められていた。


「はぁ……はぁ……バカにするなよ……この程度で妾たちが死ぬと思うな……」


 サルファーの能力により、視界も思考も奪われた中でできうる限りの虚勢をフウアは取る。


 貴族吸血鬼を相手に屈するなど彼女のプライドが許さないし、なにより———


「カッハッハッ」


「何がおかしいのかな?」


 このような状況で笑い声をあげる彼女の態度に思わずサルファーは目を細める。


 だが、フウアは決して態度を変えることはなかった。


「カッハッハ、お前たちは消されるよ。会ってみて分かったお前たちは所詮有象無象の貴族共と同じだ。これで確信した。ヴァイオレットの中でもヤバいのはあの男……キルド・ヴァイオレットだけだ」


 自分の中にある言葉を全て言い切ったフウアだが、その瞬間グサリとフウアの腹部に刃物が刺さる。


「ああああああああああ!!」


「王女様の言う通り、確かにウチのボスはヤバいのは納得だが……いくらなんでもナメすぎじゃない? あんたの隣にいるお姫様に関しては既に眠りについているというのに」


 フウアの肩に腕を置き、ネーヴェは楽しそうにキシシと不気味に笑う。


 ネーヴェの言う通り、フウアと違い、隣に拘束されているベルは既に眠りについている。常闇の悪魔から力を奪われた彼女にとって、今の状況は耐えられるものではなかったのだろう。


「お姫様も大したことはなかったな。ウワサじゃあ、世界と運命を支配する力を持っているとか、世界をひっくり返すことが出来るとか聞いてたのに。これじゃあ肩透かしだな」


「言ってろ、お前たち如きにはもったいなさ過ぎたんだよ。ベルは……アイツは———」


 在りし日の友の姿を思い出しながら、フウアはこの貴族吸血鬼に挑発するように語る。


「妾たち王族吸血鬼の姫だ。そして妾にとってはかけがえのない友だ。ベルが本気になればお前たちなんて敵じゃないんだよ」


「ふーん、まっ、それならそれで楽しみが増えるからいいんだけどさ。それまでは王女様で楽しませてもらうとしようかな」


 キシシと笑いながら、氷のように冷たいナイフを両手に持ち。視界に奪われているフウアに敢えてそのナイフを見せるように言うネーヴェ。


 いくら相手が貴族吸血鬼とはいえ、何も見えない恐怖や何をされるか分からない恐怖はある。


 だけどもフウアの隣にはベルがいる。この場にはいないが、仲間だっている。そのことを思い出すだけで恐怖など霧のように消えていく。


「来るなら来い、いくらでも相手してやる」


 ---


「ティスカさんのメモによるとここに敵の貴族吸血鬼がいるそうです。さて、どうしますか?」


「もちろん、そんな吸血鬼は倒して、ベル様たちを助けに行きましょう」


 無邪気な笑顔と共に問いかけるリヴァに壊れたレコードから元に戻った見習い魔女ノエルはめいっぱいの笑みでベルの救出を誓う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る